スポーツビジネスは憧れの仕事?―志あるプロ人材をチームに集めるために

ドリームジョブという言葉を聞いたことがありますか?

ドリームジョブとは、子どもの頃から憧れてきた「好きなこと」と「得意なこと」を仕事にする理想の働き方を指します。

特にスポーツ業界は、多くの人が夢に描く職業の一つだったと思います。子どもの頃はきっと“選手”をイメージし、そして大人になるにつれ選手としての立場は叶わずとも、それを支え傍らで活躍するスタッフにもその憧れは引き継がれているのだと思います。

写真 試合中の選手たち
写真 試合中の選手たち

しかしこの考え方は「好き」や「得意」に重きを置くため、働きたい側からの一方通行な要素が強く、働いて欲しい側の会社からの視点が見落とされているような気がします。

好きなこと、得意なこと、会社が求めること

私が重視しているのは、「好きなこと」「得意なこと」そして「会社が求めること」の3つが重なるポイントで働くことです。

好きなことや得意なことは個人個人の資質や選択に依存しますが、「会社が求めること」を明確にするのは経営者としての私の役割だと思っています。これを明示することで、初めてそこに“居る意味”“居てもらう意味”の想いが双方向に通い始めると思います。

イメージ 図

コロナ禍で言語化されたミッション

コロナ禍という前例のない危機が突きつけたのは、毎日の決断とその根拠の説明でした。試合の開催の可否、料金設定の変更や払い戻し、ファンサービスの制限など。

これは私たちスポーツ業界に限ったことではないですが、本当に決断と説明の毎日でした。

それまでもクラブで定めた理念や社訓のようなものはあったのですが、日々押し寄せる決断の基準を明確化するためにも今一度「何のために活動しているのか」を見直すタイミングを迎えました。

議論は7カ月に及び、数百のワードを吐き出し、分類し、組み替えを繰り返し行い、すべての行動の源泉となるクラブミッション「スポーツを通じて、機会をつくり チカラを引き出す。」という言葉に辿り着きました。

写真 無観客で実施した試合。

無観客で実施した試合。

新体制発表会もオンラインで実施した。

内部への浸透と外部への意思表明

クラブミッションをさらにスローガンとして簡素化し、「Chance & Empowerment」(“機会をつくり=Chanceをつくり”“チカラを引き出す=Empowermentする”)という言語化と、それを至る所へ散りばめ、視覚からも内部メンバーへミッションの浸透を図りました。

ポスターのデザインやポリエステルアップサイクルTシャツに表記したほか、社会課題解決を共に進めるパートナー名称を「Chance & Empowermentパートナー」としました。

写真 育成組織に所属する子どもたちのウェアも、背の部分に「Chance & Empowerment」と明記

育成組織に所属する子どもたちのウェアも、背の部分に「Chance & Empowerment」と明記した。

そして発言と行動が一体となり形になるにつれ、積極的に外部にも私たちの意思を表明し、発信も加速させました。

2023年4月にはTEDカンファレンスに登壇。

その結果、「好きなこと」「得意なこと」そして「クラブが求めること」が重なり合う場所へ待ち合わせたかの如く、志が同じ素晴らしい人材が集まり続けることにつながりました。

プロの副業人材を一気に集める仕掛け

2022年シーズンに社会課題解決プロジェクトを5年かけて160つくっていくと公言し、3年目を迎えた今シーズン初めに発表したのが「B-Zebras(ビーゼブラ)プロジェクト」です。

戦略的なコミュニティ形成と地域活性化に取り組むクラブツーリズムと、プロフェッショナル人材の副業プラットフォームを運営する「みらいワークス」とともに3社パートナーシップを組み、スポーツを通じた地域創生に取り組むプロフェッショナル副業人材のチームを立ち上げました。

目を見張るようなキャリアを持つ22名の応募者の中から5名を採用し、「B-Zebras」というチームを作りました。集まった5人は広報、マーケティング、新規事業開発、経営企画、地域コーディネートのそれぞれの分野に分かれ、豊富な知見と経験を基に実力を発揮してくれています。

写真 B-Zebrasメンバーを新体制イベント時に発表。

B-Zebrasメンバーを新体制イベント時に発表。

資金もなく、事業スケールも小さいマイナー競技の私たちが、こうした想像を超える出会いに恵まれるのは、“Chance & Empowerment”というクラブミッションを恥ずかしげもなく強く語り続けることが引き寄せているのだと思います。

スポーツ現場から学ぶ地域づくりに必要な要素

私たち国内トップリーグに参加するスポーツクラブは、勝利のために全力を尽くす責任があります。日々緻密な計画を立て、考えうる最高の状態で挑みます。しかし時として全く期待しない試合結果を突きつけられる場合があります。

大勢の観客の中、期待を裏切り感情の渦巻く視線に晒され、試合後のロッカールームがどんな雰囲気になるのかは想像できると思います。

しかし、そこで感情を引きずっては翌週に控えた試合に悪影響を及ぼすので、その場で数十分のうちに原因究明と解決策の提示、チーム内でのある程度の合意形成が必要になります。ビジネスサイドでいうPDCAを超短期で高速回転させる必要があるということです。

写真 人物 試合中の選手たち
写真 人物 試合中の選手たち

試合結果を冷静に受け止め、改善のためのPDCAサイクルを回す必要がある。

また、スポーツの世界は単年度で在籍契約が結ばれることが多いので、晴れやかなシーズンスタートはある意味カウントダウンの始まりでもあります。

その割に長期ビジョンや中期計画にフルコミットする必要があり、気持ちの落とし所を見つけるのが難しい環境だなと思うことがあります。

しかし最近思うのは、この不確実性にチャレンジする精神や、とにかく成功と失敗の繰り返しの中で見えてくる世界観、そして自分が存在するかも分からない遠い未来に対して真剣に取り組む姿勢は、地域づくりに携わる人材にふさわしい気がしています。

事実この感覚は間違っておらず、その後クラブが地域創生のエコシステムを作る期待を受け、政府戦略に関係することへつながっていったのだと思います。

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佐藤伸也(湘南ベルマーレフットサルクラブ 代表取締役社長)
佐藤伸也(湘南ベルマーレフットサルクラブ 代表取締役社長)

1977年神奈川県藤沢市生まれ。2007年フットサル施設の運営会社起業と同時に、湘南ベルマーレフットサルクラブのGMに就任し、Fリーグ開幕初年度を迎える。2022年4月より同社代表取締役社長。スポーツ庁主催イノベーションリーグ大賞受賞。小田原市など8自治体との包括連携協定を締結しゼブラ事業を推進する。

佐藤伸也(湘南ベルマーレフットサルクラブ 代表取締役社長)

1977年神奈川県藤沢市生まれ。2007年フットサル施設の運営会社起業と同時に、湘南ベルマーレフットサルクラブのGMに就任し、Fリーグ開幕初年度を迎える。2022年4月より同社代表取締役社長。スポーツ庁主催イノベーションリーグ大賞受賞。小田原市など8自治体との包括連携協定を締結しゼブラ事業を推進する。

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