人口を上回るフォロワー数を抱える葉山町のInstagram運用から見えた、新しい自治体広報の形(宮崎愛子氏)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。
千葉県流山市の斉藤勇希さんからの紹介で今回、登場するのは、神奈川県葉山町の宮崎愛子さんです。
avatar
宮崎愛子氏

神奈川県葉山町政策財政部
政策課 秘書広報係 主査

2011年葉山町に入庁して以来、広報紙やホームページなど町の広報を担当する。2015年、インスタグラムに葉山町公式アカウント@hayama_officialを立ち上げ、町の魅力を発掘・発信する企画を開始。行政らしくない文体や写真、担当者一人での毎日投稿などが注目され、現在では町の人口を上回る3.8万フォロワーを有する。一連の企画は、全国広報コンクールの企画部門で入選し、宣伝会議主催「アドタイ・デイズ2018」などでの講演や『「地域の人」になるための8つのゆるい方法 まちのメディアを使う・学ぶ』彩流社(共著)でも発信している。

Q1.現在の仕事内容について教えてください。

神奈川県の葉山町で働いて14年目になります、宮崎です。自治体職員では珍しいかもしれませんが、町役場に入ったときからずっと広報を担当しています。

ところで皆さんは、葉山町がどんなところかご存じですか?

神奈川県の三浦半島の西部に位置し、海と山に囲まれ、皇室の別荘である御用邸がある町です。人口は約3.2万人、町内に鉄道の駅はなく、静かで落ち着いた雰囲気のある地域です。

写真 森戸海岸

これは森戸海岸。もちろん私がドローンで撮影しました👍

そんな葉山町で生まれ育った私の主な仕事は、町の広報紙『広報葉山』の企画や取材、編集をしたり、フォロワー3.8万人のInstagramアカウント(@hayama_official)で町の魅力の発掘・発信したりすることです。撮影や取材で町内を回ることも多く、たくさんの人と話す、触れ合うことができ、とてもやりがいを感じています。

写真 あじさい公園

こちらはあじさい公園から見える富士山。お気に入りで名刺にも使っています。

Q2.貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

広報部門は政策課の秘書広報係で担当し、現在4名の職員が所属しています。

広報紙やInstagramの他にも、町ホームページやLINEでの情報発信、記者へのプレスリリース、FMラジオ番組、YouTubeなど様々な媒体を有しています。広報・町PRに関する仕事に加え、町長・副町長秘書の機能も兼ねている係です。

Instagramの取組みは、2016年の全国広報コンクール企画部門で入選し、広報紙も同コンクール「広報紙・町村の部」で複数回の入選があり、2022年には総務大臣賞を受賞しています。

また、全国70万人以上を対象に、今住んでいる人が「これからもずっと住み続けたい」と思う街を聞いた調査では、「住み続けたい街自治体ランキング〈全国版〉」で葉山町が2年連続第1位となりました。

写真 誌面 広報誌

広報紙でも特集し、住民の皆さんにお知らせしました!

Q3.ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

Instagramのアカウント運用を通じて痛感したのは、「明確な目的を設定することが大切」であるということ。例えば「SNSに公式アカウントを立ち上げ、週に1度投稿をすることが目的」になっている取組みなどはありませんか? 実は、視察や問合せでお話をいただく、多くのアカウントがそのような現状になってしまっています。「手段」が「目的」になってしまっているということです。

スライド 成功事例に共通すること

大学の講義などでは、こんなスライドを紹介しています。

@hayama_officialのアカウントは、人口減少という課題に対し、移住・定住促進を目的に立ち上げました。移住・定住促進という明確な目的があるからこそ、ターゲットを「暮らす場所をこれから探す若い女性」に絞り、立ち上げ当初に若い女性のユーザーが多かったInstagramを選んでいます。そしてその媒体の特徴である#(ハッシュタグ)や写真・動画での発信を活用し、町の暮らしの魅力を直感的に発掘・発信しています。

「今日の写真は何にしよう?」「どんなキャプションをつけよう?」、そんな迷いがあるときに立ち返るのは目的です。「葉山に住みたいと思われる写真・シーンはどんなところか」「住み続けたいと共感を得る言葉遣いはどんなものだろうか」と考えるわけです。

明確な目的設定は、「仕事をする上で当たり前だ」と思う人も多いと思います。しかし私自身、広報紙の編集・発行では「期日までに校了すること」が目的になっているときもありました。そしてそういうときは大概、納得できる成果を得られませんでした。

この記事を読んだ方が「この仕事の目的は?」「今やっていることは目的達成のためになっているか?」と一度考えたり、上司や同僚の方などと共有したりしてくれる機会になると幸いです。

Q4.自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性について教えて下さい。

扱う素材の公平性・平等性についての配慮が必須であることは、自治体ならではかもしれません。特にInstagramでは飲食店やスポットを取り上げることも多いため、「このお店が葉山の魅力だ(他のお店は違う)」などと偏りのある発信にならないように、ハッシュタグを活用して、皆さんからの投稿を呼びかける取り組みとしています。

スライド 町の魅力を発掘して発信する

流れを簡単に説明するとこんな感じ

行政が町の魅力をこれだ!と決めつけることなく、葉山に住む方・訪れた方が感じたものを投稿していただき、そこから魅力を発掘し、オフィシャルとして発信しています。具体的な発掘方法としては、#葉山歩きをつけての投稿が多い場所や最近人気の高まっているところなどを取り上げるといった形です。

人口を上回るフォロワー数のいるInstagramアカウントになり、町内の飲食店からも「うちのお店を取り上げてもらえないか」とご相談いただくことも多々あります。そういうときは上記の仕組みを説明し、「ぜひお客さんに#葉山歩きをつけて投稿してくださいと呼びかけてもらえませんか?」とお話しています。そうすることで町をあげての取組みとなり、今では約14万件の投稿が集まっています。

公平性・平等性への配慮は一見苦労する点にも見えますが、それを乗り越える仕組みを作ることで、多くの人を巻き込むことができました。

【次回のコラムの担当は?】

神奈川県 厚木市 広報シティプロモーション課 主任の前場渓花さんです。

advertimes_endmark

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ