広告会社の壊しかた ―2030年のクリエイティビティモデルへ

広告を退屈にする「前提」を破壊せよ ―コンテンツ・スタジオの挑戦

「マーケティングを、お金を支払う価値があるエンタメとして扱え」。これはアメリカで大人気の缶入り水ブランド、リキッド・デスの創業者の言葉ですが、個人的には完全に同意します。広告のデジタル化とは、すべての広告がスキップできる世界に向かっているということ。事実、課金して広告をブロックするユーザーは増えています。強引に「見せる」広告は残るにしても限界がある。だからこそ私たちは、生活者が「見たい」と思えるコンテンツをつくる作法をみにつけなければなりません。

見せたいものと、見たいもの。広告とエンタメの間にある壁を壊すため、2019年にコンテンツスタジオ、DISCO(Disruption Contents)を立ち上げました。業界でも珍しいクリエイティブ組織の中にあるスタジオです。演出家、エディター、モーションデザイナー、音楽プロデューサーといった敏腕クラフターが在籍し、テレビやYouTubeや動画配信サイト用の番組やミュージックビデオなどを制作しています。NHKと企画から共創している「おかえり音楽室」や、編集を手掛けるフジテレビの「パリピ孔明」などはその一例です。

Disco制作のテレビ番組の一例

ここで培ったコンテンツ制作能力を駆使して、私たちは狙った広告効果を果たしながら、生活者が「見たい」「見て良かった」と思えるエンターテイメントをつくる挑戦を続けています。カンヌライオンズほか、世界中の広告祭で賞をいただいた「スマイルあげない」はその成功例。アーティストanoさんのミュージックビデオとして愛されながら、マクドナルドの採用広告として完璧な役割を果たしてくれました。それだけでなく新しい働き方を示すアンセムソングとしても捉えられています。

最近、大きな話題になった仕事には日産の90周年特別フィルム「NISSAN LOVE STORY」があります。日産のリアルユーザーのエピソードや記憶を元に構成したその内容は広告というより、ショートフィルムとして受容されました。ブランドと生活者のあいだに、深い感情的なつながりをつくる。刹那的な顧客獲得競争に明け暮れる企業が多い今だからこそ、長期的な視点を持ったブランドは際立ちます。

日産自動車90周年記念ムービー NISSAN LOVE STORY

DISCOの編集スペースにいると、どれが広告で、どれがコンテンツか分からなくなるときがあります。すべてがきちんとエンターテイメントとして成立している証拠。正しい進化であると確信しています。

デザインの「タコツボ」を破壊せよ ―ボーダレス・デザイン

日本のデザイン業界は世界的にも高いレベルにあります。すぐれたクラフト力を持つ個人がたくさんいる。にもかかわらず、統合的なブランド体験のデザインは、世界標準と比べて見劣りします。原因はデザインの「タコツボ化」でしょう。グラフィック、プロダクト、空間、ファッション、UX、広告。高度に専門化した分、棲み分けが進み過ぎたのです。

私はこのタコツボを片っ端からハンマーで叩き割っていきたい。生活者にとってデザイン区分に意味はなく、体験はひとつなぎでデザインされていた方がいいからです。

例えば、京セラの「TRUE BLUE TEXTILE」というプロジェクトでは、水をほとんど使わずに美しく生地を染め上げるウォーターレス・プリンター、FOREARTH(フォレアス)を使用。日本で最も透明で美しい言われる仁淀川の水をプリントした生地を開発し、無償で使えるオープンソースの生地としました。生地は著名ブランドによってパリコレでも使用され、ファッション業界に京セラのFOREARTH(フォレアス)を知らしめることになりました。

広告、デジタル体験、テキスタイル、そしてファッションと領域をまたぐデザインプロジェクトになりましたが、すべてひとりのアートディレクターが世界観を統合しています。

京セラ TRUE BLUE TEXTILE

また、北海道猿払村の廃棄貝殻を代替プラスチックとして活用するプロジェクトでは、2023年にはヘルメット(ホタメット)をつくりましたが、今年は清水建設とともにテトラポッドを開発しました。ホタテの殻をコンクリートに混ぜることで通常のテトラポッドよりも耐久性を増しただけでなく、砂資源の使用を省き、CO2の削減を減らすなど環境性能も改善しています。プロダクトデザインはもちろん、広告、展示空間、そして素材を再利用する見えない循環までをデザインする。私たちが目指していきたいデザインの雛形だと言えるでしょう。

ホタテトラポッド / HOTATETRAPOD


水のように変幻自在に、2030年以降にも通用するキャリアを目指したいあなたへ。2024年12月6日(金)から、TBWA\HAKUHODOのクリエイティブとストラテジーのメンバーを講師とする第5期Disruption Schoolが開催されます。Disruption®という普遍的な方法論を体系的に身につけつつ、講師との対話やワークセッションなどを通じて、思考力・発想力・表現力を格上げするカリキュラム。受講生の平均評価は4.69(5点満点)で、最も満足度の高い講座のひとつです。

【TBWA\HAKUHODO DISRUPTION SCHOOL 概要】
◯開講日:12月6日(金)19:00-21:00
◯講義回数:全10回。毎週金曜開催
◯開催形式:講師と受講生の密なコミュニケーションを生む教室開催
◯定員:先着25名
◯詳細・お申込はこちらから

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