【はじめに公開】『サステナブル×イベントの未来 オランダ・スウェーデンで出会った12のマインドスイッチ』

「宣伝会議のこの本、どんな本」では、当社が刊行した書籍の内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」や識者による本の解説を掲載しています。今回は、11月8日に発売した新刊『サステナブル×イベントの未来 オランダ・スウェーデンで出会った12のマインドスイッチ』(大髙良和、松野良史、西崎龍一朗著)の「はじめに」を紹介します。

私、思い返せばごみをたくさん出してきました。

「14000㎥」

 これは、私が所属している会社が設立から約6年間で手掛けたイベントや展示会場などから排出した産業廃棄物、いわゆる「ごみ」の容積です(注1)。1万4000立方メートルというと、いまひとつ想像しづらいかもしれません。産業廃棄物の内訳は、木・金属・プラスチック・繊維・ガラス・紙など多種多様であり、これらを容積から重量に置き換えると(注2)約3640トン、ひと月あたり50トン近い「ごみ」を6年間出し続けている計算になります。私たち一社だけで、さらにたった6年という短い間に、これだけの量のごみを生み出しているのだから、業界全体で今までどれほどのごみを出してきたことでしょうか。さらには展示物の制作から運搬時にも、エネルギー消費や車両の排気ガスなど様々な環境負荷を生み出してしまっているわけです。

 私がイベントプロモーション制作業界に入って以来約20年間、数多くのプロモーション制作に携わり、顧客企業やその先のステークホルダーの皆さまに、心から楽しんでもらえるプロジェクトを手掛ける機会を数多くいただいてきました。
 こうしたイベントや展示においては、何カ月も前から企画し、空間を作り上げる一方で、数日の本番期間を経て終了後には跡形もなくなってしまいます。私たちイベント業界に身を置く人間にとっては、ステージが組み上がっていくにつれて実感が湧いてきますが、高揚感を感じるのはほんの束の間です。
 リハーサルが始まり、本番が終わり、あっという間に解体・撤去が終わり、がらんどうになった会場を見ると「終わった!」という達成感を得ながらも、捨て去った産業廃棄物量に愕然としてしまうのです。

ごみを出すイベントならば、しないほうがいいのか?

 ではごみをたくさん出すイベント自体、人々にとっては不要なものなのでしょうか?こんな疑問が浮かんできます。しかし、イベントの価値はごみの量だけで測られるものではないとも考えています。
 実際にビジネスの現場では、コロナ禍という未曽有の体験をしてもなお、リアルイベントの活気が戻ってきています。つまりこれは、コミュニケーション領域の中でリアルイベントはとても大切な場であり、体験ということを通じてこそ伝達できる価値があるということなのだと実感します。

 サステナブルな社会の実現を推し進めていく上でも、実はイベントが果たせる役割は大きいと私たちは考えています。


「イベントは多くの人に影響を与えることができる。
 サステナ機運を高める絶好の機会である。」

 これは、国連のSDGs(Sustainable Development Goals)のロゴのデザイナーとして知られるスウェーデンのクリエイティブディレクター、ヤーコブ・トロールベックさんとの会話の中でもらった言葉です。

 だからこそ、イベントや展示などのプロモーション自体は環境に悪いのでやめてしまえということでなく、どのようにイベントを環境負荷や廃棄物の少ないものにするか、その上でサステナブルな社会の実現に向けてポジティブなインパクトを生み出すものにしていくのかという取り組みが、これからはとても重要になるでしょう。

はじめはビジネスチャンスを感じたから。
でも本当は「競争」よりもまず「共創」

 私が本格的にサステナブルを意識しだしたのは2年前、社内にプロジェクトチームが発足し、サステナビリティに配慮したイベントガイドラインの制作に関わったことがきっかけです。正直言うと、それまでは特段サステナビリティというテーマに高い関心があったわけではないのです。チームに参加することにした動機も、「サステナビリティ=持続可能、じゃあビジネスを持続可能にするためにはこの領域でも稼いでいいってことだな!」と、自社のビジネス成長につなげる発想からでした。
 しかし、イベントガイドラインの制作を始め、さらに同業の制作会社5社(丹青社、電通ライブ、乃村工藝社、博報堂プロダクツ、ムラヤマ)でサステナブルイベント協議会を結成したり、電通グループ内で「電通Team SDGs」などの活動に携わる人に出会って話していくうちに、サステナビリティに対しての意識が徐々に変わってきました。この領域は一社で抜け駆けして成立するものではない、収益性を確立する以前に、まずはイベント領域に携わる人たち全員で、サステナブルなイベントが当たり前の世の中をつくりあげなければならないんだと強く感じたのです。
 つまり、「競争」の前に「共創」がとても大切なのです。そのために自分に何ができるのか。そう考えていたときに思いついたのが、イベントにおけるサステナビリティを追求していく中で得た、私たちの発見や学びを、書籍を通じて様々な人に共有し、お伝えしていくことでした。

イメージ 書影 『サステナブル×イベントの未来 オランダ・スウェーデンで出会った12のマインドスイッチ』

サステナブル×イベントの未来 オランダ・スウェーデンで出会った12のマインドスイッチ』大髙良和、松野良史、西崎龍一朗著/定価:2,200円(本体2,000円+税)

オランダとスウェーデンに「サステナビリティ推進」視察の旅へ

 本書は、私たちが2023年に実施したオランダとスウェーデンへの視察ツアーの内容を中心に構成されています。共著者であるジャパングレーラインの西崎龍一朗さんは、2020年からオランダに在住しており、日本の老舗イベントエージェンシーの中にありながら、サステナブルイベントネットワークとサステナブル事業部を立ち上げている方です。
 西崎さんからオランダの先進事例をたびたび聞いているうちに「日本のイベント業界のサステナブル推進の一歩になるのでは」という思いがふつふつと湧いてくるのを感じました。こうして、オランダ・スウェーデンでのサステナビリティづくしの旅が決まったのです。
 のべ24カ所を視察し、第一線の取り組みを行う14企業にインタビューをする中で、私たち自身が考えを塗り替えられるような体験を何度もし、また、これからのイベントを考えていく上で心に留めておくべき素晴らしい言葉の数々に出会うことができました。ここで得た学びを、この本に凝縮してお伝えしたいと思っています。

世界初都市計画に
サーキュラーエコノミーを取り入れた国オランダ

 オランダは、2016年に国として世界で初めてサーキュラーエコノミーの国家戦略「Circular Dutch economy by2050」を発表したサーキュラーエコノミー先進国です。また、首都アムステルダムも、2020年に同じく世界で初めてサーキュラーエコノミー戦略を公表した都市です。
 2016年に公表された国家戦略のなかで、オランダは2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現することを目標に掲げました。資源に乏しくとも巧みな商売力で高い経済力を誇ってきたオランダの背景を考えれば、世界に先んじてこうした舵取りをしたことにも頷けます。以降、企業、政府、教育機関やNGOまでが足並みを揃えて取り組み、国をあげてサーキュラーエコノミーの実現に向けて動き出しています。

 オランダのサーキュラーエコノミーへの取り組みのなかで特徴的なのは、スタートアップの活躍です。これは、2008年のリーマン・ショック以降、経済の立て直しを図るために、大企業を主軸に置かずスタートアップを推奨する政策が取られたことが影響しています。
 アムステルダム市も、国家戦略に合わせて2050年までに完全サーキュラーエコノミーに移行することを宣言しています。重点分野に食と有機廃棄物、消費財、建築を据え、先進的なプロジェクトを数多く走らせる一方で、取り組む中で得た発見や教訓をまとめて公表、システミックチェンジ(システム自体から変えていくこと)のための実証実験の実施や、サーキュラーエコノミーへの移行を加速させるための自治体の役割を明確にすることなどが、具体的にレポートされています。
 さらに同市は、市内に流入する資源と出ていく資源を可視化して、環境負荷や廃棄物の発生原因をつきとめるための「アムステルダム・サーキュラー・モニター」を確立して運用を開始しています。ここで得た知見は、オランダの中央政府に還元され、オランダ全体のサーキュラーモニター確立のために活かされています。

合理的な国民性もサーキュラーエコノミーには追い風

 文化的に合理的と表現されることの多いオランダで選ばれる製品・サービスの特徴は「安い・面白い・実用的」。製品・サービスがいかにSDGsやサステナビリティに貢献すると言っても「高い・ダサい・不便」だと選ばれ続けることはありません。ここにも、サステナビリティをもう一歩前進させるヒントが詰まっているのでしょう。
 もう一点言及したいのは、オランダらしい「Learning by Doing(やりながら学ぶ)」アプローチです。これは前例のない活動も実験的に取り組むというオランダ人にとって欠かせない考え方になります。前例がないからこそ、前例のないアプローチを行うことで、世界初の取り組みやプロジェクトを生み出す。そうした変革の土壌が根づいているのです。

イメージ 廃材でできたサーキュラーデザイン アムステルダムの「DB55」(本書より)

廃材でできたサーキュラーデザイン アムステルダムの「DB55」(本書より)

イメージ 資材の再資材化を可能にするプラットフォーム「マダスター」(本書より)

資材の再資材化を可能にするプラットフォーム「マダスター」(本書より)

環境・福祉国家のスウェーデン

 スウェーデンはグリーンテクノロジー、クリーンエネルギー、サーキュラーエコノミーの先進国です。2016年に国として、2030年までにエネルギー効率を50%向上させ、2040年までに発電すべてに再生可能エネルギーを用いるという目標を設定しました。さらに、世界の多くの国が2050年までの目標を掲げる中、それよりも5年も前倒しする形で、2045年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという野心的な計画も立てています。
 さらに、成熟した福祉国家でありながら、デザイン性の優れた商品やサービス、コミュニケーションなども特徴的です。
 こうした取り組みを支えるのは、行き届いた環境教育。環境科学、エコロジー、廃棄物管理、再生可能エネルギーなどの科目が義務教育のカリキュラムに組み込まれており、今後の社会を担う子どもたちは、環境問題や社会的責任について自然と学び・考え、持続可能な未来をつくるためのマインドセットを身につけていいます。鮮烈なスピーチで一躍有名になった環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんもスウェーデン出身です。
 このように、国家戦略として包括的で先進的な取り組みをリードするオランダと、福祉国家として当たり前にサステナビリティがインストールされているスウェーデン。経済的価値を生み出しつつも、廃棄物や温室効果ガス排出量削減、そして社会と環境の課題を解決していくための方法を模索するために、今回この2カ国を視察したのです。

写真 何が土に還るのか、幼少期に「地上・地下」の考え方を学ぶスウェーデンの環境教育(写真提供:One Planet Café)

何が土に還るのか、幼少期に「地上・地下」の考え方を学ぶスウェーデンの環境教育(写真提供:One Planet Café)

写真 スウェーデンのエコシティ「ハマビーショースタッド」©City of Stockholm(本書より)

スウェーデンのエコシティ「ハマビーショースタッド」©City of Stockholm(本書より)

オランダとスウェーデンでの学び、
重要なのは意識を根づかせる「自分ゴト」化

 オランダ・スウェーデンのサステナブル施設、取り組み、現地の人たちとのディスカッションを通して、日本はまだまだサステナビリティについての意識の根づきが浅いと実感しました。
 その一方で、「もったいない」という言葉があるのは日本だけであるという事実や、伊勢神宮の式年遷宮などはサーキュラーエコノミーの考え方に即していることなど、実は日本人にとっても、これまで言語化こそされることが多くなかったものの、非常に身近にサステナビリティの概念や意識が根づいていることにも気づかされました。
環境負荷を下げ、社会や環境へのポジティブな影響を最大化するために必要なのは自分ゴト化、すなわち、自身のなかの「サステナマインド」のスイッチを入れることだと考えています。本書が、読者の皆さまのスイッチをパチン!と入れるきっかけになれば幸いです。

著者を代表して 大髙良和

イメージ 図 マインドスイッチマップ(本書より)

マインドスイッチマップ(本書より)

注1 電通ライブが発注している東明興業のマニフェストから
注2 公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センターの換算表を参考に設定

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宣伝会議サミットONLINEで著者登壇決定
11月22日14:10〜14:40、著者の1人である大髙良和氏がウェビナーに登壇します。テーマは「ブランドプロモーションに必要なサステナマインドとは?」。本書の内容を中心に講演の予定です。
お申し込みはこちらから。(要事前申込、参加無料)

2,200円(本体2,000円+税)

『サステナブル×イベントの未来 オランダ・スウェーデンで出会った12のマインドスイッチ』
大髙良和、松野良史、西崎龍一朗著

イベント制作のプロたちが、サステナブル先進国であるオランダ・スウェーデンへの視察から得た学びを、12の「マインドスイッチ」に凝縮して提案。あらゆるイベントで実践できる、サステナビリティに取り組むヒントが満載。


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