RAU Architectsに聞いた、サステマインドを育む4つのキーワード
RAU Architectsは、オランダのアムステルダムを拠点とする建築事務所です。創設者のトーマスさんは環境に配慮した建設を30年にわたり主導してきました。サーキュラーエコノミーの原則を設計と建設に取り入れる先駆者として知られています。2025年に開催される大阪・関西万博オランダパビリオンの建築設計を担当し、「完全循環型」のパビリオンプランが採用されています。現在、世界でもっとも注目を集めている建築家の一人です。
RAU Architects の創設者トーマス・ラウさん。サーキュラーエコノミー分野での先駆者であり、建築業界におけるパイオニアとしても知られる建築家。(写真提供:RAU Architects)
トーマスさんは、ある例え話をします。
想像してみてください。あなたが誰かと出会って恋に落ちて、人生を共にすると決めたとします。しかしその心に決めたパートナーは、アルコール依存症であったことにやがて気づきました。それは、パートナーとの共同生活やあなた自身の暮らしを脅かすものとなります。あなたはきっとこう言うでしょう。「お願いだから、アルコールをやめてほしい。もしアルコールを飲み続けるのならこの関係を続けることができない」。
するとパートナーの回答はこうです。「全然問題ないよ。そのうちやめるから。2030年には60%アルコールフリーになって、2040年には80%、2050年には100%アルコールフリーになるから」と。あなたは、そのパートナーのことを信じることができますか?
きっと、あなたのパートナーは今すべきことを直視しておらず、今の暮らしを変える気がないのだろうと思うでしょう。これが、人類と地球の今の関係性です。あなたが関心があるのは、今です。2030年にも、2050年にも興味がないのです。
このように、トーマスさんは企業、行政、そして私たち個々人が気候崩壊の危機を目の前にしてもなお抜本的な行動にでることができないことを、コミカルに指摘します。
キーワード①「私たちはこの惑星のゲスト」
この写真は、月から見た地球です。現代におけるグローバルなサステナビリティムーブメントの出発点となった象徴的なものです。私たち人類は、宇宙に単体で浮かぶこの地球の写真を通して、資源はこの閉じられた地球に存在しているものしか使えないのだと、初めて実感したのです。
トーマスさんは、地球の歴史を長い目で見れば、人類は決して地球の支配者「ホスト」ではなく、むしろ「ゲスト」であることがわかると言います。ゲストであれば、当然のことながらホストのルールに従い、その恵みを大切に扱う責任があります。
一時的な利用者である私たちの一時的なニーズを満たす手段が、恒久に取り戻すことのできない負のインパクトをもたらしてはならないのです。
『サステナブル×イベントの未来 オランダ・スウェーデンで出会った12のマインドスイッチ』大髙良和、松野良史、西崎龍一朗著/定価:2,200円(本体2,000円+税)
キーワード②「地球上の資源はすべて『限定版』」
私たちは、資源を手に入れにくい「希少なもの」と捉えがちです。つまり探しきれていないだけでまだどこかに隠れているはずだと思い込んでいます。しかし、先の写真を見ればわかる通り、地球上の資源は有限なクローズドシステムです。つまり、資源には限りがあり、浪費すればいずれ枯渇し、二度と手に入らなくなる「限定版」だということです。このシステムの中で何か問題が生じた場合、私たちは限られた資源の中で解決策を見つけなければなりません。
オランダを代表する画家である、レンブラントやゴッホの絵画も希少だと思いがちですが、その作品は1つしかない限定版なのです。人類が直面する最大の課題は、限られた資源をどのように持続的に利用していくかということです。
何千年もの間、私たちは衣食住を満たし様々なサービスを享受するために、資源を採掘し、製品を作り、そして捨ててきました。特に産業革命以降、このサイクルは加速化しています。今私たちが手にしている本やスマホ、PCも、すべて地球の「限定版」の資源で作られています。何万年かけて形成された貴重な資源を、一時的なニーズのために浪費することはできません。
キーワード③「必要としているものの本質は何か」
近年、サステナビリティという言葉が盛んに叫ばれています。しかし、トーマスさんは「サステナビリティと言いながら、既存のシステムを置き換えているだけ」と指摘します。本質的に解決する気がなく、今のやり方を大きく変えないで最適化することがよく見受けられるというのです。
確かに、EV(電気自動車)を例に取って言えば、ガソリン車に代わる画期的なソリューションとして期待されてきました。しかし、他方ではレアメタル採掘や廃棄バッテリーの問題など、新たな課題も生み出しています。真のサステナビリティとは、現状の仕組みを維持することではありません。根本的なシステム変革、その一つとしてサーキュラーエコノミーを通じて、持続可能な社会を実現することです。
従来のサステナビリティ議論は、「何ができるか?」という視点に偏っていました。しかし、真の解決には、「何が必要か?」という本質的な問い掛けが必要です。この課題はイベント業界においても同じことが言えます。「何も変えたくないけど、サステナブルにして」というクライアントからの声は、非常に多く聞かれるものです。
しかし、何の問題を解決するためにサステナブルにするのか、という視点はとても重要です。解決すべき本質的な課題は何かを考えることで、これまでとは全く異なったアプローチが浮かび上がってくるのです。
例えば、移動をサブスクリプションにし、個人と人々の行動パターンに合わせてAIが自動運転の車を配車するとどう変わるでしょうか。車自体は自動車メーカーが所有し、乗りたい時にいつでも乗れるシステムがあれば、所有する必要がなく、社会全体で考えると生産する車の台数を最小限に抑えられます。さらにその場合は燃料費(電気代)もメーカーが支払うため、エネルギー効率を最大限高め、一度作ったらずっとメンテナンス不要で乗れる乗り物を開発するメリットが生まれます。
既存路線のビジネスを少し変えるだけではない、こうした大胆な発想の転換が求められているのです。
キーワード④「計画的陳腐化=意図的な短寿命化」
1924年、スイスのジュネーブで開催された電球製造会社によるカンファレンスで、驚くべき合意が生まれました。それは、「1000時間で切れる電球」の製造です。これは単なる都市伝説ではなく、記録に残る事実です。この出来事は、技術力の問題ではなく、電球製造会社が存続するための計画的陳腐化という経済の仕組みの問題を浮かび上がらせた象徴的事実といえます。
従来の経済の仕組みのなかでは、電球会社は製品を販売することで収益を得ていました。そのため、頻繁に買い替えられるように、製品は意図的に短寿命に作り変えられるようになりました。しかし、これは資源の浪費と環境負荷の増加という問題を生み出しました。
近年になり、これらの課題を解決するために、「Light as a Service」というビジネスモデルが考案されました。これは、製品の所有権を製造者が持ち、製品の価値だけをサービスとして提供するモデルです。トーマスさんは家電製品大手のフィリップス社に対して電球を販売するのではなく「明るさとしてのサービス」を提供するビジネスモデルを提案。このモデルは採用され、その結果、製品をできるだけ長持ちするように開発し、メンテナンスが少なく、消費するエネルギーも最小限にすることが仕組みの上で可能になったのです。
「Light as a Service(Laas)」システムを取り入れている、アムステルダムのスキポール空港。(撮影:西崎龍一朗)
(本書では、他にサステナブルビジネスを支援するOne Planet Café、SDGsロゴの生みの親として知られるヤーコブ・トロールベックさんらのことばを紹介しています)
宣伝会議サミットONLINEで著者登壇決定!
11月22日14:10〜14:40、著者の1人である大髙良和氏がウェビナーに登壇します。テーマは「ブランドプロモーションに必要なサステナマインドとは?」。本書の内容を中心に講演の予定です。
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(要事前申込、参加無料)
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