本コラムでは、インドの都市プネーで開催された二つの広報・PR関連の国際イベント、「PRAXIS 2024(プラクシス2024)」と「IPRN AGM 2024」へ、筆者が現地参加した際に得た知見や抱いた所見を読者のみなさまにお届けします。昨年、プエルトリコの首都サンファンで実施されたイベントを元にした同シリーズは、こちらです 。
これらのイベント開催中には多くの方とともに、多くの知見にも出会います。ただ、出会う知見はいつも新しいとは限りません。海外からの事例なのに、日本でおなじみのことを感じたりもします。私は、世界中で同じようなことをしていることに気づくことは、まったく新しいことに出会うことと同様に、意義があると思っています。日本にいる自分の現在地がよりわかってきます。
筆者は、コミュニケーション・広報のコンサルティング会社Key Message International(KMI)の代表取締役をしています。昨年同様に、これまで国内/外資のファームなどで積んだ、デジタル・グローバルな広報・PR経験をふまえながら、グローバルPR市場からの知見や課題を独自の視点からお伝えします。
PRをインドのZ世代に選ばれるキャリアに変えるためには?
さて第3回目からは、PRAXIS 2024とIPRN AGM 2024で発表されたものを中心に、世界から選りすぐりの広報・PRの好事例(グッドプラクティス)を紹介していきます。第一例目は、前回も登場したインド国内で唯一の広報・PRを専門とした大学院であるSCoRe(School of Communications & Reputation) が実施した事例を紹介します。インド全土におけるPRパーソンを増やすことを目的とした、インドのZ世代に対するキャンペーン事例です。
#PRforPRキャンペーン紹介資料より(SCoRe提供)
「#PRのためのPR」(#PRforPR)キャンペーン
SCoReによれば、インドのPR業界は急成長しているにもかかわらず、PRを積極的に希望する新卒者はかなり不足しています。インドのトップPR会社5社を合わせると年間300人から500人ほどの新入社員を募集しているものの、採用枠は埋まらず空きが目立つとのことです。特にZ世代(1990年半ばから2000年代に生まれた世代)の最初の2年間での離職率は25%(SCoRe調べ)に及びます。その主な理由は、PRの現場と理想との乖離が大きな要因とのことです。
インドPR業界全体の状況を改善するために、SCoReはこの問題に正面から取り組み、PRをインドのZ世代新卒者にとって魅力的で憧れの職業の選択肢にすることを目指す、#PRforPRキャンペーンを2022年から2023年にかけて展開しました。
#PRforPRキャンペーン紹介資料より(SCoRe提供)
組織の強みを活かした調査と洞察
SCoReはまず、学術界と産業界との交差点に位置する自らの強みを生かして調査を実施しました。SCoReであればこそ手に入れることができる、学生コミュニティや雇用データの精査を通じて、地理、所属組織、学部の科目構成、人口学的特徴などをふまえた結果を導き出しました。
結果として浮き彫りなった課題は、大学をはじめとする学術界と産業界とのつながりが弱いことでした。例えば、ある著名なインドの大学を2018年から2021年まで4年間に間に卒業した学生が、PRを卒業後の第一キャリアとして考える割合は10%以下でした。また調査の結果、SCoReは学術界が一般的に、柔軟性やスピードに欠けていて、PRキャリアについて親しみが湧くような情報に接する機会が少ない点に気づきました。
Z世代は親近感を好むため、若いPRプロフェッショナルがキャンペーンの理想的なアンバサダーであると考えたSCoReは、PRをやりがいのある充実したキャリアとして再ブランディングすることを目的とした同キャンペーンを開発しました。
また、調査の結果、#PRforPRキャンペーンのターゲットオーディエンスが明らかになりました。具体的には、英語、ジャーナリズム、マスコミュニケーション、経営、商学などを専攻する学部の19~20歳(インドでは最終学年)の学生で、主な地域は、デリー首都圏、ムンバイ、ジャイプール、コルカタ、コーチン、ベンガルール、マンガロール、インドールなどです。
#PRforPRキャンペーン紹介資料より(SCoRe提供)
SMARTな目標設定
SCoReは目標設定の際に、ビジネスでの目標設定の際に有用なSMARTの法則を意識しました。SMARTとはすなわち、S(Specific:具体的に)、M(Measurable:測定可能な)、A(Achievable:達成可能な)、R(Related/Relevant:関連した)、T(Time-bound:時間制約のある)、5つの英単語の頭文字を並べたものです。