ゼブラ企業を目指す意思表示
湘南ベルマーレフットサルクラブでは2024年5月、今シーズンの方針を示す新体制発表会の壇上で「ベルマーレはゼブラ企業を目指します。」とはっきり宣言しました。
このコラムでは繰り返しになりますが、「ゼブラ企業」とは、「社会性と経済性」の両方を追求しながらステークホルダーと共存共栄をしていく企業のことです。
それは、経済成長と社会課題解決の両輪を同時に回し、地域の信頼や共感を得ながら社会的インパクトを生み出し、従来のスポーツビジネスの形をソーシャルビジネスに振り切った先にどんな結果が待ち受けているのかを確かめに行く意思表示でもありました。
2024年5月12日「2024シーズン新体制発表会」から。社会性方針を説明した。
ゼブラ企業推進への国の後押し
2024年に入り経済産業省中小企業庁より公募が出された事業が「地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業(地域実証事業)」です。
政府戦略としてゼブラ企業の推進という言葉が出たのが2023年。その後、地域課題の解決をビジネスの手法でポジティブに取り組むローカル・ゼブラ企業の概念整理や、地域課題解決事業と社会的インパクトの重要性が2024年3月に「地域課題解決事業推進に向けた基本指針」としてまとめられてから初めての大きなアクションがこの公募事業だと思われます。
【参考】
ローカル・ゼブラとしての挑戦
2024年3月に初めて「ゼブラ企業」という言葉を聞きましたが、私たちがなりたい姿と強く共鳴すると感じ、自分の思い描いている方向性が政府戦略に合致しているのかを確かめたく、新体制発表会翌日の5月13日、締め切り最終日に公募エントリーを完了させました。
そして翌月、私たちは、採択された20グループの中でも関東エリアで唯一、スポーツ団体としてはもちろん唯一の採択事業者となった旨の連絡をもらい、喜びで興奮しました。
経産省、中小企業庁がこの3月に発表した地域課題解決の新方針「ローカルゼブラ企業」という概念。
経済確保と社会貢献という一見相反するように見える目標を両立させる企業をシマウマの白黒スタライプになぞらえた名称です。… pic.twitter.com/M4l9VYdV3p
— 佐藤伸也/社長_湘南ベルマーレフットサルクラブ (@shinya_sato_vv) 2024年6月12日
この採択を皮切りに、この分野で高い知見を持つ方々とコミュニケーションできるルートが開通し、先行事例や最新の仮説を見聞きする機会が増えていきました。
そこで感じたことは、ソーシャルビジネス自体が成功モデルを模索し、今まさに確立に向けての歩みを加速させているということです。
国際的な企業や投資家はESG(環境/社会/ガバナンス)やSDGsを軸に、社会貢献を意識した事業を進め、ソーシャルインパクト投資の市場規模も拡大しています。
日本でもソーシャルビジネスやソーシャルインパクト投資に関心が高まっていて、ソーシャルビジネスを支援する仕組みが徐々に整備されています。自分としては、スポーツビジネスを再定義するという意識で物事を進めていましたが、いつの間にかソーシャルビジネスの勝ち筋を見つけ出すという課題にも挑戦することになっていることに気がつきました。
こちらの図は中小企業庁が示したモデルにベルマーレの立場を入れ込んだもので、地域の多様で複雑な社会課題の解決を目指す上で、様々な関係者とお互いの強みを活かしながら有機的に連携し、課題解決活動の効果を最大化するモデルとなっています。
スポーツクラブはジャンルを問わず横断的に地域と関係を築けるという特徴を持っています。私たちも多種多様なステークホルダーを有しています。
その関係を単に自分たちへのスポンサー営業や観客動員、チケット売上に直接結びつける「顧客」としてだけで捉えるか、それとも地域課題の解決に向け共に歩む「プロジェクトメンバー」として捉えるか。私たちは、次第に後者の視点でも見つめるようになっていきました。
ソーシャルビジネス成功への鍵
ゼブラ企業を核に、地域解題を解決していくエコシステムを構築するには何が必要なのだろうか?私たちと想いを同じくチャレンジをしている人たちからヒントを得るために先月から2か所の地域を視察してきました。
石川県七尾市と長野県野沢温泉村で展開される地域創生を直に見て、話を聞き、その地域の熱を体感してきました。それぞれ課題や解決に向かわせる方法は違うのですが、地域が一体となりまさに群れを成して取り組む姿勢は共通していました。
地域の人々が本当に必要としているものを理解し、地域全体で共有できるビジョンを描くことが必要です。地域住民、自治体、地元企業など、多様なステークホルダー同士でコミュニケーションを取りながら、「何を目指すのか」を明確にし、一緒に歩んでいく基盤を作ることが重要だと思いました。
また、地域課題の解決に向けた取り組みは、成果が目に見えにくいことも多いですが、プロジェクトの進捗や影響を継続的に測定し、関係者に「見える化」することで、活動の意義と影響を共有することが必要です。私たちもロジックモデルなどを活用して、プロジェクトの成果とインパクトを明確にし、それを地域住民や投資家に伝えることで、信頼関係を築き、ソーシャルファイナンスやインパクト投資の手法を手に入れようと取り組み始めました。
私たちが示していきたいエコシステム
今回の実証事業の中で私たちが実証したいことは、スポーツの持っている知的財産を活かし、ソーシャルビジネスを成功させることです。
私たち自身がローカル・ゼブラとして社会課題解決に取り組むのも良いと思いますし、立場を変え中間支援機能の役割として私たち以外のゼブラ企業がこの地域で活躍できるように根回し・地ならしを瞬時に整える形でも良いと思います。
そうすることでこの地域がゼブラ企業の活躍しやすい土壌となれば、地域内で人材や企業の育成が進み、さらに地域外からの人材や企業の呼び込みが加速するはずです。
そして、スポーツ団体が地域のハブとなりこの仕組みを乗りこなし、人や資金が集まり競技強化にも予算をつけられると「ソーシャルビジネスで強くなるスポーツクラブ」という事例が出来上がると思います。もしこの成功モデルが全国のスポーツ団体に広がっていけば、地域創生に携わる人の数が爆発的に増えるイメージを持っています。
経済成長と社会性とスポーツにおける勝利は、相反するものでも足かせでもなく、チカラを引き出し合う推進要素だと証明したいです。