マーケターの最重要スキルはデータドリブンであること
──デジタルエージェンシーでのどのような経験が事業会社で重宝されると感じていますか?
デジタルエージェンシーでの業務を通じて、さまざまなデータを扱い、分析手法を実践的に学ぶ機会に恵まれました。データに基づいた仮説の立案や検証、そして結果を次の施策に反映させるプロセスを繰り返す中で、意思決定におけるデータドリブンな視点が培われていったと感じています。こうした経験はマーケティングに求められるスキルセットとしても非常に重要であり、今後のキャリアにも必ずや役立つものと実感しています。最初のキャリアとしてデジタルエージェンシーで働けたことは、私にとって非常に幸運であったと思っています。
──デジタル領域からマーケターとしてのキャリアを広げていくために必要なことは何だと思いますか?
私がマーケターにとって最も重要と考えるスキルは、あらゆるファンクションやチャネルにおいて「データドリブン」であることです。2024年、日本マーケティング協会は34年ぶりにマーケティングの定義を刷新しましたが、これは技術革新の進展に伴い、膨大なデータや情報が収集・活用され、マーケティング手法がパーソナライズされていく未来を見据えたものだと考えています。SNSやスマートフォンも存在しなかった1990年当時の定義が改められた背景には、データの力で価値創造を深化させようとする現代のマーケティングの本質が映し出されているのではないでしょうか。
■1990年に制定されたマーケティングの定義
マーケティングとは、企業および他の組織1)がグローバルな視野2)に立ち、顧客3)との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動4)である。
1)教育・医療・行政などの機関、団体などを含む。
2)国内外の社会、文化、自然環境の重視。
3)一般消費者、取引先、関係する機関・個人、および地域住民を含む。
4)組織の内外に向けて統合・調整されたリサーチ・製品・価格・プロモーション・流通、および顧客・環境関係などに係わる諸活動をいう。
■マーケティングの定義(2024年制定)
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。
注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注 2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注 3) 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。
(日本マーケティング協会Webサイトより引用)
情報は、正しく使えば強力な武器になりますが、誤って使うと危険なものにもなり得ます。だからこそ、データを正しく読み解く力が必要だと考えています。データを武器にするためには、情報を取捨選択する能力が欠かせません。
この考え方はデジタルマーケティングにとどまらず、コミュニケーションやブランド領域にも通じていると思っています。人々の思考、感情、価値観に深く理解を及ぼし、お客さまに対しては効果的なメッセージングや表現技法を用い、社内では共通言語として明確に説明する能力が求められると思っています。これにより、社内外のステークホルダーと高い視座で対話を重ね、業務の幅も一層広がっていくのではないかと思っています。
事業会社でのキャリアを築くうえでは、デジタルエージェンシー出身であることにとらわれず、デジタルマーケティングに限定した視点ではなく、より広範な視野で物事を捉えることが重要であると考えています。自身の強みを多方面に応用する柔軟な発想を持ち続けることで、社内外のステークホルダーからの信頼も徐々に積み重ねられ、最終的には自然と仕事が集まるようになると信じています。