MVのユニークな世界観をバーチャルプロダクションで実現
大型LEDディスプレイに映像を映し出し、被写体と組み合わせてリアルタイムで映像制作を行うバーチャルプロダクション。近年CMやドラマ撮影、イベントの配信など、さまざまな場面で活用されている。
11月27日にリリースされた、眉村ちあきの新アルバム『うふふ』に収録される「Hangover」のミュージックビデオ(MV)もこの技術を駆使して制作された。動画内では衣類や雑貨などが散乱した部屋を舞台に、ユニークな世界観が繰り広げられていく。歌詞に合わせて部屋の中を大量のマグロが泳ぐシーンや、馬が大胆に壁を壊しながら疾走する様子、さらには眉村が広大な砂漠の中を歩くシーンなど、ダイナミックかつ没入感のある表現が随所に盛り込まれている。
制作を手がけたのは、2024年5月に資本業務提携を行ったAV&ITのトータルソリューションを提供するヒビノと、映像プロダクションのエルロイなど複数の制作プロダクションを擁するCHホールディングス。提携により、 コンテンツ制作から大型映像システムの活用までソフトとハードの両面から総合的なビジュアルサービスの提供が可能になる。また、バーチャルプロダクションの普及も目的としており、今回のMV制作は、そんな両社にとって業務提携して間もないタイミングでの共同プロジェクトになった。
異なる分野のプロフェッショナルとなる両社。連携により生まれる効果や、バーチャルプロダクションの魅力について、エルロイ所属のディレクター 土屋哲彦氏、RECO 代表取締役 プロデューサー 勝村紀昌氏、ヒビノ Hibino VFX Studio プロデューサー 東田高典氏、Hibino VFX Studio VP スーパーバイザー 渡邉真之輔氏に話を聞いた。
バーチャルプロダクションだから実現する“リアリティ”
今回のMVのポイントは、バーチャルプロダクションの特性を活かした「リアリティのある表現」。例えば、馬が登場するシーンでは、スタジオのLEDディスプレイに映る馬の動きに合わせて手持ちカメラで撮影。後から編集で合成するグリーンバック撮影では表現し難い、リアルなブレや臨場感を実現している。
砂漠のシーンでは、本物の砂を使って舞い上がる砂ぼこりを表現。現場で映像を確認しながら砂ぼこりを演出できるため、まるで本当に砂漠で撮影したような映像に仕上がった。またLEDディスプレイを環境光として使用することで演者やセットが映像の中に自然に溶け込み、よりリアリティのある雰囲気が生まれている。
こうしたリアルとバーチャルを融合させた表現や演出は、映像全体にCGらしからぬリアリティと高い完成度を生み出しているが、映像と連携したナチュラルな眉村の演技もクオリティ面で寄与している。「バーチャルプロダクションは、演者のパフォーマンスにも影響を与える」と話すのはディレクターの土屋氏。グリーンバック撮影では、完成時の映像がイメージしづらい一方、バーチャルプロダクションでは既に完成された映像の中で演技ができる上、その場で映像と演技の整合性を確認できるというメリットが挙げられる。
エルロイ ディレクター 土屋哲彦氏
「時には大胆にアングルやカメラワークの変更もできて、グリーンバック合成よりも演出の自由度が高いと感じました。バーチャルプロダクションでの制作は、その場で確認・修正ができるので、現場で演者やスタッフのアイデアも引き出しやすく、ワンカットごとのクオリティ向上を追求できます」(土屋氏)
環境負荷を低減しながら、短期間で確実に制作進行
MVには多彩なロケーションやダイナミックな動物の動き、幻想的な空間演出など様々な要素を詰め込みながらも、本番撮影は2日で撮り切った。編集作業も、撮影後約1週間の期間で大まかには完了していたという。これらすべての撮影を行ったのは、ヒビノが提供するLEDディスプレイを使用したバーチャルプロダクションスタジオ「Hibino VFX Studio」。超高精細LEDディスプレイシステムやカメラトラッキング・システム、リアルタイムエンジンを駆使した、最新鋭の撮影スタジオでもある。
短期間で制作が進んだ理由について、プロデューサーの勝村氏は次のように説明する。「グリーンを抜いて合成するポスプロの工数が大幅に削減される上、現場でのリアルタイムの映像確認や修正が可能なため、効率的に制作を進めることができます。また、天候や場所に左右されず、限られた時間で確実に多様なシーンを撮影できることで、スタッフや出演者とのスケジュールも調整しやすくなります」
RECO 代表取締役 プロデューサー 勝村紀昌氏
このように、作品のクオリティ面や制作効率に寄与するバーチャルプロダクションは、サステナブルな映像制作の観点からも注目されている。スタジオプロデューサーの東田氏は「バーチャルプロダクション撮影を取り入れることで大規模セットの制作や、ロケ地への大人数の移動などを減らすことができる。また、ヒビノが参画する『メタバース プロダクション』では、映像制作におけるCO2排出量を緻密に計算するカリキュレーターの運用が始まるなど、業界的にも環境に配慮した映像制作インフラの整備も進んでいる」と話す。
ヒビノ Hibino VFX Studio プロデューサー 東田高典氏
スタッフの密な連携がクオリティと効率の向上に寄与
今回の成功の要因には、ヒビノとCHホールディングスの密な連携が欠かせない。両社は業務提携後、CHホールディングスの社員がヒビノのスタジオ見学ツアーに参加するなど、制作面や技術面での相互理解や、社員間での交流を深めてきた。
今回のMV制作においても、企画段階から本番に至るまで形式的な情報共有ではなく、綿密なコミュニケーションを図った。合成結果を確認しながら進めるバーチャルプロダクション撮影は、スタッフ間のコミュニケーションが非常に重要で、近い距離感で細かな意見交換を重ねたことが、クオリティの向上にもつながった。
Hibino VFX Studio VP スーパーバイザーの渡邉氏は「多くの方に我々の技術を知っていただく機会はまだ少なく、作品の創造的な側面に対し我々のVP技術がなかなか提案できないもどかしさがありました。しかし今回は、一つのチームとして積極的に意見や提案をしやすい環境だったと感じます」と説明する。
ヒビノ Hibino VFX Studio VP スーパーバイザー 渡邉真之輔氏
今回、特に両社の密なコミュニケーションとそれによる効果が発揮されたのが、MVの主要舞台にもなった部屋の映像制作だ。暗い空間の映像制作は難易度が高いとされているが、あえてそこに挑戦。ヒビノとCHホールディングスのCGプロダクション・SAZABI(サザビー)間で何度もコミュニケーションを重ね、部屋に差し込む太陽光や壁にあたる間接照明などの明部、光の当たっていない暗部、美術の床とCGの床のつながりなど、部屋の細部までリアルに表現することに成功した。
このように今回の連携を通して、単なる技術の共有を超えたシナジーが生まれ、プロジェクト全体の質と効率が向上することが明らかに。今後も今回の成功を足がかりに、より効率的かつクオリティの高い作品づくりを目指す。
Hibino VFX Studio のMV撮影現場で
スタッフリスト
演出
土屋哲彦
Executive Pr
芋川淳一、東田高典、和田篤司
Pr
勝村紀昌
撮影
室井大地
照明
稲澤拓郎
編集(オフライン・オンライン) | 伊藤瑞希 |
D | 杉若國太郎 |
PM | 八木菜々実、岡田萌 |
CG | 小島伸夫、中村健太郎、羽田園子、蔭山雄亮、中野紗緒里、高橋純平、大野真理子、竹内孝紀、岡本和稀 |
VFX Studio Producer | 菊地茂則 |
VFX | 渡邉真之輔、髙橋一己、古家新一郎、矢野将之、冨吉公貴、岡本佳奈、柴田隆太郎、阿久津圭 |
美術 | 甘糟ゆり |
ST | 椎名倉平 |
HM | 上地可紗、加藤潤一 |
出演 | 眉村ちあき、大羽雅子、佐々木穂高 |
お問い合わせ
ヒビノ株式会社 ヒビノビジュアル Div.
URL:https://www.hibino.co.jp/visual/
メールアドレス:vfxstudio@hibino.co.jp
CHホールディングス株式会社
URL:https://the-ch.com/
メールアドレス:info@kooen.jp