筆者は、コミュニケーション・広報のコンサルティング会社Key Message International(KMI)の代表取締役をしています。昨年同様に、これまで国内/外資のファームなどで積んだ、デジタル・グローバルな広報・PR経験をふまえながら、グローバルPR市場からの知見や課題を独自の視点からお伝えします。
4回目の今回は、PRAXIS 2024とIPRN AGM 2024で発表されたものの中から、
日本の折り紙を使ったイベントPRの事例を紹介します。
1000年以上も続くインドの「バリヤトラ祭」
インド南東部、ベンガル湾に面するオリッサ州のカタック県では、その豊かな海洋史を記念してバリヤトラというお祭りを開催します。この祭りは同地で、1000年以上前から続く長い伝統を誇ります。ベンガル湾を渡り東南アジアのバリ島へ航海する商人たちは古来より、11月の満月の日、船が出航するために適した風が吹くこの日を、その年の長い航海を開始する日として祝ってきました。
バリヤトラ祭は例年、カタック県庁とカタック市公社が他にもいくつかの政府機関と協力して開催しています。9日間の祭りを通してカタックと近隣地区からは、何千人もの人々が河畔で開くアジア最大規模の野外見本市に集います。
バリヤトラ祭は文化的、歴史的な側面に加え、商業的側面も重要です。自動車や電子機器から地元の職人製品まで、あらゆるものが比較的安い値段で購入される期間でもあります。行政機関はオークションを通じて1500以上の屋台を業者に割り当てており、見本市では9日間で、100億ルピー(記事執筆時点のレートで、約17憶9313万円)以上のビジネスが成立すると見積もられています。
バリヤトラ祭の様子(コンセプトPR社提供)
バリヤトラ祭の様子(コンセプトPR提供)
「バリヤトラ祭を国際化せよ」折り紙で、ギネス世界記録を目指せ!
カタック市公社は、コロナ禍の混乱を経た2022年のバリヤトラ祭で、同祭が国際レベルで認知される活動をしたいと考えました。そのために、例年35エーカー(約14万1640平方メートル)の広さで開催される祭りを、2022年は85エーカー(約34万3983平方メートル)の広さに拡大しました。
カタック市公社からPRを請け負ったコンセプトPR社(Concept Public Relations India)とラストマイル・ソリューションズ社(Lastmile Solutions India)は、2022年バリヤトラ祭の広大なイベント会場を活かしながら、航海文化に根差した祭りの伝統を活かし、また、国際的なアピールをする手法を検討しました。
そして行き着いたのが、日本の伝統文化である折り紙を使ってボートをつくるアイデアでした。それは「最も多くの人が一つの会場で同時に折り紙を折る」という条件で、ギネス世界記録を達成することを目標とするイベントPRを実施することでした。
折り紙でボートを作り、オリッサ州の子どもたち、市民団体メンバー、著名人など、大勢の人たちが一斉に川へ折り紙のボートを浮かべるという、壮大なスペクタクルと幻想的な夕べを演出しようという試みです。クライアントであるカタック市公社はこのアイデアを承認し、ギネスワールドレコーズ(ギネス世界記録の認定組織)はこのイベントを機に、折り紙アートに基づく記録部門を新設しました。
イベント立て看板(コンセプトPR提供)
2121人の子どもが35分間で2万2473個の折り紙ボートを生み出す
プロジェクト説明資料より抜粋(コンセプトPR提供)
会場上空から撮影(コンセプトPR提供)
折り紙を折る学生たち(コンセプトPR提供)
折り紙を使ったアートで世界新記録をつくるために、コンセプトPR社とラストマイル・ソリューションズ社は、8歳から14歳までの学生、22の学校から約5000人のこどもたちを特定し、定期的なトレーニングを複数回実施しました。毎週のトレーニングが終了すると、特定の形を折り出すテストを行い、合格した学生たちが次のレベルに進んでいく仕組みを設計しました。
第一段階では3283人いた学生たちが第二段階では2688人、大会前の第三段階では2500人にまで絞られ、当日の状況をふまえて、最終的には2121人の学生が世界記録に挑戦しました。
参加学生らはクリップボードと10枚の折り紙を配られ、ブザーとともに折り始めます。35分後に審査員らが基準を満たす形で折られたボート数を数えます。