伝統校で仕掛ける「両利きの経営」
民間企業から茨城県の下妻一高に赴任し、同校の校長に就任してまもなく1年が経とうとしています。開学から127年を迎える伝統校のアップデートを図るため、これまで培ってきた資産は守りつつ、新たなことにチャレンジする「両利きの経営」を目指した学校運営を行ってきました。
「新たなことへのチャレンジ」としては、学校の広報活動の強化を行ってきました。今回のコラムでは、この活動について紹介したいと思います。昨年は、副校長として1年勤務をしたのですが、そこで感じたことは、「こんなによい活動をしているのに、学校の良さが全然伝わっていない!」ということでした。非常にもったいないことです。下妻一高の資産(伝統)をどのように生徒や保護者に伝えていくか。まず始めに取り組むべきは、この課題だと思ったわけです。
こうした場面では、民間企業でマーケティングを経験してきたスキルが生きます。まず最初にマーケティングのフレームワークである、SPT4Pのに沿って、誰に、何を伝えるかを整理して、キーコピーとキービジュアルを考えました。キーコピーは「その挑戦が未来を変える」に決まりました。また、漢字一文字で表す「勇」というキーコピーも策定。これは中学校の教員が考えてくれました。さらにキービジュアルをスクールカラーの紫に決め、スクールカラーのTシャツを着た生徒たちが映った写真を使った、広報用のポスターを作成しました。
学校の教頭先生や教員と一緒になって統合的なブランド戦略を考えるという取り組みも、学校にとっては新しい試みです。まさに、このあたりは私が民間企業で学んできた、マーケティングスキルが活かせる仕事であり、学校にはない知見と、学校現場の知見を合わせて行った仕事となりました。
その後、学校ホームページやスクールガイド(学校案内)の役割、公式SNSの必要性などについても議論し、下妻一高・付属中学校のIBC戦略を立案。公式SNSの開始は、SNSガイドラインや運用規定を策定し、それぞれのSNSの代表責任者と運用責任者を決めて、職員会議で合意形成を取りました。まずはSNSを開始したい部活動から、小さくスタートしたのもアジャイルな動きで良かったかもしれません。学校代表の公式SNSは、校長の私が自ら運用を行い、ある意味お手本になるような役割も担いました。
生徒の注目度も上昇 公式Instagramの運用を開始
学校ホームページはどちらかと言うと一方通行で、業務連絡的な役割として位置付け、一方SNSは、保護者や生徒と双方向の発信を心がけ、かつスピーディーに学校の行事や様子を伝えるには最適な媒体として活用しました。
こうして始まった(公式)Instagramのフォロワー数は900名近くにも増えました。授業参観や三者面談などで保護者が学校に来校された時には、「いつもインスタ見ています!!」と保護者から直接声をかけられる機会が増えました。学校の様子が保護者にも伝わり、学校の活動が伝わっているのは嬉しいことです。
また「公式Instagramに掲載されるように頑張る!」と言ってくれる生徒も出てきて、様々な効果が出てきています。Instagramのいいね!の数で、反響の良し悪しが分かるのもひとつのエビデンスデータとなっており、今後の学校行事を考えるための参考データとなっています。
このように直接顧客(生徒や保護者)とつながることによって、顧客ニーズをつかみ、顧客満足度ナンバーワンの学校づくを行っていきたいと思います。
まずは今ある資産を、最大限に伝えたい!その為のIBC戦略はどうしたらよいのか。学校ではこのような広報活動があまり得意ではない学校が多いと思いますので、茨城県内の公立学校のモデルになったらいいなと思っています。
伝統を守りながら、新しいことを始める。それが学校の課題解決に繋がる事が、ベストな進め方だと思っています。今回の広報活動で、マーケティングに興味を持ってくれた教員も何名か出てきてくれており、マーケティング業界出身の私としては、嬉しい限りです。これからも下妻一高・附属中学校の活動に注目いただけると嬉しいです。