米国文化の中に根付かせるブランディング戦略~サントリーが展開、ハイボールのあるNY流ライフスタイル①はこちら
懐かしくも新しいタイムレスな体験~サントリーが展開、ハイボールのあるNY流ライフスタイル②はこちら
本連載では、サントリーが展開するハイボールに関連するイベント体験を通じて、そのブランディング戦略やハイボールチームの試みを筆者目線で紐解いてきたが、今回は、サントリー・US ハイボールチームを率いるシニア・マネージャー Highball COEの鈴木氏にインタビューを実施し、アメリカの現場だからこそ見えるリアルな課題や成果の出る瞬間、そしてその現場で感じたことや、今後の展望について聞いた。鈴木氏の言葉から見えてくる、サントリーのハイボールがどのようにしてアメリカ市場に根付こうとしているのか、その試行錯誤と意欲的なビジョンに迫ってみる。
鈴木Andy 氏 インタビュー
―アメリカでハイボールを広める活動を行っている背景を教えてください
理由は3点あります。一つ目は市場での新需要創造です。カクテル大国のアメリカにおいても、若年層を中心に低アルコール、低糖質など健康志向と合わせたリフレッシュメント需要が高まっています。ハイボールというカテゴリーの創出により、その需要を獲得したいと考えています。
二つ目は当社のブランド戦略の一環でアメリカのお客様に本物のジャパニーズウイスキーを知ってもらうという観点があります。そこで、「TOKI<季>」という山崎モルト原酒と白州モルト原酒と知多グレーン原酒だけを用いたブレンデッドウイスキーを2016年にアメリカとカナダで発売し、その後欧州等へ展開しました。中でもTOKIはハイボールに最も合うというコンセプトで存在しており、ハイボールはそのヒーローカクテルと位置付けています。
三つ目は社内の営業革新の風土づくりです。業務用のBarやレストランで品質の高いハイボールを提供してくれる店を育成し、そこでハイボールを通じてサントリーというブランドを経験したお客様が家庭用(スーパーや酒販店)で購入するという、より大きなビジネスへのブリッジ強化を描いています。
―2014年に御社がビーム社を買収した際、サントリーにとってハイボールをアメリカに広めることが⽬標の⼀つとなったと伺いました。それは何故でしょうか︖
一つは新たな需要創造と獲得への挑戦です。食事中にスピリッツを合わせて飲むという習慣がないアメリカにおいて、食中のオケージョン開拓(日本のハイボールと唐揚げの“ハイカラ”セットのような文化)や、アメリカにある日中の、食前酒として低アルコールなリフレッシュメントとしてのアペリティフ(食前酒)需要の獲得を目指しています。
二つ目には単なる製品の売り込みでなく、サントリーが得意とするブランドが持つストーリー、クラフトマンシップ、品質や特性、飲み方、ペアリングなどの楽しみ方を文化として伝える総合提案型営業が活きるからです。
ビーム社との統合により、我々は代理店経由ではなく、自社とその仲間であるセールスが一体となってビジネスを行う体制を構築しました。各々の役割を踏まえつつ、総合提案型営業について理解し、ストーリーを顧客に語ることができています。日本で開発してきたハイボールマシーンや様々なドリンク提供技術の知見を持っているのです。現場視点で消費者にとって魅力的なメニュー提案を行い、飲食店にとっての品質の均一化、スピード提供、原価率改善などのドリンクソリューションを付加価値として提案していきます。互いがWin-Winとなれるユニークな長期視点でのパートナーシップ、モデル店つくりを目指し、ハイボールがEast meets Westの仕事を象徴する一つとなりました。
―2008年から⾓ハイボールプロジェクト を開始されています。その背景となるストーリーや理由があれば教えてください。
当時焼酎がブームで、ウイスキーはロック、ストレートで度数が強すぎるという印象を持たれていました。また、水割りは若者向けのお酒でなく、古臭いというイメージが定着していました。若い世代がビールに代わって、最初の乾杯から飲めるドリンクの開発が必要で、マーケティング、営業が一丸となり、徹底的に繁盛店の現場、消費者の嗜好をデータ分析し、お客様の生の意見を取り入れ、現場基点でのイノベーションに辿り着きました。結果的に、ウイスキーとソーダを1対4、レモン絞り、ジョッキスタイルという、従来とは全く違う形の飲み方となりました。そして、たどり着いた成功形の飲用時品質を全国に徹底的に水平展開するにあたり、お客様が飲用時に必ず目にする店舗のメニューで、前述の成功形のハイボールのスタイルを視覚的にアピールすることを徹底しました。同時に世の中はリーマンショック後でもあり、「立ち飲み」のようなカジュアルな業態が増え、ホッピーがクールと思われる時代で、「安価に楽しめるハイボール」という消費者ニーズと、「本格的なのに原価も抑えられる」という飲食店ニーズの双方にマッチしました。
―御社がハイボールという飲み物を、アメリカで広めることを通して、伝えていきたいことは何ですか︖
ハイボールの起源は諸説ありますが、アメリカでも存在していた飲み方と言われており、現在のクラシックカクテルのブーム再来という時流感もあります。一方でハイボールは日本のバーテンダーの方々の多大な努力により“冷え、濃さ、炭酸の効き”が追求され、サントリーの機材貢献もあって、ロンググラスやジョッキスタイルで消費者へ提供する現在のリフレッシュメントへと進化しました。それがクールJapan文化として食事やウイスキーにも繋がっています。そのスタイルと“飲用時品質”をSuntory Wayとして訴求、拡大していきたいと思っています。
―ハイボールのターゲット層は?
ジャパニーズウイスキーのTOKIハイボールについては、日本文化に興味があり、日本旅行に行かれた方、行ってみたいと思う方、そして感度の高い若いアーリーアダプターがターゲット層です。また、ジムビームを飲むシーンがスタジアムやスポーツバーなど、よりカジュアルでフレキシブルなシーンが多いので、そのような場で低アルコールの缶RTDなどのリフレッシュメントを好む層です。
―御社は、アメリカで、⽇本の居酒屋⽂化を参考にしながらも、アメリカ⼈の嗜好に合わせたハイボールを広める取り組みを⾏っていると伺いました。 アメリカ⼈の嗜好を、具体的にどのように分析していますか︖ (アメリカは地域により様々ですので、ニューヨークの⼈を基準に教えてください)
アメリカ人と一括りにできず、都市やエリア毎に様々なバックグランドを持つ消費者が存在します。ご当地毎に、甘さやカラーなどについて受け入れられ方が違いますが、ニューヨークなど都会に行くほどに日本のハイボールに触れた経験のあるバースタッフや消費者が多く、味わいについてはドライさを求める消費者が多いように感じられます。
飲食店においては、ボトルソーダの管理やソーダ機材の品質が日本よりも緩く、従来のドリンクには強炭酸を使うという価値があまり見えませんでしたが、現在業界ではその価値がニューネス(新しさ)として受け入れられました。
―御社がハイボールを広めるにあたり、その分析データをどのように反映させていますか︖
例えばハイボールのバランスです。日本の角ハイボールはウイスキーとソーダを1対4で推奨していますが、アメリカのTOKIハイボールは消費者調査、現場の意見を元に、1対3を公式の推奨レシピとしています。フレーバーがジャパニーズウイスキーよりも強いジムビームなどのバーボンは1対4としています。
また、日本は生レモン絞りが定番ですが、アメリカでは酸味が強すぎるという声が多く、グレープフルーツなどのシトラスピールを推奨しています。ピール文化があるのが理由の一つです。このようなことを踏まえ、品質にこだわりがあり、差別化を求め、量販が見込める飲食店に向けて、積極的にハイボールマシーンの導入を推奨しています。
サントリーが展開するハイボールがアメリカ市場で受け入れられるための背景と戦略について、鈴木氏へのインタビューを通じて明らかになったのは、現地の需要を掘り起こし、ジャパニーズウイスキーの魅力を広め、アメリカの消費者に適応した形で展開を進めるという意欲的なビジョンだ。伝統を尊重しつつ現代的な消費ニーズに応えるため、サントリーは独自のローカライズを行い、日本発のハイボール文化を新たな地で根付かせる挑戦を続けている。
Photo: Niena Etsuko Hino
夏に行われたアパレルの展示会でポップアップした、サントリー ハイボール のブース。TOKI ハイボールマシーンを搬入し、サントリー ハイボールチームのアメリカ人メンバーと日本人メンバーが、会場に来ている多くのファッション関係者にハイボールを提供。
米国でのローカライズ戦略と今後の展望~サントリーが展開、ハイボールのあるNY流ライフスタイル④に続く