米国市場に参入した背景と戦略~サントリーが展開、ハイボールのあるNY流ライフスタイル③はこちら
アメリカ市場でのハイボール文化の浸透を目指すサントリーの具体的な取り組みについて、サントリー・US ハイボールチームを率いるシニア・マネージャー Highball COEの鈴木氏にインタビューした。現地の飲食業界や異業種とのコラボレーションを通じて、ハイボールを日常の一部として感じてもらうための文化創造に注力しているサントリー。さらに、サントリーのチーム構成や今後の展望についても伺い、日本とアメリカの架け橋となるブランド戦略の進化を探る。
鈴木 Andy 氏 インタビュー
―御社はハイボールを通して、どのような⽂化を作りたいと考えていますか。
消費者に向けた文化としては、「食中酒文化」としてハイボールと食事の掛け合わせを浸透させ、食事中に飲むドリンクの一つというポジションを目指しています。もう一つは、社内の営業マインドの文化として、顧客に寄り添った総合提案型営業や、店づくりを一つの型とした営業文化の醸成を図っていきたいです。
―ハイボールを広めていくにあたり、飲食関係以外に、アパレルなどのイベントを通じて新しい⽂化の創造を⽬指していると伺いました。 飲食ではないアパレル等のイベントを通じて展開する際に、大事にしていることは何でしょうか?
アパレルやその他の業種で、日本に出自や由来がある“MONOZUKURI” “MONOGATARI”が共感できる企業様やブランドとコラボレーションさせていただくことが多いです。相互の親和性という点を大切にしています。また、特に若い世代がクールと思うカルチャーを、共に発信し体験提供の場を創出することを目指しています。
―他には、どのような事柄・企画を通じて、ハイボールを広めていきたいと思っていますか︖
実際に消費者に向けてハイボールをお奨めしてくれる、業界の若いバーテンダー達への啓発活動です。そして、「TOKI Highball Week」のように、アメリカの消費者がごく自然にハイボールを楽しむ慣例行事として定着するような継続的なプロモーションを通じて認知拡大していこうと思っています。
― 御社がハイボールを伝える活動をしている中で、⼤事にしていることは何ですか︖また、「絶対にやること」と「絶対にやらないこと」が何かを教えてください。
多様な消費者にアプローチするためには、カクテルのような柔軟性をもったバリエーションもハイボールの魅力です。しかし、我々が目指すハイボールが何なのかというスタンダードは保ちます。それがぶれないように、店舗においてもメニューの中にはクラシックハイボールを加えていただき、それがあってこそのバリエーションハイボールという展開を大事にしています。
また、飲食店様向けセミナーでは飲用時品質の重要性を訴求するために、必ずロックグラスを使用します。それによって、実際にありがちな、氷も半分位しか入らず、ソーダも気抜けしたものを用いたWhiskey&Sodaと、我々が目指す理想的なハイボールとの違いを体感してもらうようにしています。その品質の違いを体感し納得してもらった上で、手段であるハイボールマシーンなどの提案に入るようにしています。
― アメリカを拠点とするハイボールチームは、⽇⽶のメンバー合わせて7名と伺いました。その活動において、そのチーム構成であることの理由と強みを教えてください。
ローカルのハイボールチームのメンバー6名と、日本のサントリーからの業務用営業パーソンで構成されています。米国内で酒類卸の経験をした後、当社のセールスを経験したメンバーやプロのバーテンダーやミクソロジストとして優秀だった人など、多様なバックグラウンドを持つ人が揃っています。皆、日本でハイボール文化を体験し、サントリーのDNAとGEMBA (現場)Wayの考え方とハイボール文化を一人ひとりが愛し、普及しようという集団です。
ローカルの価値観や文化などは、ローカルが一番知っており、私自身、習うことばかりです。サントリーのDNAを持ちながら、サントリーの創業精神である「やってみなはれ」を日本のメンバーでは思いもつかない形でそれぞれが各地で見せてくれ、US版のハイボールが着々と根付きつつあります。
一方で日本からアメリカに出店するチェーン様もいらっしゃるので日本チームと連携ができる人材も必要なため、チーム内でも役割分担や助け合いができています。
―今後の展開や展望について教えてください。
ハイボールは、バーテンダーの方々には認知をしていただけるレベルに到達しつつあります。今後は、消費者への認知拡大としてやることがまだまだあり、より効果的な優良体験のイベントを通じて誰もが知っているブランドとセットとなったドリンクスタイルにしていきたいです。
そのためにも現在行っているTOKI Highball Weekのような全米の主要11都市でのイベントを通じて、アメリカの酒類業界の恒例行事の文化として定着させていきたいです。
Photo: Niena Etsuko Hino
TOKI Highball Weekのキックオフイベントで行われた、TOKI Highballについてのレクチャー。ハイボールチームの中の、日本のハイエンドバーでの経験を持つアメリカ人メンバーが、日本とアメリカの両方の視点を持ちながら解説。
日本文化をどう伝えるか:サントリーの戦略と挑戦
鈴木氏は、アメリカ市場においてハイボール文化をどのように広げているかについて、具体的な活動と方針を詳しく語ってくださった。特に、カクテル大国のアメリカで低アルコール・低糖質志向を捉え、アメリカのカスタマーにとってのリフレッシュメントの一環としてハイボールを提供する意図が印象的。日本の伝統と革新を両立させ、アメリカ市場における消費者のニーズに応じた総合提案型の営業や、現地の飲食業界との緊密なパートナーシップ構築など、その試みは非常に多面的だ。
また、インタビューの中では、日本とアメリカの異なる文化的背景を理解しながら、日本の技術とサービスのスタンダードを伝えつつ、アメリカ市場に適応するための柔軟なアプローチについても語られた。たとえば、日本の角ハイボールのウイスキーとソーダ1対4のバランスを、現在のアメリカの嗜好に合わせて調整するなど、現地でのリサーチと実践を繰り返しながらのローカライズが行われている。
鈴木氏のインタビューを通じて、サントリーが展開するハイボールがアメリカ市場で確固たる地位を築こうとする過程には、数々の工夫と日本企業ならではの視点が活かされていることがわかる。では、こうしたグローバル展開を支える鍵はどこにあるのか?それは、海外で日本の文化をただ伝えるだけでなく、現地に根付くための「ローカライズ」に他ならない。
グローバル戦略の実践:日本の文化を伝えるためのローカライズ
ここからは、サントリー・USハイボールチームが日本の職人技と文化をアメリカ市場でどのように「グローカル」な視点で伝え、現地の文化に溶け込ませているのか、その戦略と実践方法に焦点を当てていこう。
サントリーの米国展開を図るハイボールチームが主催するイベントでの体験や、鈴木氏のインタビューを通して、特に「日本のものづくり」や「文化」を大切にするブランドや企業が、日本国外で展開を目指す際に参考になる考え方と実践方法があると感じる。それは、「大切にする」ということは「頑なになる」ことと同意ではないという点だ。物事のスタンダードを明確にし、それを堅持しながら、その他の部分にはその土地の文化に柔軟に適応するフレキシビリティを持つ。その実践と微調整を繰り返すことで、初めて「グローカル」の一歩を踏み出せるのだ。
人々の日常は、長い時間の積み重ねから形成されるものであり、一朝一夕で築き上げられるものではない。一時的なブームに過ぎないものは、日常の一部にはなり得ない。同じ地域で暮らしているというだけで人々を一括りにはできないが、その街の文化や人々の在り方、生活の背景に自然に溶け込むことが求められる傾向はある。ブランドやサービスを、その地域の消費者にとって想像しやすく、自分の生活の中に存在する身近に感じられる形にして、そして楽しさが伴う形で提供することが、海外市場に浸透するための必須のブランディング戦略だ。サントリー・US ハイボールチームの手法は、その点で多くの業種にとっても非常に参考になる事例であることは間違いない。
他の成功例を振り返り、自社の事例と比較することで気付きを得ることは、微調整や改善に役立つヒントを見出すプロセスでもある。「これをすればローカライズが成功する」という万能な方程式は存在しないが、成功している事例に当てはめて考えることは、創造的でポジティブなアプローチであり、損失を伴うこともない。まずは何かを参考に始めて、できていると想定して動いてみることは有効だ。ずっと真似をしっぱなしでは「自分たちのブランドとは?」となるけれど、参考にしてそれに沿って試みるのは自己を見失うことではなく、他との差別化のために役立つ要素を見つけ出すための過程でもある。そして、サントリーの「やってみなはれ」精神を参考に、どの企業もブランドも挑戦してみることにこそ価値がある。