こんな素晴らしいメンバーに、素晴らしい商品があるのにもったいない。縮小市場の中だけでどうにかするのではなく、市場を広げる、新市場へ出るという考え方にシフトできれば 、この会社ってまだまだすごくなるんじゃないかと強く思ったんです。そして、そのために自分は何ができるだろうと考えました。
取り組んだのは、自分なりのマーケティング戦略をメンバーに伝えること。それは顧客、すなわち消費者を起点に戦略を立案しPDCAを進めるマーケティングです。事例をつくろうと考え、いくつかの新商品開発をサポートしました。今までMizkanになかったような商品で成功例をつくれれば、開発へ迷いを持っていたメンバーに刺激と勇気を与えられるかもしれないと思ったんです。そんな意図を持って検討を進め、実際に企画し先頃発売されたのが、「地元を味わう味ぽん『味ぽんfor宇都宮餃子』」と「カンタン酢 トマト」です。
マスメディアン
取締役 国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名以上の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
──どちらも今までのMizkanとは一風異なる商品ですよね。それぞれどのように発想を得たのでしょうか。
「地元を味わう味ぽん」は、前職時代にプレミアム化戦略を推進した経験から着想を得ました。マス向けのブランドというのは、既存の消費者に対して付加価値の高い商品の提供、いわゆる「プレミアム化」はなかなか難しい。一方、そうしたマス向けブランドの中でもロングセラーのメガブランドは信頼を得ていることが多く、必ずしも付加価値型商品の提案が不向きという訳でありません。ブランドの特性を生かした付加価値を開発し、適切なマーケティングの4Pを設計すれば「プレミアム化」がかなうことが、経験上わかっていました。
そこで、今年60周年を迎えるぽん酢ブランド「味ぽん」のプレミアムラインの開発をチームに提案しました。すると「味ぽん」担当チームから、従来の「味ぽん」を餃子に合わせる消費者が一定数いることと、地域ごとの多種多様な餃子が旅行者に人気を博していることに着目して、「宇都宮餃子」に最適化した新しい「味ぽん」のアイデアが提案されました。「まさにこれだ！」と思い商品化を進めてもらい、今夏発売に至りました。土産品販売店を中心に展開し、おかげさまで好評いただいています。このように、ブランドは変えないままでも、提供価値をきちんと再設計すれば、より幅広い顧客に愛してもらえるようになります。
もう1つは「カンタン酢 トマト」。「カンタン酢」シリーズは、1本で味が決まる合わせ酢で、甘酢照り焼きやピクルスなど主食から副菜まで簡単につくれると、幅広い世代に好評の商品です。今までにも黒酢などいくつかフレーバーを展開してきたものの、消費者が「カンタン酢」を利用するメニューの数が少ないとわかっていました。
もっと広範に「カンタン酢」を使ってもらい、簡便な調理を望む消費者の期待に応えたいと考えていたところ、とあるミーティングで技術開発部門の担当者から「顧客戦略を見よう見まねで考え、試作品まで開発を進めてみました」と、要所を突いた顧客戦略と併せて、トマト系のソースとして使える「カンタン酢 トマト」の自主提案が。妙案だと捉え、顧客戦略を見直すとともに、具体策のひとつとして商品開発を後押ししました。
「カンタン酢」にトマトと鶏だしなどを加え、メニュー領域を洋食まで大きく広げるべく企画された「カンタン酢 トマト」は、その後順調に開発を進め、今夏発売されました。洋食メニューのハンバーグやナポリタン、チキンライス、ミネストローネにまで対応できる新しい「カンタン酢」として高い満足度を感じていただき、既にリピーター続出となっています。
