ユーザーが寝ている間も非同期的に働くAIエージェント
──まずは、AIエージェントとAIアシスタントの主な違いは何か、またそれらがどのように併用されるかについてお伺いします。
これらの用語は業界全体でまだ広く受け入れられたり、明確に定義されたりしているわけではありません。ただ、「AIアシスタント」とは、通常アプリ内で動作し、ユーザーとリアルタイムで連携するものを指します。
例えば、AdobeがAIエージェントを立ち上げたとします。Adobeのソフトウェア全体やWebサイト内で機能する場合、それはAIアシスタントとみなされるでしょう。Microsoftで言えば、OpenAIの技術を利用したCopilot for Microsoft 365があります。これはDocument、PowerPoint、Outlook、Teams、その他にもわたって機能しますよね。
これらは、場合によっては非同期的な作業も含まれますが、ほとんどの場合は同期的です。そして、私が今投資している次のカテゴリーが「AIエージェント」です。これらは非同期的に動作します。
AIエージェントは、ユーザーが寝ている間や別の会議に出席している間に動作できます。どのアプリかは通常関係なく、複数の場所で動作できるのです。そして、AIアシスタントよりも知能が高く、自分自身でタスクリストを作成する能力があり、メモリを持っています。他のAIエージェントを採用し、どんどん賢くなることも可能です。
AIエージェントの普及で、従来のマーケティングの在り方が変化
──日本で最も認知されているAI企業の1つであるOpenAIも、2025年1月にAIエージェントをリリースすると発表しました。AIエージェントが活用される未来はすぐそこまで迫っていると思いますが、企業はこれにどのように対応すべきでしょうか?
本質的には主に2つの戦略があります。まず1つ目は、今後最も一般的な顧客がAIエージェントになると認識することです。AIエージェントは人間を代理して行動するようになります。実際、企業のWebサイトを訪れる訪問者もAIエージェントがメインになり、消費者に代わって意思決定を行う可能性があるため、マーケティング担当者はこれに備える必要があるのです。特に日用品といった複雑な意思決定が不要な商品において、マーケティングの在り方は大きく変わるでしょう。
2つ目は、マーケティング担当者が自社のWebサイトやアプリで独自のエージェントを立ち上げることです。その際は、あらかじめ構築されているツールを活用することが予想されます。SalesforceやOpenAI、Adobeなど、多くの企業がこれを提供するでしょう。すでにHubSpotはそのようなツールを提供しています。エージェントはお互いにやり取りし、マーケターと消費者の間を仲介します。
近い将来、すべてのコンテンツ管理システムやWebサイト管理システムにはAPIが備わるでしょう。これがAIエージェントAPIであり、AIエージェントがWebサイトのすべての情報に迅速にアクセスし、取引を行うことを可能にします。
CMO(最高マーケティング責任者)はCRMシステムを準備し、AIエージェントのために新しい顧客記録を追加する必要があります。AIエージェントは顧客記録に関連付けられるものもあれば、どことも関連付けられず、どの顧客を示しているのか不明なものもあるでしょう。そのため、その日に備えてデータ構造も変更する必要があります。マーケターにとって重要なポイントは、データをコンテンツから取得する方法について、柔軟に対応することです。
また、マーケターが新しいインフルエンサー(コンテンツクリエイターやTikTokerなど)に対応する方法を学んできたように、次のインフルエンサーとしてAIエージェントが登場します。AIエージェントにも対応していく必要があるのです。
パーソナライズされた情報提供とさらなる業務効率化を実現
──マーケティング担当者の日常業務は、具体的にどのように変化するのでしょうか?また、どのようなスキルセットが必要になるのでしょうか?
すべてのマーケターは、企業内でAIエージェントが自分たちの業務を支援する形になります。すでにHubSpotなどで一般的なユースケースが見られますし、Agent.aiでは市場調査を支援するエージェントが提供されています。これは、かつて私がForresterのアナリストだったころの仕事に近いものです。
そして今では、これらのエージェントに自身の作業を代わりにさせることができます。すべてのマーケターが、ビジネス内でAIエージェントのサポートを受けることになり、最初に目にする変化はデータ操作の分野でしょう。これはつまり、AIエージェントがマーケターの顧客対応を支援し、大規模なパーソナライズメッセージの生成を可能にするということを意味します。
これまで、マーケターは一斉メール配信で、同じメールを10万件の連絡先に同時に送信し、全員が同じメッセージを受け取っていました。しかし、将来的には、パーソナライズされたメッセージを送ることができるようになります。
またこれは、見込み客や顧客がWebサイトを訪問した際に、その個人に合わせてパーソナライズされたコンテンツが表示されることも意味します。これはマーケターがこれまでできなかったことです。そのため、より高いコンバージョン率を実現する独自の機会が生まれることになります。ただし、そのためにはデータが事前にきれいで完全な状態に整理されている必要があります。マーケターがそれを実現できているかどうかが問題となるでしょう。
Agent.ai(AIエージェントを雇用できるマーケットプレイス)を例に、AIエージェントの活用例にどのようなものがあるか確認してみましょう。企業調査、画像生成、コンテンツ生成、競合分析、コピー編集、見込み客分析などがあります。今では、外部の人もこれらのエージェントを作成できるようになっています。立ち上げ時には12個ほどしかなかったのに、今では100個以上のAIエージェントがあります。
AIエージェントによりマーケターは、低コストで単純な作業を行ってくれる、たくさんのマーケティングワーカー(部下)を持つことができるようになります。そして、それらの作業を組み合わせることで、時間とともにより複雑なタスクが作り出せます。そこで新しい役職が生まれるかもしれません。マーケターは、AIエージェントのマネージャーという役職のために誰かを雇用したり、人材を育成したりする必要があるかもしれません。
──AIエージェントは消費者サイドと企業サイドの両方を変革しますが、どちらが先に進むと考えていますか?同時進行になるのか、それとも消費者が先に適応していくのでしょうか?
現時点ではまだわかりません。というのも、企業側が消費者サイド向けにどのような製品を展開しているのかを示すデータがまだないからです。これらの製品は今まさに登場し始めている段階なので、どちらが先かを判断することは難しいです。ただ、企業の中でどの部署が新しいテクノロジーを最初に採用するかといえば、通常はマーケティング部門です。マーケティング担当者たちはこういった新技術への適応が非常に速いです。
Webサイトの重要性は低下し、体験が重視される世界に
──AIエージェントの発展により、人々のWeb上での行動はどのように変化するのでしょうか?情報収集の方法がウェブサービスに集約されていくことで、ダイレクトメールや実際のイベントといった従来のチャネルはどうなっていくのでしょうか?
かなり近い将来、人々がインターネットを訪れる必要がなくなるでしょう。そして、インターネットが人々のところにやってくるのです。つまり、AIエージェントが情報を取得し、それをWebサイトから切り離して提供してくれるようになります。
そのため、Webサイト自体はそれほど重要ではなくなります。エージェントAPIがあれば、Webサイトのブランディングもデザインもそれほど重要ではなくなります。これは、エージェントがすべての情報を収集し、ユーザーのために一元化して提供するようになるということを意味します。これが第一のテーゼです。
第二のテーゼは、ユーザーや消費者が望む形で情報が再構成されることです。もしWebサイトがテキストベースのものであっても、ユーザーが音声での情報を好めば、AIが音声に変換して提供するようになります。もしユーザーが視覚的な情報を好むなら、AIは動画を作成します。たとえマーケターがそのようなコンテンツを作成していなくても、AIエージェントがユーザーのために作成します。そして、ユーザーは『この程度の情報量が欲しい(少なめ、中程度、多め)』『このような形式で欲しい』と指定することができるようになります。
まさにゲームチェンジャー。消費者や購買者が、自分の望む方法で情報を消費できるようになります。消費者が特に要求しない限り、ブランド自体もそれほど重要ではなくなるでしょう。消費者は、もうあなたのWebサイトを訪れることはないかもしれません。あなたのメールを読むこともないかもしれません。あなたの代わりにAIエージェントがそれを行うようになるからです。
では人間には何ができるのでしょうか?
1日のうち、何時間をオンラインで過ごしていますか?アメリカ人の場合、平均で7時間です。これは人類にとって最適な時間の使い方とは言えません。マズローの欲求階層でいうと、もっと高次の活動ができるはずです。
そのため、「体験」がより重要になっていくでしょう。または体験の中に製品を組み込むことも……。ここでマーケターにとって連鎖的な変化が起きているのが分かりますよね?エンターテインメントの中に製品を組み込んでいく重要性が高まり、看板広告の価値も上がっていく、というように。
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