東京コピーライターズクラブは、12月11日に東京・ウェスティンホテル東京にて2024年度TCC賞授賞式と「TCCコピー年鑑2024」発刊記念パーティーを開催した。
本年度の受賞者の皆さん。
2024年度TCC賞は、グランプリ 1作品群・TCC賞14作品群・最高新人賞1名・新人賞17 名・審査委員長賞2作品群が選出された。
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式の冒頭で、谷山雅計会長は「TCCの活動が平常運転にもどってきた」と話した。
「(コロナ禍以降は)次のTCC賞の応募のタイミングに授賞式やパーティーを開く……という状況になっていましたが、関係者の皆様のご尽力のもと、今年の賞を今年の内にお祝いすることができました。今年の喜びは今年のうちにじっくりと味わいつくして、2025年に新しいスタートを切ることができます」
続いて、2024年度の審査委員長を務めた磯島拓矢氏は、本年度の審査について次のように話した。
「TCCグランプリを受賞したカロリーメイトはTCC賞の常連ではあるのですが、毎年新しくなっていく底力のようなものがあります。
ちなみに、TCC賞はいつも票が割れるんです。票が割れるんですけど、その中でグランプリだけが決まっていったような審査でした。
なぜ票が割れるのかと言えば、TCC賞の審査はとても無理なことをしているんです。5分くらいのWebムービーと新聞の突き出しを同じ土俵で比べるという、そもそもが無理な話で、票が割れるのは当然ではあるのですが、審査を重ねる度に結構無理なことをやりながら結構いいなというときがあります。賞の正しさやクライテリアの正しさだけを求めていくと、どんどん細分化されてトロフィーの数だけが増えていく。でもそういうことではなくて、言葉という一番大事なものを見て、判断する。そういう作業の中に賞としての面白さやダイナミズムがあり、ダイナミズムの中から新しいものが生まれてくるのかなと思います」
TCC最高新人賞に選ばれたのは、原田堅介氏(CHERRY/ADKマーケティング・ソリューションズ)。タマノイ酢のラジオCM「すしのこ」他、パラレルのポスターなどが評価された。原田氏は、13回目の挑戦で今回TCC最高新人賞を受賞した。
すしのこのプロジェクトは、Z世代を含めた若い人たちに、すしのこを食べてもらう機会を設けられないかということから始まったプロジェクト。その中で、ラジオCMに挑戦することになったという。
「このラジオCMを作るときに、タマノイ酢の社長とお話させていただいたのは面白いものを作ろう。面白いものを作るんだけど、やっぱり商品を食べてもらいたい。あの商品を食べたくなるという売りに繋がるものを作りましょうということでした。
CMオンエア後、実際にこれを聞いて食べたくなった、やってみたくなったという声が聞こえてきて、チャレンジをしてよかったなとあらためて感じました。
もう一つのパラレルは、数年前からお付き合いさせていただいている企業のご担当者が転職をして、何か新しいことをやりませんかと声をかけていただきました。
こちらもラジオCM同様、スタッフみんなで腹を抱えて笑いながら、楽しみながら作りました。やはり作り手側が楽しみながら作ると、すごいパワーが宿ることを実感させていただきました。
今年40歳になり、ようやくコピーライターとして名乗れるなというタイミングになりました。人の幸せを応援したり、商品や世の中や社会の幸せを応援する仕事をさせていただけるとは本当に幸運なことだと思っています。あらためてこういう仕事をさせていただいていることに感謝をしながら、これからも作り手の僕が一番楽しみながら広告制作に携わっていきたいと思っています」
TCCグランプリを受賞したのは、福部明浩氏 (catch)、大塚製薬/カロリーメイト「光も影も」のテレビCMとグラフィック広告だ。グランプリの受賞にあたり、大塚製薬の井上眞代表取締役社長が祝辞を述べた。
「福部さんには、2012年からカロリーメイトの広告に携わっていただいていいます。『受験CMを冬の風物詩にします』と最初に明言された通り、いつの時代も受験期にがんばる人を栄養で応援する、強いコミュニケーションの積み重ねがいまのカロリーメイトの資産になっていると実感しています。
このCMは10作目で、最初のプレゼンでおっしゃっていた『風物詩』という目的はある程度達成できたと思うのですが、福部さんは大人が思い描く忍耐や我慢の受験を描き続けると、高校生たちにカロリーメイト自体を受け入れられなくなるんじゃないか、そういう課題があるとおっしゃった。
今回ご提案いただいたポイントは我慢、忍耐食ではなく、もっと集中するための没頭食へと舵を切ること。受験というのは決して一本道ではないことを示すこと。それを踏まえて美大受験生と理系の受験生を通じて、光と影を描くという提案でした。
そしてもう一つ、このブランドを山ではなく、山脈のように育てていくためにも、新しいものを生み出す時期ですというご提案がありました。
10年間同じテーマでずっと丁寧に作りこんでいただき、毎年受験生など若い方にインタビューを重ねています。その普遍性と時代性を捉える福部さんならではの視点だったと思っております。
今回は、受験を忍耐の時期としてではなく、美術と数学に没頭する2人を描くことで、ポジティブな時期へと変換しています。そこに寄り添うカロリーメイトを描くことで、ブランドの新しい立ち位置を示していただいたと思います。
消すことは、次に向かう光だと。理系の福部さんと技術系のアートディレクターの榎本卓朗さんとのコンビで、コピーや絵コンテを書いたり消したりしていただきながら、カロリーメイトにこの先の光を与え続けていただきたいと思っております。
考えるということは影しかありませんが、これからも末永く永遠の浪人生としてよろしくお願いしたいと思っています」
大塚製薬 井上眞代表取締役社長
続いて、福部氏が受賞の言葉を述べた。
「僕にとってカロリーメイトの仕事は自分の代名詞になっているものであり、人生変えてもらった仕事です。2012年に満島ひかりさんの『ファイト!』のCMを自主プレゼンさせてもらって、『冬の風物詩にします』と言ったものの、本音としては1回でいいからカロリーメイトのCMを作らせてほしいという気持ちでした。自主プレだったので、採用されたらラッキーという感じで、全部で4案プレゼンした中で、満島さんの企画だった最後のD案を選んでくれたことがめちゃくちゃ嬉しくて。それが今10年以上続いて、いまにつながっています。
ラッキーなことに、僕は入社1年目に通信教育のZ会という受験関連の仕事で新人賞をいただきました。そのラッキーが2年目以降も続きました。3年目、4年目、5年目と3年連続でTCC部門賞をいただいたのですが、それも同じZ会。これまでに受験でしか褒められていなくて、本当に僕ほど受験に救われているコピーライターはいないと思います。
今回のCMのテーマである光と影で言えば、最初の5年間は4回受賞して光があったのですが、やはり宇宙の摂理と言うべきか、その後の10年間はまったく何の結果も出ませんでした。でも、いま振り返ると、その10年が自分にとってはめちゃくちゃ財産になっている。それは変な根性論ではなく、いま僕が仕事を一緒にやっているコアメンバーに会えたのが、その10年の間でした。アートディレクターの榎本卓朗、毎日のように作業させてもらっているキャベツデザインのみんな、ほぼすべてのCMを一緒につくっているAOI Pro.のみんなと出会ったのは、まさにこの10年。そういう意味では、今の自分を支えてくれているのは、その10年の間に出会った人です。
光が当たっているときに出会った人は光が当たらなくなると、いなくなってしまう感じがするのですが、影の時代に出会った仲間とはすごく太い絆があります。お互いほとんど何も期待感がないままやってきたことが、すごくいい絆になっているのかなと思うんですけど、その10年があったからこそ今こんなふうにやっていけるかなと思っています。
最初に1本でいいからカロリーメイトのCMをつくらせてほしいということから始まり、10年以上続き、その節目の10本目のCMがこんなグランプリもらえるなんて想像さえしてなかった。影の10年の間に出会ったみんなと一緒に続けることができたのだなと思います。
井上さんもおっしゃっていましたが、考えるっていうことは本当に影の中を歩くような作業で、Z会のときに思ったのですが、賞というものは光と影の両方いっぺんに連れてくるんだなと。今日、新人賞を受賞した皆さんにもそういう時期が来るかもしれないんですけど、そのときは後ろの光を振り返るんじゃなくて横で一緒に楽しむ人を見つけるようなことが、影の時代には一番いいことかなと思います。僕はそのメンバーがいるから、今もやっていけているし、さっき永遠の浪人生言われましたが、もういらんよって言われるまではこのメンバーと一緒に続けていきたいと思います」
2024年度TCC賞グランプリを受賞した福部明浩氏。
授賞式の最後には、本年度の『コピー年鑑2024』編集委員長である尾形真理子氏が登壇。「ひとつひとつのコピーに光を灯す」ことをテーマとした新しいコピー年鑑について紹介をするとともに、これからの年鑑制作についての課題を投げかけた。『コピー年鑑2024』は、2025年1月20日に全国の書店およびオンライン書店で発売予定だ。
『コピー年鑑2024』編集委員長 尾形真理子氏