前編では韓国ドラマの5つの特徴を挙げましたが、本編では私が驚かされたドラマの構造について、『気象庁の人々』や『わかっていても』などの具体的なドラマの例を挙げて解説します。
【前編】
1. 韓国ドラマの特徴
・OSTで、観終わった後も余韻が続く
・キャラクターによって倍増する愛着
・PPLによってCMが途中で入らず集中力が続く
・1話90分/全20話/週2放送というフリークエンシーの高さ
・ギリギリまで結末が変わる?視聴者の声反映型
【後編】
2. ストーリーだけでなく、新しい構造に驚かされる
・『まぶしくて』
・『気象庁の人々』
・『わかっていても』
3. 最近の作り方のトレンド
・2カ国合作
4. まとめ
2. ストーリーだけでなく、新しい構造に驚かされる
前編の第1章では、韓国ドラマ全体に対する特徴をあげましたが、この章では、驚かされた作品の構造について作品別にお話しします。
ドラマは、ストーリー自体がクリエイティブのため、ドラマの構造で遊ぶ、みたいなものはあまり多くありません(私が知らないだけかもしれませんが)。
しかし、韓国ドラマには、ストーリーだけでなく、構造も面白いドラマがたくさんあります。ここでは「こんなに面白い使い方があるのか!!」と思わされた構造を挙げていきます。
以下、ネタバレになりますので、観たくない方は飛ばしてください!
『まぶしくて―私たちの輝く時間― 』(2019)
このドラマはタイムトラベルものの恋愛ドラマで、「時間を巻き戻せる女の子が、時間を巻き戻した代償でおばあさんになってしまい、両片思いだった男の子との恋愛に大波が・・・」というあらすじの、ファンタジー/SFジャンルです。
‥と言われると、そういう話なんだな、と思いながら観始めますよね。ドラマを観る時は、第1話を観た段階で「きっとこういう話なんだな」という自己解釈が働くと思います。上に書いたあらすじは私が1話目を観て汲み取ったストーリーです。
そして全12話中、1話目から11話目までこの認識は変わらずでした。しかし、最終話で驚きの結末が待っていたのです。
実はこのドラマはすべて、認知症のおばあさんの“存在しない過去の記憶”、つまりフィクションだったのです。主人公はタイムトラベルもしませんし、実際の物語はファンタジーでもない、超現実的なドラマだったのです。
ただ最終話で、おばあさんの“本当の過去”が流れるのですが、時代やシチュエーションなど仔細な部分は違うものの、“存在しない過去の記憶”と、ところどころ共通する部分が散りばめられていました。
話は少し逸れますが、実際に認知症のおばあさまが孫のことをヘルパーさんに紹介する時に「可愛がっていた猫」などと紹介することがあるそうです。本人にとっては、猫も孫も「小さくて、愛おしくて、守るべき存在」という認識は一緒で、記憶がなくなってしまってもその大切な部分は覚えていたりするみたいです。
つまり、おばあさんの“本当の過去”と“存在しない過去の記憶”で共通する部分は、おばあさんにとって、大切な記憶だったり、大きな後悔だったり、深い愛だったりするのかもしれません。
ファンタジーものとして、恋愛のキュンキュンを楽しむために観始めたドラマでしたが、最終話では、涙が止まりませんでした。
このような意表をつく展開はその後に感じる感情(今回の場合は感動)が一層深まりやすいです。
『気象庁の人々: 社内恋愛は予測不能?! 』(2022)
社内恋愛をしていた女性が、恋人に社内浮気され、それが会社に知れ渡り…と散々な思いをしたことで「一生社内恋愛なんかしない!」と決意するところから始まる第1話。
しかし、社内の後輩に懐かれ、彼からの猛アタックが始まります。そして第3話で、2人で食事に行った際に後輩が早々に告白するも、当然振られます。その後、女性が「恋愛であらぬ噂が立つのはもう懲り懲りだ」と、2人で食事に行ったことがバレないように、社内であえて彼にキツく接するシーンが描かれます。
私はこれを観ている時に「まあまだ3話だしそうだよね、それで何やかんやあって10話とかには付き合うんだろうな〜」と思いながら観ていたのですが…。
観進めていくと、なぜか第4話で第3話の告白とまったく同じシーンがもう一度流れます。「あれ?」と思っていると、その後、第3話ではカットされていた告白シーンの続きが流れました。
なんと一度振ったのですが、後輩側が粘った結果、実はその日に2人は付き合っていたのです。
つまり、私たち視聴者は「会社の同僚」の視点に立たされて、主人公に「付き合ってない」と騙されていたというわけです。
基本的にドラマは、視聴者は第三者として客観的な視点で見ているか、主人公の心の声が聞こえるなどの仕掛けで主人公の視点に立つかのどちらかであることが多いです。この視点を利用され、まんまと騙されました。
『わかっていても』(2021)
本作は、サブタイトル(話ごとについているタイトル)を効果的に使用しています。
「運命なんかないとわかっていても」
「私だけじゃないとわかっていても」
「始まってしまったとわかっていても」
「愛ではないとわかっていても」
「変わらないとわかっていても」
「愛などないとわかっていても」
「取り返しがつかないとわかっていても」
「ウソだとわかっていても」
「もう終わりだとわかっていても」
「わかっていても それでもやっぱり」
と、サブタイトルすべてにタイトルの「わかっていても」が入っています。
サブタイトルがその回のストーリーにバチっとはまっているのもポイントですが、それだけでなく、タイトルの「わかっていても」を反芻することで、それがどんな意味を持っているのか、どうしてこのタイトルなのかを視聴者は何度も考えるので、解釈が深まり、記憶に残るドラマになりやすくなっています。
以上、第2章では、具体的に3つの作品を取り上げて、構造を利用した面白さについてお話ししました。
3. 最近の映像作品のつくり方のトレンド
最近のドラマや映画のつくり方のトレンドとして、「2カ国共同制作」が挙げられます。
韓国ではないですが、映画『青春18×2 君へと続く道』は台湾と日本の共同制作でした。
また、日韓共演作としてあげられるTBSドラマ『eye love you』は、二階堂ふみさんとチェ・ジョンヒョプさんのダブル主演。
そして最近では、日韓共同制作のドラマ『愛のあとにくるもの』が話題になっていました。
坂口健太郎とイ・セヨンがW主演を務めた『愛のあとにくるもの』。辻仁成とコン・ジヨンによる同名のベストセラーをドラマ化した。
国をまたいだ共同制作であれば、単純に観てもらえる母数が増えるので、それだけ話題量も増え、話題になりやすいというのもありますし、放送時期は日韓でほぼ同時でも、多少ずれたりするため「あっち(の国)ではもう配信されてるんだ!私たちも早く観たい!」と一層待ち遠しくなります(『愛のあとにくるもの』は韓国が先行でした)。
また、両国の視聴者が「片方の俳優は知らないけど、片方は自国で人気の俳優だから知っている」という状態になるため、視聴のハードルが下がります(出演者を誰も知らないと、絶対に面白いとわかっていない限りは観始めるハードルが高いため)。
このように、「仕組み」や「構造」のアイデアでこんなにも人々を魅了するコンテンツが誕生するのです。ストーリーの面白さはもちろん、このような「幸せな大どんでん返し」「意表をつく展開」など、いい意味での裏切りがあるドラマにはとてもワクワクさせられます。
この法則は、ドラマに限らずに色々なものを作るのに参考になるなと思い、今回はドラマについてを紹介させていただきました!
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今回は、韓国ドラマはなぜここまで人々を魅了するのかについて分析しました。ここまで読んでくれた皆さま、ありがとうございます!
さて、次回のコラムのテーマは「韓国の写真事情」についてです!
韓国のユニークなプリクラや取り方などを分析していきます。次回もぜひお楽しみいただけると嬉しいです!