筆者は、コミュニケーション・広報のコンサルティング会社Key Message International(KMI)の代表取締役をしています。昨年同様に、これまで国内/外資のファームなどで積んだ、デジタル・グローバルな広報・PR経験をふまえながら、グローバルPR市場からの知見や課題を独自の視点からお伝えします。
本コラムの3回目は大学生に対して、卒業後のキャリア選択肢の中からPRを選んでもらうための事例をインドから、4回目は小中学生と協力して盛り上げたイベントPRの事例を同じくインドから紹介しました。
そして5回目の今回、お国は変わってスウェーデンから、こちらも若い力を前面に押し出したPR事例を紹介します。
首都ストックホルム市が巨費を投じたシステムが大不調
スウェーデンの首都ストックホルム市内の学校で使われているスクールマネジメントシステム(校務や学習進捗管理、学内の情報管理プラットフォームなどを含むオンラインシステム)に、ストックホルム市は1億ユーロ(記事執筆時点のレート換算では、160億円ほど)を費やしたものの、そのシステムへ使われたテクノロジーは時代遅れでシステムは不人気に陥り、悪評が高まっていました。
そのようなシステムを実際に使っていて不便を覚えた当時弱冠20歳の若者、アドリアン・アンダーソン氏は2020年、仲間たちと開発した新しいオンラインプラットフォーム「Meitner(以下、マイトナー)」を引っ提げて起業しました。
マイトナーとは、核分裂の発見などに大きく貢献し、スウェーデンでも研究活動をつづけたオーストリア出身の物理学者、リーゼ・マイトナー(Lise Meitner)の名字をとって、名付けられたとのことです。原子番号109番目の元素であるマイトネリウムも、彼女の名前に由来しています。
Z世代へ訴えるPRは、Z世代のCEOから
マイトナーの製品イメージ(Meitner社による提供)
まだマイトナーに製品のベータ版と少数のクライアントしかいなかった頃、アンダーソン氏はスウェーデンのGul PR社に製品のPRを相談しました。
Gul PRの代表取締役であるヴィルヘルム・ハンゼン氏は、実際に古いシステムを使っていた若者であるマイトナー CEO・アンダーソン氏自身を、前面に押し出したトップPR(組織の長を前面に出すPR手法)を中心にPR戦略を練りました。
ターゲットオーディエンスとして、投資家やスウェーデン国内の小中学校関係者に加えて、7から19歳までの学生やその両親、祖父母を対象に設定。メディアリレーションズを主な活動に定めました。
すでにスウェーデン国内では多くのメディアと付き合いがあったハンゼン氏は、スウェーデンの最大手紙であるDagens Nyheter(ダーゲンス・ニュヘテル紙、国内発行部数第一位)、SvD(スヴェンスカ・ダーグブラーデット紙、直訳は「スウェーデンの日刊紙」)、Göteborgsposten(ヨーテボリ紙)をはじめ、多くのビジネスメディア、地方メディアなどにアプローチしました。
アプローチの際は、アンダーソン氏が初めて起業したのが15歳の時だったことや、彼の才気煥発な側面、ルックス、ヴィジョナリー(将来を見通す力)なパーソナリティなどを、積極的に伝えました。また、Z世代に浸透しているポッドキャストなどの音声メディアにも働きかけました。