学校で多様性を学ぶ「カルチャーバッグ」という手法

みなさんは、「Culture Bag Assignment」(以下、カルチャーバッグ)と呼ばれるものを聞いたことはあるでしょうか?

海外の教育学や社会学などで登場する手法のひとつのようですが、私はアメリカに住み始めて初めて出会った授業でした。今回は「カルチャーバッグとは何か?」から、始めたいと思います。

カルチャーバッグとは何か?

カルチャーバッグとは、その名前が示す通り、「カルチャーバッグを持ってきましょう」と授業で言われた場合、皆がひとつのバッグを用意します。

バッグの外には、自分が周りから見られているシンボルのようなものを貼り付けたり提示し、バッグの中には、自身の内面をかたちづくったり、定義したりする上で重要なもの、たとえば、自分のルーツに関するカルチャーや自分の好きなものを入れます。それを、みんなの前でプレゼンテーションするというのが、この授業の一般的な手法です。

このカルチャーバッグのことを知ったのは、我が家の子どもたちが通う小学校の低学年の授業でした。毎年、年初には、自身を紹介する何か?を持ち寄るというイベントが必ずどの学年にもあるように思いますが、低学年の2年生の授業に、実際にこの「カルチャーバッグ」をつくって持ってきてというアサインメントがありました。

カルチャーバッグの2つのポイント

筆者の子どもたちが実際に学校に持っていった「カルチャーバッグ」の中身。

カルチャーバッグには、ひとつに、その外見のステレオタイプと、本当の中身にはギャップがあるということを学ぶこと、もうひとつに、さまざまなオリジナリティを知ること、この2つのポイントがあります。

小学生では、前者はちょっとハードルが高いので、中身のみにフォーカスされ、バッグの中に入れるのみのアサインメントとなります。

毎回のように、うちの子たちは「日本」にまつわるアイテムと、自分の得意なこと/好きなことにまつわるアイテムを入れてプレゼンテーションをしています。おせち料理とか、お寿司とか、お寺とか、生まれ育った鎌倉の話とかを。

両親ともに日本人の我が家は、自分の出自的なカルチャーは「日本」に限定されるのですが、移民が多く、ルーツが多様なこのアメリカにおいて、クラスメイトのカルチャーバッグはオリジナリティが溢れるものとなります。

たとえば、母親がアメリカとドイツのミックスであり、父親がアメリカとベトナムのミックスだった場合には、この時点ですでに3つのカルチャーが混在し、それをプレゼンテーションに組み込むことができるのです。

日本のカルチャーを表す一例として、筆者が毎年つくる「おせち料理」の写真を子どもたちのカルチャーバッグに入れている。

韓国、トルコ、スペインなど、各国にルーツを持つクラスメイトがその国のお菓子を持ってきてくれることもあり、その文化を学び、毎回楽しそうに、その日のプレゼンテーションのことを話してくれます。

一人ひとりが、さまざまなルーツを持つこと、そしてそれを尊重し合うことを学ぶ授業と言えるでしょう。我が家のような家庭の子どもであれば、「ひとつだけ」という特異性にも、気づいているかもしれません。

「ひとつだけ」ゆえのメリット/デメリット

日本でこの「カルチャーバッグ」をやったら?と想像してみてください。ほとんどの人が「日本」ルールなので、きっともっともっと細かくなっていくことでしょう。お雑煮が丸餅か、角餅か、味噌か醤油か、みたいな話のように、深く、細かく、小さな違いを追求していくことになります。

移民が少なくほぼひとつの民族で完結しているこの日本の状況は、日本の言語やものづくりのコンテキストがハイコンテキストになることや複雑になることにつながっていますよね。

それは、より繊細な表現を生み出すことにつながっている面もあります。文化的な深度を高めていき、最近インバウンドでまたまた話題となっている、日本のいわゆる「クール・ジャパン」の要素を生み出しているように思います。

その反面、多様性への理解だったり、寛容さであったりが失われているように感じます。

SNSで今年もたくさんみられた「女性と男性」「おじさんと若者」といった二項対立による、片方だけの立場で相手をバッシングする炎上騒動の過熱も、自分以外の立場のひと、背景を持つひとの立場に立つことで緩和されるでしょうから。みんなが日本人であるからこそ、意識をして多様性に目を向けたいと思うのです。

職場のチームビルディングとしてのカルチャーバッグ

今回、このカルチャーバッグを紹介しよう!と思ったきっかけは、職場のチームビルディングとしてどうでしょう、という提案をしようかなと思ったからでした。

今年最後のコラムです。年始には決起会や、合宿などチームビルディングの機会を持っているチームや会社も多いはず。

大人なのでぜひ、バッグの外側もつくって、その外から貼られているレッテルと中身のギャップのプレゼンテーションも込みで、自分とは何か?をチームメンバーと共有するところから、1年をスタートしてみるのはどうでしょうか。

その人をつくり出す要素や背景に目をむけることで、相互理解と寛容さへと繋がればいいなと思っています。

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松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)
松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

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