最新の技術を誰もが使えるように
CDP(カスタマーデータプラットフォーム)事業を世界75カ国で展開するトレジャーデータは、当初から世界を見据え、3人の日本人が2011年に米国シリコンバレーで創業した。同社がずっと目指してきたのは、最新の技術を誰もが使えるようにしていくことだ。
冒頭で山森氏は、顧客の行動履歴から最適な接点を見つけ出し、企業と顧客のコミュニケーションを管理するというCDPの基本的な機能と役割について説明。メディア最適化によるROIの改善、カスタマージャーニーの最適化とLTV向上などのライフサイクル管理といったトレジャーデータCDP導入企業の事例についても触れた。
トレジャーデータ Chief Customer Officer(最高顧客責任者)山森康平 氏
マーケティング効果を向上させる生成AIの可能性
CDPの運用に欠かせないのは自社で収集した1st Party Dataだが、生成AIを組み合わせることでさらなる最適化が実現できるというのが講演の主題だ。Googleが発表している資料によると、Googleの生成AIに1st Party Dataを取り込んでキャンペーンを行うと35%パフォーマンスが向上するほか、カスタマーマッチでは5.3%向上、拡張コンバージョンでも3.5%の改善が見られるという。
続いて山森氏は、広告効果の改善を目指して「Treasure Data CDP」を活用したアパレル企業のケースを紹介した。同じ設定で広告の配信を続けてきたため、広告効果が薄れてきていたという。コンバージョンやアクセスログもまとめてCDP内で機械学習をさせ、広告プラットフォーム(PF)であるGoogleやMetaを通じて配信したことで、目標を大きく上回る売り上げとROASを達成した。
この事例のポイントとして山森氏は3つの点を挙げる。まずは1st Party Dataを広告PFに連携させ、広告PF側の機能やAIの力をフル活用したこと。次に自社CDP内で機械学習を行うことで広告PFに良質なデータを渡して、広告パフォーマンスを向上させたこと。そして最後に「アノニマスオーディエンス」(属性などが特定できていない潜在顧客層)に対するターゲティングをCDPで実現したことだ。
特に2つ目に挙げた自社のCDPに機械学習させることについて、山森氏は「広告PFが提示するものとは異なるオーディエンスをつくることができる。この方法はコンバージョンした人のデータを貯めて、Webサイトのアクセスログに対するスコア、CookieのIDに対してアクセスログを広告PFに連携させることになるので、アノニマス層へのターゲティングもできる」と補足した。
また、CDPで統合されたデータ基盤を持つことのメリットについて、「例えばアプリプッシュ通知で届かない人にはLINEでアプローチ、それでも届かない人にはメール、それで届かない人にのみ広告配信」という運用をすることで、リーチを最大化させつつコスト効率を高め、顧客体験も損なわないと説明した。
エンジニアでなくてもCDPの操作が可能になる
後半は、AIの導入によって、実務がどう変わるのかを詳しく解説した。AI導入前の自社CDPの運用画面を参照しながら「これだとマーケティング部門の人しか使えないけれど、ここに生成AIを加えることによって、全部門の社員でも使える状態になるのではないか。そのターニングポイントにあると考えています」と話した。
トレジャーデータのCDPには顧客のデータが蓄積されており、ここにAIのフレームワークが組み合わされる。その機能は大きく3つある。ひとつ目が分析やセグメンテーションを補助する「Marketing Copilot(マーケティングコパイロット)」、2つ目はEメールの作成に使う「AI Email Studio(AI Eメールスタジオ)」、そして3つ目が自動でプロンプトを書くことができるエージェント「Build Your Own AI(ビルドユアオウンAI)」という機能だ。
山森氏は、これらの機能が「Treasure Data CDP」上でどのように作用するのかを、マーケティングフローに沿って説明。いずれの機能も、必要なタイミングで日本語のチャット形式で依頼を行うと自動でデータの提示や分析を行ってくれるほか、そうした結果に基づいた施策案まで作成が可能だ。CDPはAPI連携も実装しているため、作成したキャンペーンを広告PFと連携し展開できる。山森氏は「企画のプロセス全般をものの数分でできるようになるのは大きい」とメリットを強調した。
これまで、このようなフローはエンジニアやデータエンジニア、アナリスト、マーケターと多くの人と職種、部門を介して行ってきた。「職種や部門をまたいでいると作業時間としては180分かもしれませんが、期間としては2週間近くかかることもあります。生成AIを使うことによって、エンジニアのバックグラウンドもなく、理系でもないマーケターでも一人で全部できるようになります。これは生成AIがもたらしたイノベーションだと思っています」(山森氏)
また、Eメールやバナー作成についてのサポートにも言及した。「トレジャーデータには世界中で事業を展開するお客さまもいるため、多言語でのメール作成もサポートしています。2025年にはAIで作成したメールを各事業者が使っているメール配信ツールに連携できる機能の提供を予定しており、日本語にも対応する見込みです。マーケターの作業スピードを大きく高めることが期待できます」(山森氏)
AIは生産性を大きく向上させる可能性を秘めている
最後に山森氏は「私たちのCDPはお客さまの体験をよくすることが第一と考えています。データをつなげることでお客さまが心地よいと感じていただけるコミュニケーションができるようになると同時に、無駄撃ちを減らすことによって広告パフォーマンスが向上する一石二鳥のツールです」と話した。
さらに、AIによって、企画の準備や工程、企画、コンテンツ制作といった複数職種にまたがり、人的リソースをかけて行っていた作業を大幅に短縮させることができる。これによって全従業員がマーケターとして仕事に取り組むことも可能になるため、山森氏は「生成AIを業務に使っている会社と使っていない会社で、生産性に大きな差が出てくる」と指摘した。
すでにトレジャーデータの顧客も含め、30億、40億ほどの売上規模を誇る企業でも社員5人程度の会社もあるという。山森氏は「こうした企業は生成AIと外注を使っているが、私たちはCDPを通じて同じような生産性の向上をお客さまにお届けしたい」と話した。
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