私は、AT&Tやノキアといった外資系通信・システム企業で営業、マーケティング、広報の責任者を務めた後、2007年にレッドブル・ジャパンに入社しました。
それまで、さまざまな製品を持つグローバルテクノロジー企業でキャリアを積んできましたが、当時ほとんど知られていなかったレッドブルに挑戦することを選択。コミュニケーション統括責任者としてスタートし、2010年からはマーケティング本部長(CMO)を務め、エナジードリンクという新しいカテゴリーの確立とブランドの市場浸透に取り組みました。
2017年に退社するまでの10年間半は挑戦の連続でしたが、それが今の自分をつくっていると思っています。入社当初の日本におけるレッドブルは、海外の状況とは異なりブランド認知度が低く、棚にもほとんど並んでいない、カテゴリー自体も存在してない状況でした。
現在、国内でローンチして20年余りですが、今やスポーツやカルチャー、ゲーミングなど、さまざまなシーンやコミュニティとの共創を通じて、レッドブルは単なる飲料ブランドを超えた存在になっていると感じています。そして、たまたま成長過程の時期に自分自身がレッドブルに身を置けたことが、今取り組んでいるまちづくりや産官学民共創への道へ進むきっかけになりました。
さて、レッドブル入社以前はテクノロジーの分野で、インターネットや携帯電話を通じた社会のデジタル変革を目の当たりにしてきました。一方、飲料業界では、製品の差別化や企業の規模だけでは成し得ない「圧倒的なエンゲージメント」の力でブランドがつくり上げられる過程を経験しました。
レッドブルが成長した要因は、単なる広告やプロモーションではなく、特定のシーンに深く関わり続けた姿勢と、若い力を活かしたコミュニケーションにあると確信しています。
特に印象的だったのは、大手企業があまり目を向けないマイナースポーツやカルチャーを支え続けた姿勢です。その積み重ねがファンエンゲージメントを高め、ブランドとして信頼される存在を築いてきました。私自身もこの取り組みに感銘を受けることが多く、この方法が他の分野や地域でも応用できるのではないかと考え始めるきっかけになりました。
ファンコミュニティ、ストーリーテリング、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を中心とした共創の重要性は、今や時代の当たり前になりつつあります。そして、企業ブランドを超えて、他の業界や地域、まちづくりなどでもまさにこの形は応用でき、より多くの人々や場所で価値を生み出していることを実感できるのは、個人的にも嬉しいことです。
このような流れについては、2020年に出版した『アスリート×ブランド 感動と興奮を分かち合うスポーツシーンのつくり方』(宣伝会議)でも触れていますので、よかったら手に取っていただけたらと思います。