渋谷未来デザインでの挑戦
さて私は現在、渋谷未来デザインの理事・事務局長をしています。
ここでの仕事を始めたのは、偶然の積み重ねでした。レッドブルを退社後、渋谷でいくつかのプロジェクトに関わっていた縁から、声を掛けていただいたのがきっかけです。
渋谷未来デザインは、多様性あふれる「未来志向の実験都市」を目指し、企業や団体、行政、地域の人々が連携して社会課題解決と可能性をデザインするための組織として渋谷区が主体となり2018年に設立されました。
ここでの私の役割は、企業で培ったマーケティングやマネジメントの経験を生かし、地域の可能性を新しい形でデザインすること――つまり、都市の未来を共創し、社会に実装していくことです。
これまでの活動の中で私が手掛けたものとしては、主に次のようなものがあります。
・渋谷区公認バーチャル渋谷
渋谷区公認バーチャル渋谷の様子。
「渋谷区公認バーチャル渋谷」は、国内初の自治体公認メタバースとして立ち上げました。コロナ禍で人々がリアルな場に集まれない中、仮想空間で渋谷を体験できる新しい場を創出。音楽ライブやトークイベントなど今まで300万人以上が参加し、リアルとバーチャルをつなぐ可能性を広げました。
・渋谷スマートドリンキングプロジェクト
「渋谷スマートドリンキングプロジェクト」では、アサヒビールやスマドリ社と連携し、飲む人も飲まない人も楽しめる新しい飲酒文化について取り組んでいます。適正飲酒の啓発や路上飲酒の課題解決、心地よい空間づくりを通じて、街全体でお酒の多様性を尊重する取り組みです。
さらに、“次世代”のストリートスポーツコミュニティ共創プロジェクト「Next Generations」や、毎年15万人が参加する渋谷の都市フェス「Social Innovation Week (SIW)」など、多様なプロジェクトを通じて渋谷の可能性を拡張してきました。
どの取り組みも、共通するのは「人」を中心にした街づくりです。個性や価値観を尊重し、それを原動力に新しいカルチャーやソーシャルイノベーションを起こす。そんな渋谷の未来を描く活動に関わる中で、街が持つ力や可能性を日々実感しています。
渋谷未来デザインでの挑戦は、単なる地域の活性化に留まりません。ここから生まれたアイデアや仕組みが、他の地域や社会全体にも広がるような未来を目指し、活動を続けており、すでに他地域に展開した事例もあります。
渋谷未来デザインのユニークさ
渋谷未来デザインは、2018年の設立当初、国内に類を見ないユニークな組織でした。行政、企業、地域、大学といった多様なステークホルダーが連携し、それぞれの強みを生かして社会課題の解決に取り組む――そんな仕組みが、まだ多くの自治体や企業には馴染みのないものでした。
この組織のユニークさを考えるとき、まず注目したいのは「行政職員と民間出身者が強い想いを持ってつくり上げた組織」であることです。
一般的に、行政と企業が直接取引を進めるには高いハードルがあります。カルチャーや優先順位の違いが壁となり、結果としてスムーズに進まない、あるいは大きく時間がかかることが少なくありません。そのギャップを埋め、双方の言葉や文化を翻訳し、プロジェクトを実行に移す「コーディネーター」としての役割を担う組織の存在が、いかに重要かを実感しています。
さらに、渋谷未来デザインの独自性は、単に行政が主導しているだけでなく、企業側から地域への関心や参画意欲が増えているという点にもあります。企業がCSRを超えて地域との共創を本業に結び付けようとする動きが顕著になり、私たちのような組織がその接点をデザインする重要性が増しているのです。
こうした背景のなか、最近では他の自治体やまちづくり団体、さらには海外からも相談や視察を受けるケースも増えています。「渋谷のような取り組みを自分たちの地域でも実現できないか」といった声が寄せられるたびに、私たちの活動が少しずつ社会に浸透しつつあることを感じています。
これまでの取り組みが企業はもちろん、他の自治体や地域の参考になり得るかもしれない。そんな想いから、今回この取り組みを文章にして伝えたいと思いました。
社会は今、大きな変化の時期を迎えています。行政、企業、地域、個人が、それぞれ単独では解決できない課題が浮き彫りになりつつある今、この変化の中で、私たちは新しい価値を共に創り出す「共創」の力を信じています。
その実践の場として渋谷未来デザインがどのように機能しているのか、そしてこれから何ができるのかを、これを読んでいる皆さんと一緒に考えていけたら嬉しいです。