プライベート情報が生み出す令和のイミ消費

2024年を象徴する出来事「STK」って?

年の瀬に、今年1年を振り返ってみたい。2024年の辰年は十二支の動物の中で唯一、辰だけが実在しない動物であり、それには特別な意味があるとされてきた。辰は実際の動物以上に強力な象徴性を持ち、他の干支と比べて「神聖で特別な年」として、新たな始まりや大きな変化を象徴する年とされる。

果たして、新たな始まり、大きな変化を象徴する神聖で特別な2024年は、確かに時代から時代への象徴的なリレーが起きた年であった。7月3日に起きたFHNからSTKへの紙幣リレーのことである。福沢諭吉(F)から渋沢栄一(S)へ、樋口一葉(H)から津田梅子へ(T)、野口英世(N)から北里柴三郎(K)へと、3つの紙幣の肖像人物が同時に交替したのは昭和59年11月以来の大きな変化である。

イメージ 2024年に登場した、渋沢栄一(S)、津田梅子(T)、北里柴三郎(K)の新紙幣。

2024年に登場した、渋沢栄一(S)、津田梅子(T)、北里柴三郎(K)の新紙幣。

日銀の6月末時点での発表によると、一万円札が29億枚、五千円札が3億枚、千円札が20億枚、あわせて52億枚を準備しており、25年3月までにさらに22億8000万枚を準備し、現在発行されている紙幣の46%にあたる74億8000万枚が交替になるという。日本の紙幣の歴史の中でも稀にみる規模の大きな変化だったでのはないだろうか。

平成時代であれば、忘年会の会計時に、「諭吉1で」というやりとりが「栄ちゃんでお願いします!」という風に変わっただろうが、令和では「QR決済アプリ」で送金していることが主流になっているようにコミュニケーションもすっかり様変わりしたといえよう。とはいえ、壱万円の肖像リレーは、初代「聖徳太子」2代目「福沢諭吉」3代目「渋沢栄一」へと続く、実に40年ぶりの交替であり、まさに昭和から令和への時代を超えたリレーであった。壱万円で買える物価の価値も大きく変わったが、昭和と平成と令和で変化した時代ごとの消費の大波の違いについて触れてみたい。

モノからコトへ、コトからイミへ

昭和のモノ消費、平成のコト消費、令和のイミ消費。この消費トレンドの時代の大波について、その鍵となるパブリック情報とプライベート情報を用いて説明したい。経済・芸能・スポーツ・エンタメなどの国内外のニュース。企業やブランド、国が発信している情報。これらの公共に向けて発信された、情報源の根拠がある世の中ベースの情報を「パブリック情報」と定義した。一方、SNS上には知人や家族、面識のない他人が発信する情報もある。みんなが知る必要はない、根拠に基づいている必要もない個人価値観ベースの情報を「プライベート情報」と定義した。スマホやタブレットで見る情報を、プライベート情報とパブリック情報に分けた場合、情報接触比率はどうなっているのか。調査すると、プライベート情報とパブリック情報の比率は6:4で、特に女性20代はプライベート情報が7割を超えることがわかった。

イメージ 強まるプライベート情報の力

パブリックからプライベートへ。まさにプライベート情報時代の到来である。

消費はモノからコトへ、コトからイミへと遷移してきた。昭和のモノ消費時代は、プライベート情報の発信手段がなく、マスメディアが発信するパブリック情報が価値観形成に大きく影響し、豊かさを表現するには、所有するモノでステータスを表現した時代だ。ブランドの服を着てブランドの車に乗りブランドの家に住む、ステレオタイプのマテリアルステータスに憧れた時代である。

平成のコト消費時代は、プライベート情報を発信する手段がホームページやブログからSNSへと少しずつ拡大され、自分で発信できるコト体験の豊かさにステータスを求めるようになった時代だ。いい体験をしたその人自身がもつ経験や人間性の豊かさ、パーソナルステータスを重視するようになった時代である。

そして令和のイミ消費時代は、スマホの普及によりプライベート情報がパブリック情報よりも優勢になり、情報発信のイミにステータスを求めるようになった時代だ。ソーシャルメディア上での自分の立ち位置、ソーシャルステータスをつくることがリアルライフの充実に直結するようになり、なりたい自分の理想像から逆算しながら情報発信内容のイミを選別するようになった時代だ。イミ消費時代に理想のソーシャルステータス像を意識しながら生きる人が若者中心に拡大。プライベート情報として発信したい、なりたい理想の自分像に、購入しようとする商品やサービスがぴったりはまるのかどうかが重要となる。

モノ、コト、イミ消費時代でブランドとの関係性が変化してきた。昭和のモノ消費では、主役である商品のステータスを使って自分を良く見せるために、ブランドを「所有」する必要があった。

平成のコト消費では主役が商品から私へと変化し、自分の良い体験のためにブランドを「利用」できることが重要になった。つまり、必ずしも「所有」しなくても、レンタルやシェアリングサービスで装いを彩る体験ができればよいという考え方が受け入れられるようになったわけだ。

さらに令和のイミ消費では主役が私から社会へと変化し、自分と社会との関係性をどう見せるかを考えてブランドを「指名」するという考えが登場する。自分のステータスに限らず生き方や価値観を表明する社会的なイミを持つブランドに1票を投じることになる。

こうして、モノ消費、コト消費、イミ消費が混在しながらブランドとユーザーとの関係性は多様化しているといえるだろう。だからこそブランドは生産だけに留まらず、所有、利用、指名、さらには修理、再販といった全てに責任を持つ姿勢が問われるようになるだろう。

こうした令和のイミ消費時代を、どのように攻略すればよいのかについて、著書『偶発購買デザイン』ではコミュニティの価値観形成の仕組みとその捉え方について触れている。興味のある方はぜひご一読いただきたい。

イメージ 書影 偶発購買デザイン「SNSで衝動買い」は設計できる

偶発購買デザイン「SNSで衝動買い」は設計できる
宮前政志、松岡康、関 智一 編著/定価:2,200円(税込)

プライベート情報時代のユーザーブランド

では、プライベート情報時代にブランドはどのようにつくられるのか。企業がマスメディア中心に発信するパブリック情報が作り出すブランドイメージをCB(=企業ブランド)、商品やサービスのユーザーが発信する使用実感やレビューなどのプライベート情報が生み出すブランドイメージをUB(=ユーザーブランド)と定義した。プライベート情報時代は、企業主語のパブリック情報よりユーザー主語のプライベート情報に触れる機会のほうが多い。そしてCBとUBのサンドイッチで企業のブランドイメージはつくられるようになったといえる。では、どのようにCBとUBの理想的な共存状態をつくりブランド価値を最大化すればいいのか。特徴的な事例として日清食品に触れてみたい。

CBとUBの理想的な共存状態をつくるブランドサンドイッチには様々な型が存在するが、その1つ「フレンドリー創出型サンド」を紹介したい。日清食品のカップヌードルブランドは、SNS 上の人気コンテンツと連携したCM で話題化し、認知度を高める。日経BPコンサルティングの実施するブランド価値調査「ブランド・ジャパン2024」の一般生活者編では「CUP NOODLE カップヌードル」が4 位に入ったが、特に「フレンドリー(親近性)」「アウトスタンディング(卓越性)」で高評価を獲得している。

SNS 上の人気コンテンツをCM に使うことで、CB(企業ブランド)側ではターゲットフレンドリーなブランドであるというメッセージを伝え、UB(ユーザーブランド)側からは「やっぱりわかってるじゃん!」というバズを生み出す。そうすることで、若者の間に「自分たちのことをわかっているフレンドリーなブランド」というイメージをつくり出す。フレンドリー創出型サンドの企業の振る舞いで重要なことは、「センスがある」こと、「空気が読める」こと、「早く反応する」ことだ。すなわち、友人仲間でも誰もが一目置く人気者になることなのだ。

イメージ 書籍『偶発購買デザイン』より

書籍『偶発購買デザイン』より

例えば、日清食品が2020 年3 月に行った「#カップヌードル炒飯」施策はそのスピード感が(大企業にあって)尋常ではない。あるユーチューバーがカップヌードルを使ったチャーハンの料理動画を公開すると、それを見た日清食品の担当者はその日のうちにユーチューバーに連絡を取り、許可を得た上でカップヌードルの公式アカウントに掲載。さらに全15 種類の味で作ったチャーハンをランキングするなど、「公式化」した上で拡散したという。

カップヌードルを使ったアレンジレシピは茶わん蒸しなど他のレシピを生み、さらにチキンラーメンなど別の商品にも波及した。コロナ禍でストックした即席麺を食べ飽きることを防ぐ要因にもなった。フレンドリー創出型サンドは、ユーザー側の文化に公式が乗っかり、その乗っかりが新たな「わかってるじゃん」とブランドフレンドリーなUB(ユーザーブランド)を生み出す。カップ麺「日清のどん兵衛」では、東日本と西日本の味の違いを、今年を代表するヒット曲「はいよろこんで」の替え歌を用いて表現したテレビCMを展開している。東と西の食べ比べをするユーザーによるUBが生み出されることだろう。皆さんも、どん兵衛を食べ比べながら、2024年の辰年から巳年への年越しを迎えるのはいかがだろうか。

その際、この記事をきっかけに興味があれば『偶発購買デザイン』をぜひご一読いただければ幸いである。

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宮前 政志

株式会社電通 データマーケティング局

東京外国語大学フランス語専攻卒、2001年電通入社。事業開発・サービス拡張、ビジネスモデル研鑽に強みを持ち、金融・家電からFMCGまでデータマーケティング領域を幅広く従事。特許を有したソリューション開発実績多数で、流通と顧客接点で新しい体験をつくる「PROMOTAG®」ソリューション開発などを推進。

偶発購買デザイン「SNSで衝動買い」は設計できる
宮前政志、松岡康、関 智一 編著/定価:2,200円(税込)

電通内でデータマーケティングを専門とする戦略プランナーチームの研究成果をまとめた一冊。Search(検索)ではなくSurf(情報回遊)から始まる、情報回遊時代の購買行動モデルを「SEAMS®」として提唱。その背景やプランニングのポイント、顧客育成の方法論、偶発購買設計のためのフレームワークなどを紹介する。読者限定ダウンロード特典つき。


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