昨今、広告クリエイティブの文脈においても多様な手法や表現が生まれつつある縦型動画。『ブレーン』主催のオンライン動画アワード第12回「BOVA」でも「縦型動画部門」が新設された。縦型動画制作にあたり、押さえておくべき考え方や潮流は。審査員を務める明石ガクトさん、眞鍋海里さんに話を聞いた。
縦型動画=スマホで見る動画
明石:僕は前回(第11 回)のBOVA で初めて最終審査員を務めましたが、率直な印象として、クリエイターの「こういう映像を撮ってみたい」という欲求やエネルギーが流れ込んでいて、自己表現としては秀でていても、実際の広告の現場で機能させるためのコミュニケーションとはやや乖離している印象を受けました。今回新設する「縦型動画部門」はその受け皿になり得そうな感じがしています。
眞鍋:「縦型動画」といっても縦型の駅サイネージなどいろいろありますが、ここでは「スマホで見る前提の動画」ということですよね。つまり「縦型」というのは画角を指定しているだけでなく、受け手がスマホを見ている環境において、どんな新しいチャレンジができるか? を競う部門と考えています。
明石:まさにそうですね。若年層が今一番長時間見ているスクリーンがスマートフォンで、そこで見るものがSNS であり、縦型動画である、という。スマホで、SNS の中で見る動画であろう、ということを“1 丁目1 番地“として意識してもらうのがいいと思います。
眞鍋:その上で、BOVA はコンペなので、クリエイティブ面でも新しいチャレンジをしてみてほしいところ。たとえば「スマホでこそ見たい」と思わせる目的になるようなコンテンツ的な動画をつくる手もあります。以前に川村真司さん(Whatever)が手がけた安室奈美恵さんの“触れるMV”『Golden Touch』やlyrical school さんのスマホジャックMV、僕自身もファン同士がスマホを並べて視聴することで完成する超特急さんの『gr8est journey』というMVをつくったりしました。
皆がひとり1台持っている、実際に触れられるものである、スクショやコメントができる……など、スマホの機能を含めて活用するという方向を掘り下げることで、多くの人が「あれ見た?」と行動を起こすような動画をつくれる可能性はまだまだあります。
明石:最近のOOH は、スマホで撮影されて拡散されることまでを想定したクリエイティブになっていますよね。2023 年12 月に渋谷で展開されたNetflix の『幽☆遊☆白書』のOOH は、もはや渋谷にいる人だけに向けたものではなく、SNS で拡散されて全世界で見られています。こうした行動を加味した映像も縦型動画の範疇に入るでしょうし。
【参考】
つまり今の時代は縦型動画そのものが流行っているのではなく、SNS の利用者の中で縦型動画は親和性が高く、結果として世の中に多く流通しているということ。あくまで手段としての縦型動画である、ということを押さえておくと、アイデアの幅が広がると思います。
動画制作の出発点は自分の中の「問い」
明石:縦型動画の制作時は、ぜひ広い視点で企画を考えてみてほしいですね。企業の課題と、消費者として動画に触れている自分の感覚とをブリッジすることが、縦型動画のクリエイティブでは重要です。
たとえばワンメディアでは、プロモーション課題に対して、動画ではなく「TikTokのエフェクトをつくる」という打ち手を提案することもあります。誰かがそのエフェクトを使って動画を撮ってSNS にアップし、また別の誰かがそのエフェクトを使うことで、拡散されていく。それが課題解決になっていればいいわけです。動画をつくることだけをゴールに捉えず、大元のコアなアイデアをどう解決するかに目を向けてみるのがいいと思います。
眞鍋:そうですね、スマホを使っている・置かれている環境を含めて設計する必要があると思います。皆で見ているのか、1 人で見るのか、何かをしながら見ているのか。そこも含めて企画にできるのがパーソナルデバイスの面白みだと思います。スマホが置かれている環境も含めて考えてみると、クリエイティブ的にはジャンプしやすいのかもしれません。
明石:そしてそれをたった1 人でも考えて制作できるのが、BOVA の「縦型動画部門」の特徴ですよね。オンライン動画部門はほとんどの人がチームで参加しますが、縦型動画部門は1 人で世界観を構築して制作をしても、勝てる部門だと思っていて、自分の世界観を表現しやすい。なにより、1 人でスマホ1 台で100 万円(グランプリ賞金)取ったら、めっちゃかっこいいじゃないですか(笑)。
眞鍋:たしかに1 人でできるところはこの部門の特色ですね。あとオンライン動画部門と異なるのは、「お邪魔する」という感覚を強く持つべき、というところじゃないでしょうか。縦型動画はその特性上、“スマホというパーソナルデバイスやSNS のプラットフォームにお邪魔する“というシーンが多いので、広告としてズカズカ入っていくような表現だと逆に嫌われてしまうこともある。あくまで「お邪魔する」感覚を忘れずに、自分が受け手目線だったらどんな動画が流れていたら思わず見てしまうかを考えてみるといいかもしれません。平たく言うと、「視聴者目線」がすごく大事になってくると思います。
明石:たしかに。人で考えるといいかもですね。パーティー会場に、いきなりバーン!とドアを開けて入ってきて、「これ買ってください!」とアピールしてくる人がいたら誰も近寄りたくないですよね(笑)。SNS のタイムラインはパーティーみたいな場なので、そこに急に現れると誰もがちょっと戸惑うはずです。
眞鍋:異物であることを忘れずに、ということですね。
明石:ぜひ「自分とスマートフォン」に向き合ってみてほしいです。
眞鍋:たしかに。「自分とスマートフォン部門」と考えてもらうとわかりやすいかもしれない(笑)。
明石:あとはやはり課題解決が最終ゴールなので、そこからずれないように、と。動画をつくるスキルがあっても、与えられたテーマや課題を読み解いて何がポイントなのかを掴めない若手クリエイターは少なくありません。学校のテストは正解がひとつですが、クリエイティブの現場では答えは無限にある。課題を正確に捉えた上で、解決の手段は自由に考える。それを理解してつくることが重要です。
眞鍋:課題になっている対象商品やサービスを調べて、自分なりに「問い」を考えてみるといいと思います。「○○を使いたくなる動画」という課題なら、逆に「なぜ○○を使いたくならないのか」などなど。自分の中での問いをどのように設定するか、がヒントになると思います。
【応募受付中】第12回「BOVA」
『ブレーン』主催のオンライン動画アワード 第12回「BOVA」ではオンライン動画/縦型動画の応募を受け付け中です。グランプリ作品は両部門ともに賞金100万円。詳細はこちらからご覧ください。
「縦型動画部門」課題一覧
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