本記事では、宣伝会議「編集・ライター養成講座」第48期の卒業制作で最優秀賞を受賞した栗山知歩さんの作品を紹介します。
今年4月に発売された、三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)の快進撃が止まらない。
1万部の発行でヒット作と言われる昨今、発売1週間で10万部を記録し、大型書店の売上ランキングでは軒並み1位にランクイン。
現在(2024年12月)は電子書籍も含め23万部を突破した。さらには『書店員が選ぶノンフィクション大賞2024』、『オリコン年間本ランキング2024』新書部門、『日販2024年 年間ベストセラー』新書ノンフィクション部門、『トーハン2024年 年間ベストセラー』新書ノンフィクション部門で1位を続々受賞し、まさに今年を代表する大ヒット作だ。
「ちくしょう!働いているせいで本が読めない!」という著者の叫びから始まる本書は、働き始めると趣味や好きなことに時間を注げなくなる理由を、読書史と労働史からひも解く。新書というと専門的なテーマを扱うことが多く、若い世代が積極的に手に取るジャンルとは言いがたい。しかしながら発売から8ヶ月以上経った今も、本書はSNS上での熱心な感想の書き込みが後を絶えない。
そんな本書の編集を担当したのが、入社5年目の若き編集者、吉田隆之介さん。
吉田さんは大学を卒業後、新卒で集英社に入社。新書編集を志望していたわけではなく、元々は週刊誌のグラビアをやりたかったと、笑いながら語る。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』のヒットを、編集者としてどう受け止めているのだろうか。そして新書というジャンルに、今どのような可能性を感じているのだろうか。
異例のヒットの裏側
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、元々「読書術の読書術」という企画で三宅さんに執筆を依頼していたという。
「三宅さんの文章はもともと好きで読んでいて、友達に話すようなライトな文体で明快な批評や書評を書いていくというスタイルに衝撃を受けました。しかもそれが自分と同じ90年代生まれ、ということもあって絶対この人と仕事をしたい!と思いました。そうして企画を考えていたときに、『読書術』というテーマが浮かびました。
僕が入社したのはコロナ禍真っ只中だったのですが、その時期に『独学大全』(ダイヤモンド社)や『英語独習法』(岩波新書)といった『学び直し本』が売れていて。その影響か『読書術』の本も次々に出版されていたんです。単純に、なぜみんな本が読めるようになりたいんだ?と疑問に思ったのもあって、読書術本の数々をどんな本でもポップに鋭く書評する三宅さんに分析してほしいと考えました。
いわゆる『読書術』系の本は1960年代から数多出ているんですけど、そうした本の歴史を紐解くことで、読書と日本人の関係を浮き彫りにできる企画をやることになりました」
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