ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』編集者に訊く、世代を超えて「教養の快楽」を届ける新書の可能性

準備を進める中、吉田さんが担当したレジー著『ファスト教養』(集英社新書)の刊行記念対談を三宅さんに依頼したところ、企画の転換点が訪れる。『ファスト教養』は、YouTubeやインフルエンサーから手軽に仕事に役に立つ「教養」を身に付けようとするビジネスパーソンの態度を取り上げ、社会に広まる「息苦しさ」の正体を解き明かした一冊だ。

ファスト教養書影

レジー著『ファスト教養』(2022年)
中央公論新社主催の新書大賞2023では10位にランクインし、評価を得た意欲作。

「著者のレジーさんとの対談を通して、ビジネスパーソンを中心に簡単に知識を得るコンテンツが流行るのは、そもそもサラリーマンにじっくり何かを学ぶ余裕がないからなのでは、という考えが三宅さんのなかで浮かんできたらしく。三宅さん自身、人材系の会社で働きながら書評家として活動していた時期があり、労働と読書に対して問題意識を持っていたようです。その対談のあとにいただいたのが、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』というタイトルの目次でした。見た瞬間、これは売れる!と小躍りしましたね(笑)」

その後、ウェブサイト『集英社新書プラス』にて連載がスタート。連載開始当初から反響は大きく、手応えを感じていた。この連載を読んでいた書店員が書店でポップを書いて宣伝したり、リアクションのあった著名人と刊行記念対談を実現できたりと、メリットが大きかったという。

「ビュー数以上に熱狂的なファンが生まれたのは、ウェブの力を感じました。昔だったら月刊誌などで連載したものを単行本にしていたのでしょうが、いまは紙の雑誌で書いていてもなかなか感想がシェアされにくい。だとしたらしっかり分量のあるウェブ連載を通じてファンをちゃんと作って、刊行の際の後押しをしてもらう、という仕組みは結構ありなんじゃないかな、と思っています」

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の特筆すべき点は、最終章の三宅さんからの想いのこもった訴えかけと提案にある。本が読めないほど心身が疲弊する働き方をやめよう、全身ではなく「半身」で働こう、という渾身のメッセージは、働いていると本が読めなくなることに心当たりのある読者の胸に熱く突き刺さり、読了後にはある種の高揚感すら感じられる(ただ理想論だけでなく、本を読めるようになるための現実的な対処法も記載されているのが、本書の親切なポイントだ)。

当初は第9章で終わりのはずだったものの、三宅さんの提案する「半身」について深堀りしたほうが良いと考えた吉田さんは発売に向け最終章、“「全身全霊」をやめませんか”を書き下ろしてもらった。

 
次ページ「読むこと自体に時間のかかる本は……」に続く

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