読むこと自体に時間のかかる本は、感想を書いてもらうハードルが高い。そのため本のラストは、内容を振り返ったりまとめたりするのみならず、作者のメッセージを全面に押し出し読者を奮い立たせる方向性にすると感想を広めてもらいやすいという。
「1冊読み終わったときの『読後感の良さ』は編集をするうえで意識しています。新書やビジネス書を読んでいて思うのが、最後の章は全体を通してさまざまな論点を提示したうえで、最後は軽く全体を振り返ったり冒頭のメッセージを繰り返したりして終わり、という構成が多いということでした。
もちろんそれでもいい本はいっぱいありますし、無理やり『オチ』を着ける必要はないとは思いつつ、個人的には物足りないと感じることが多くて。とくに、今回の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、著者自身の違和感から生まれた問いに答えるべく、読書史と労働史を9章かけて読み解くという一見するとややこしい構成になっている。その歴史を読むだけでも面白いのですが、冒頭に出てきた違和感や歴史を読み解いて明らかになった日本の働き方の問題を同時に解決するための『提言』を大胆に書いたほうが、読者の心を震わせられると思いました」
その考えは見事に当たり、発売から2ヶ月以上が経った今も、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』への感想はSNS上で多く見られる。新書には専門的な内容だけでなく、着地への共感とストーリー性も重要になっているのだ。
新書企画の作り方
そもそも書籍作り、特に新書においては、一から編集者が企画のテーマや章立てを考える、というわけではないという。「もちろん時代に合わせてテーマを決めて、著者に書いてもらうという編集者の方もいます。僕の場合は、この人が新書を書いたら面白くなるに違いない!と思った人に声をかけることが多いです。声をかけるときには、その人の専門性や書き手としての持ち味を活かすための企画を逆算して作り、投げてみるケースがほとんどですかね。そうするとだいたい、それ以上にいい企画やタイトルをもらったりするんですよ」
新書の内容は専門的でアカデミックなものが多い。編集者としての役割は基本的には切り口の提示だけだと語る。「よくよく考えれば当たり前ですけど、編集者のほうがいいアイデアを思いつくとしたら自分で書いたほうが早い(笑)。著者のいい発想を引き出して、そのどこが素晴らしいかを言語化するのが編集の仕事だと思っています。あとは著者の書きたいことがまっすぐ読者に伝わるよう、方向を指し示すことも意識しています。僕の場合は最近の新書の流行を伝えて、読者に届きやすい書き方や言葉の使いかたを提案することを心掛けています」
ちなみに『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』も、三宅さんがタイトルを決めたという。「『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』(光文社新書)は編集者がつけたタイトルだ!みたいな話が流布しているせいで、『新書は編集者が売れそうなタイトルを付けるもの』というイメージが強いみたいで……。毎回インタビューとかで“編集者さんが付けたんですか?”と訊かれると、“違います!”と即答するようにしています(笑)」
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