郡上の米で造る「もう一杯」
平野釀造株式会社
本醸造「郡上一揆」 ※取材後、廃盤商品となったため無くなり次第販売終了
白鳥町から長良川を下った郡上市大和町(やまとちょう)に、「郡上一揆」という日本酒を造る酒蔵がある。明治6(1873)年創業、郡上を代表する銘柄「母情」の「平野釀造」だ。映画公開に合わせて発売した本醸造「郡上一揆」は、地酒で一番人気という土産物店もある。
「地名が入っとるで、土産物として分かりやすいんやと思います。本醸造のスッキリ感と、吟醸の香りが楽しめるように造っています」
親しみのある郡上弁で答えてくれるのは杜氏の日置義浩さん(63)。併設された店舗には、「郡上一揆」のほかにも、さまざまな商品が並ぶ。その中で気になったのが「郡上産五百万石100パーセント使用」の「純米吟醸母情」。
杜氏の日置義浩さんと「純米吟醸母情」
平野釀造の店舗 「郡上一揆」や「純米吟醸母情」など、さまざまな商品が並ぶ。
「五年くらい前から、自分たちで『五百万石』という酒米を作って酒造りに使っています。『純米吟醸母情』は、郡上産の五百万石を100パーセント使用。『郡上一揆』も五百万石を使用していますが、以前は福井県から買っていました。今は徐々に郡上産を使う量を増やしています」
水は大和町の名水「古今伝授(こきんでんじゅ)の里の水」を使用。酒蔵から1.5キロ先で湧いている水をホースで引き込み、仕込水、洗米、道具洗い、すべてに使う。
「以前は県外から酒米を買っていました。でも、地酒、というなら、水だけでなく、酒米や酵母も地元のものを使いたい。その思いから、酒米作りを始めました。大吟醸だけは県外の香りの高い酵母を使用していますが、他の商品は県内で作っているG1やG2という酵母を使っています」
事前に予約をすると酒蔵の見学も可能。中に入ると、ふわっと華やかな香りがする。
酒蔵の内部
「よく言われるけど、毎日のようにおるで全然分からん(笑)。酒造りは主に11~3月。今は酒が無いけど、匂いが染み付いとるんかな」
日置さんが杜氏になったのは平成29(2017)年。それまで杜氏は県外から来てもらっていたが、地元の人間がやるべきだと、自ら手を挙げた。
「最初は社長に『何考えとるんや』と反対されましたが、何度か話してやっと納得してもらった。ただ、以前の杜氏は仕事のやり方を教えてくれる人ではなかった。偶然、酒粕をもらいに行った県内の酒蔵の杜氏に相談したら『教えてやるぞ』と。冗談だったようですが、その言葉を真に受けて、なんとかしてくれ!と頼みに行きました。うちとは湿度や水が全然違う酒蔵なので、最初は断られましたが、当時の社長を連れて再度お願いに行きました。なんとか教えてもらえることとなり、今に至ります」
最後に郡上産五百万石の「純米吟醸母情」を試飲させてもらった。厚かましくも、「もう一杯欲しくなりますね」と言ってしまった。そういえば以前、自宅で飲んだ「郡上一揆」も、おかわりしたような。
「一杯飲んだ後に『もう一杯ちょうだい』となる酒が好き。そういう酒がいいな、と思って造っています」
困難に「屈しない」杜氏が造る、「もう一杯ほしくなる味わい」が、郡上の内外を問わず、愛され続ける理由のようだ。
地焼きうなぎ 嘉門 平野釀造の敷地内にあるうなぎ店。仕入れたうなぎは2日間ほど「古今伝授の里の水」で泳がせる。お米は郡上産のこしひかりを使用。うなぎと共に「母情」も楽しめる。
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