なぜ人は「ドン・キホーテ」の店内をうろうろしてしまうのか?
「ブランドの【指名買い】は10%もない。ほとんどの購買は、店頭で決定される。」
ショッパーマーケティング領域においては、以前から言われていたごく当たり前の事実である。だからこそ、「消費者」を主な対象とするカスタマージャーニーではカバーされにくかった「非計画購買」を、これまでトレードマーケター(トレード(小売・バイヤー)やショッパー(購買者)に係るマーケティング領域を担うマーケティング専門家)が担ってきた。
実際に私自身、10年以上にわたり「非計画購買タイプ(①想起購買 ②関連購買 ③条件購買④衝動購買)」や「ショッパージャーニー」などのフレームワークを駆使し、店頭売上最大化の課題抽出や、その課題解決のためのプラン構築なども行ってきた。
それでも、この『偶発購買デザイン』は、新たな発見ばかりであった。
『偶発購買デザイン「SNSで衝動買い」は設計できる』
宮前政志、松岡康、関 智一 編著/定価:2,200円(税込)
以前からドン・キホーテやコストコ、バラエティショップなどでは、ショッパーは「目的のものを見つけたとしても、すぐにはレジに向かわず、店内をうろうろする」と言われており、これは来店時に彼らが「宝探しモード」になっているからだとされていた。
本書では、新たな購買プロセスとして「回遊⇒遭遇」から始まる「SEAMS」が提唱されているが、これを用いると「なぜそれらの店では、宝探しをしてしまうのか」を、実にうまく説明できることに非常に驚いた。これまで、当たり前の事象として伝えていた背景が、ロジカルに解像度高く言語化されていたのである。もっと早くこの購買プロセスに気付いていれば、ショッパーマーケティングも、もっと実用的になっていただろうし、非計画購買をもっと簡単にデザインできたはずだ、と悔やんだほどだ。
10年後は、「偶発購買」を主たる購買習慣としている、いわゆる「Z世代」が消費の中心となり、もはや小売環境の大きな変化は避けられない。本書は主にメーカー/ブランド向けに執筆されたものだと理解しているが、メーカーだけでなく小売にとっても、それらの変化に向き合うための非常に貴重な示唆を与えてくれていると感じた。
SEAMSはメーカーと小売りの「共通言語」になりえる
マスメーカーにおいては、マスブランドそれ自体をすぐに大きく変えることは難しいが、それでも「偶発購買デザイン」に基づきPromotion・Productを描くことができれば、その環境変化の中でも、店頭での非計画購買を促進しより多くのショッパーに商品を手に取ってもらうことができるだろう。第3章「コミュニティリレー」や第5章「『映え』in『萌え』経由『偶発』out」は、直近でよく売れた商品の商品設計や、メディア戦略を見事に解説しており、全てのマスブランドが真似すべきだと、思わず膝を打った。
また小売においては、現状のメーカー販促に頼らざるを得ない販売企画から、改めてSEAMSに基づく「品揃えや情報発信」を軸とした企画にシフトすることができれば、それこそが店作りの差別化を強力に促し、Z世代を含む多くのショッパーへの「来店動機」を作り出すことができるだろう。
またその動機づくりは、情報や販促資源が多くない小売単独では実現が難しい。だからこそ、メーカーとSEAMSを共通言語として共有し、商品や情報含めた協業ができるかが、継続成長のカギとなるのである。
大きな変化を待つ今後の小売環境において、SEAMSこそが、将来の「メーカー×小売」の共創の土台となるに違いない。
『偶発購買デザイン「SNSで衝動買い」は設計できる』
宮前政志、松岡康、関 智一 編著/定価:2,200円(税込)
電通内でデータマーケティングを専門とする戦略プランナーチームの研究成果をまとめた一冊。Search(検索)ではなくSurf(情報回遊)から始まる、情報回遊時代の購買行動モデルを「SEAMS®」として提唱。その背景やプランニングのポイント、顧客育成の方法論、偶発購買設計のためのフレームワークなどを紹介する。読者限定ダウンロード特典つき。
『トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践』
井本悠樹著/定価2310円(税込)
小売や買い物客へのマーケティングに特化した、日本初の入門書。P&Gジャパンやジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして多くのブランドの商品開発や流通戦略策定に携わってきた著者が築いた知見とノウハウが一冊に。
関連記事