ネットやSNSの普及により、顧客は膨大な情報から商品やサービスをピックアップし、比較して購入するスタイルへと変化した。そのため、機能面や価格だけで他社との差別化を図ることは難しくなっている。そこで注目されているのが、顧客体験(CX)を向上させる取り組みだ。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬 in 福岡」から、注目セミナーをレポート。ファンケルの長谷川 敬晃氏は顧客に最適化したアプローチをするためのデータ活用の事例を、アトムストーリーの村上 賢太氏は感動体験を提供するストーリーマーケティングの手法を紹介した。
徹底したデータ分析で、ユーザーへの個別最適化アプローチを追求
化粧品による肌トラブルで悩む人のために、いち早く殺菌剤や防腐剤を使わない無添加化粧品を世に送り出したファンケル。同社でECサイトの運営やサービス開発を行う長谷川氏は、現在は市場環境の変化により、新規顧客の獲得はおろか、リピーターを維持することも難しいと言う。その背景に、良質な商品が市場に出回り、競合他社が一気に増えたこと、Cookieなどサードパーティーデータの広告精度の低下やウェブ広告の価格高騰などを挙げた。
通信販売が主力のファンケルは他社との差別化を図るため、CRM(顧客関係性マネジメント)システムで個別最適化したアプローチを追求。MA(マーケティング・オートメーション)に膨大なファーストパーティーデータを読み込ませ、現在では数百本のシナリオを設計・活用している。ユーザーの行動パターンに合わせたコミュニケーションが可能になり、例えば買い忘れのユーザーには、購入を促すメールを自動配信を行っている。
MAはユーザーのWeb閲覧状況を分析することも可能にしており、個々に異なる情報を提供する紙のバリアブルDMにも活かされている。バリアブルDMは1通の印刷に高額なコストがかかり、さらに送付でも昨今の事情でコストが上がり、高コストが懸念されるが、ユーザーの興味・関心に合わせた情報発信を閲読率の高い紙のDMで行うため、ユーザーの心を掴みやすい。結果、ファンケルはバリアブルDMを行うことで、十分な利益を回収することに成功。ほかにも、定期利用の離脱率を点数化し、解約しそうなユーザーにアプローチをかける取り組みなど、ユーザーへのきめ細やかな対応でリピーターの定着を狙う。
地道なデータ分析による個別アプローチで業績を伸ばしたファンケルだが、サードパーティーデータの分析結果をもとに送った商品訴求のメールで惨敗したことや、売り重視のメルマガ施策でユーザーの離反を招いたこともあったという。メルマガは、CTR(クリック率)やCVR(成約率)重視の戦略から、長期的なLTV(顧客生涯価値)の高さで評価するように方針を転換し、改善へとつなげた。
また、ファンケル社員がオンラインで商品を説明・PRする「ライブショッピング」や、子を持つ親対象の特典プラン「パパママSmileプログラム」など、ユーザーの満足度が高い施策を重視したことで、直接的な売り上げにつながらなくてもLTV(顧客生涯価値)向上につながった。
UXの分野では、2021年からファンケルの情報サイト「FANCL CLIP」でバラエティ豊かな記事コンテンツを提供。加えてサイト内の検索エンジンをAI検索エンジンへと変えて、キーワードから商品だけでなく、「有益な情報」も見つけられるように整備するなど、ユーザーが期待する以上のCXを提供できるように試行錯誤を重ねている。
長谷川氏は「大切なことは、お客様自身ですら認識できていない潜在的なニーズを把握し、それに対して価値ある情報を提供できるかどうか。そのためには最新テクノロジーを駆使しつつ、愚直にお客さまと向き合うしかない」と締めくくった。
共感を生むPR戦略、ストーリーマーケティングが持つ力
商品やサービスを物語形式で訴求する「ストーリーマーケティング」を得意とするアトムストーリーは、オリジナルのパラパラ漫画ムービーで企業のPR活動に携わってきた。代表の村上氏は、共感できる体験や心に響くストーリーをコンテンツに落とし込むと、観た人の記憶に残るほか、購買行動につながることも期待できると話す。
人々の共感を得る作品を作るには、まず顧客の声を丁寧に拾い集める必要がある。村上氏はアンケートやインタビューのほか、SNSの投稿やハッシュタグから意見や感想を収集するソーシャルリスニングや競合他社の口コミも参考になると説明。また、ストーリー制作時のポイントとして、宣伝色を抑えて最後まで見やすくすること、自己投影しやすい主人公にすること、印象に残りやすい要素を加えることなどを挙げた。
アトムストーリーは500社以上PR動画を制作。その一つが丸富製紙のパラパラ漫画ムービーだ。丸富製紙は競合他社が類似商品を出していることから、自社商品のトイレットペーパー「5倍巻きロール」をどのように訴求すべきか、頭を悩ませていた。アトムストーリーは長持ちという特徴から、「交換頻度が少ない」「頻繁に買い替えないで済む」「家庭内でイライラすることが減る」といった新たな訴求ポイントを提案した。
出来上がったムービーは、トイレペーパーを使い過ぎるうえに交換しない家族にイライラしている主人公が、5倍巻きロールのおかげでイライラしなくなるというストーリー。多くの主婦から共感を呼び、Twitterで累計1000回以上のRTと1500以上の「いいね」を獲得した。
専用庭付きマンションをPRしたい阪急阪神不動産の場合、ターゲットによりニーズが異なることから2本の動画を制作。ファミリー向け動画はコロナ禍で学校行事が大幅に減った子どもを元気づけようとする話に、シニア向けは植物が好きなパートナーを喜ばせようとする話に設定したところ、動画広告を出したWebサイトは、ユーザーの滞在時間が15%増加したほか、資料請求が1.2倍にアップした。
昨今はTikTokの運用やサポートサービスも展開している。園芸用肥料を扱うハイポネックスジャパンには、観葉植物の初心者にターゲットを設定し、「植物のある暮らし」や「育てやすい観葉植物の紹介」など宣伝色を抑えた動画配信を勧めたところ、4か月で100万回再生を記録した。
村上氏はSNSに生活実感が持てるエピソードを入れることで、ターゲットから共感を得て、シェアや拡散につながるという。「ブランド認知やエンゲージメントを高めるには、SNSもうまく活用することが重要」と結論づけた。
お問い合わせ
株式会社アトムストーリー
住所:〒107-0062 東京都港区南青山3丁目1番36号 青山丸竹ビル6F
TEL:03-6822-2676
URL:https://atom-story.com/
MAIL:info-atom@atom-story.com