デジタルを使った顧客とのコミュニケーションや、新規顧客を開拓するためのマーケティングなど、どのような手段をとるのが効果的なのか悩む担当者もいるだろう。本記事は2024年12月5日に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬 in 福岡」から、注目セミナーをレポート。イオン九州の川村 泰平氏は、お客さまと従業員の体験価値向上を実現するDX戦略について、CHEQ JAPAN(チェク・ジャパン)の廣瀬 健一氏とZENB JAPAN(ゼンブ・ジャパン)の松永 友貴氏は、デジタルマーケティングの予算の無駄をなくして売上を加速する方法について講演した。
総合アプリ「iAEON」で、One to Oneのアプローチを
業務のデジタル化(DX化)の必要性は、多くの企業が感じている課題意識のひとつ。しかし、単に改善ツールを導入したり、デジタル広告配信量を増やすことだけがDX化ではない。「イオンモール」をはじめ「マックスバリュ」など、九州エリアに全339店舗(2024年11月時点)を展開するイオン九州は、イオングループの中でも先行してDX化を推進。「テクノロジーとデータでお客さまとお取引先さま、そして従業員の体験を豊かにする」を合言葉に、さまざまなDX戦略により成果を上げている。
小売店、金融、フィットネス、映画館まで幅広く事業を展開しているイオングループは、これまで事業会社各社でアプリやサービスを運用し、それぞれ顧客IDを取得し管理してきた。これを一括にまとめ、イオングループ各社のサービスを内包した統合アプリが「iAEON」だ。同じIDですべてのサービスが利用できるため、オンライン(ECやアプリ)・オフライン(実店舗)チャネルそれぞれのIDやポイントを一元化。顧客は1つのアプリでイオングループ各社のサービスにアクセスできるため利便性が高い。イオン九州はいち早くiAEONへの移行を進め、2024年9月末日時点で登録会員数は70万人を超えた。
iAEONによって顧客の購買行動が可視化され、「クイックフーズやお弁当をお買い上げのお客さまには、アプリを通して野菜ジュースのクーポンなどのインセンティブをアプローチする」といった、個々のライフスタイルに合わせたキャンペーン情報が提供できるようになった。こういったアプローチは2024年3月からスタートし、日々100パターンくらい行っているという。川村氏は店舗店長だった25年前を振り返り「当時はポイントカードに紐づいたID-POS(個人データ)を元に、購買力の高いお客さまと座談会を開催して、Face to Faceのマーケティングを行っていた。AIの時代なら、我々の傘下でCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)をコントロールしたOne to Oneマーケティングで、もっと効果的にお客様に喜ばれるアプローチをとることができる」と言葉に力を込めた。
店舗でのDX化への取り組みとしては、電子表示媒体であるデジタルサイネージを拡大。入口には3連ディスプレイ、主通路上にはシングルディスプレイを多数設置して店舗の最新情報を公開しており、その数は2024年10月時点で92店舗1286台にのぼる。川村氏は「実店舗の価値の1つが情報をリアルに体感できること」とその効果に期待を寄せており、2000台超えの設置を目指しているという。
また、イオン九州では2024年6月より電子レシートの実装を開始。顧客は決済時にiAEONの会員コードをスキャンするだけでアプリ内に電子レシートが保存され、アプリ内で支出管理が可能に。財布にレシートがたまらず、紙を使わないことでCO2の削減に繋がる。川村氏は、「4か月間でCO2を約3トン削減することができた。お客さまからは『買い物をするだけで社会貢献ができる』と好評をいただいている」と、電子レシート利用者の来店頻度や満足度が高まっていることを明かした。他にもサステナブルな取り組みとしては、対象商品購入でボーナスポイントと同額をイオン環境財団に寄付する『環境WAONボーナス』や『電子コード回収キャンペーン』などを行っており、「今後もDX化を通してサステナブルな取り組みを行い、お客さまと一緒に社会貢献をしていけたらと思っている」と、DX×SDGsの展望を語った。
効率化・負荷軽減を叶えるオペレーション改革
イオン九州では、セルフレジ、店内に設置したスライド棚什器、電子棚札、AIを活用した見切り品の値引き設計など、業務の効率化・従業員の負荷軽減を目的とした店舗オペレーションのDX化も進んでいる。「見切り品の値引きに関しては、従業員の見極め能力により利益が変わってくる重要な業務。AIを活用することで、作業負荷の軽減や作業人事の削減、粗利率の改善につながる」と対象店舗全店に導入した。AIは従業員シフトにも導入。従業員は希望シフトをスマホで申請、人員割り当てをAIが行い、勤務条件、希望シフト、スキルなど従業員の細かな条件などを配慮して最適解を導き、過不足を最小限にしたシフト計画を自動作成している。
高齢化社会・核家族化などで需要が高まる、ネットスーパーのお届け業務の規模も拡大している。業務プロセスを見直し工程別進捗の管理、リアルタイムの情報をもとにした最適配送計画システムの導入など、DX化の各種施策によりネットスーパーの注文数が向上。24年中間期の売り上げは、前年同期比で10%以上増加した。イオン九州オンラインショップ、フードデリバリー、事務所や大学に設置された無人店舗「スマートNICO」のリアル店舗以外の販売チャネルも、リアル店舗との連動やアプリ・SNSでの告知強化などで売り上げアップ。オンラインショップは139.2%、フードデリバリーは157.5%、スマートNICOは219.5%と、いずれも前年同期比増の売り上げを記録した。
2024年7月からは、常温・低温複合型センターイオン福岡XD(物流センター)が本格稼働。物流にもDXを取り入れ、自動仕分け機・自動倉庫といった大型マテハン機器を設けると共に多くの新規省人化機器を導入し、事業の効率化・拡大を目指しているという。
最後に川村氏は、集団で行動するペンギンの群れの中から、海へ飛び込む最初の1羽「ファーストペンギン」の写真を投影。「天敵がいるかもしれないし溺れてしまうかもしれないが、常に果敢に飛び込んでいくことが大事である」と、新しい取り組みへの思いを力強く語った。
なぜ不正対策が重要なのか?ZENB JAPANの事例から学ぶ、効果的なデジタルマーケティング
デジタル広告の配信技術の進化により、自社のターゲット層に向けピンポイントなアプローチが可能となった。一方で、不正なボットや広告クリックによる広告費の無駄遣いや、不正表示のリスクは、企業の事業活動にとって大きな損失となり得る。現代のデジタルマーケティングと不正対策について、CHEQ JAPANの廣瀬氏と、ZENB JAPANの松永氏が対談。企業が取り組むべき不正対策について、ZENB JAPANの最新事例の公開とともに紹介し、実践すべきデジタル広告の運用ポイントも明かした。
CHEQ JAPAN(以下略CHEQ)は、Go-to-Market セキュリティのグローバルリーダーで、BOTや偽ユーザーからファネルやWEBサイト、データ分析を保護する企業。2000項目超のサイバーセキュリティチェックにより、不正トラフィックを即時検出する。一方ZENB JAPAN(以下略ZEMB)は、酢やぽん酢で知られるミツカングループの食品ブランド。植物を可能な限りまるごと使ったパスタやパンなどを生産・販売をしており、人と社会と地球の健康に貢献する新しい食生活を提案している。
ZENBの商品の販売は、自社のECサイトをはじめAmazonや楽天などオンラインがメイン。サブスクを軸とした定期購入モデルのため、デジタルマーケティングのKPI指標で最重要視するのは、新規定期顧客の獲得件数(CV)だ。次いで広告での獲得効率(CPA)であり、サブスクであることから、7日間の継続顧客獲得効率も注視しているのだそう。廣瀬氏の「KPIをどの頻度でチェックしているか」と言う質問に、松永氏は「CVとCPAは毎日チェックしている」と即答。「ZENBグループの社長から我々まで、全員が見られるようになっており、朝数字が変わっていたらすぐに施策へと反映する」と、修正チューニングのスピード感の重要性を語った。
ZENBのデジタルマーケティングの主戦場はSNS広告にある。40~50代の女性がメインユーザーのため、TikTokよりもInstagramやFacebookを使うことが多いという。次いで重要度が高いのは、検索連動型広告とも言われるリスティング広告だが、「グルテンフリー」などのキーワードに対して同社の広告への繋がりがうまく機能せず、最近は1つのキャンペーンであらゆるGoogle広告の枠に配信できる「P-MAX」に注目し期待を寄せている。アフィリエイト広告は、1件契約いくらという成果報酬型でインフルエンサーを活用。松永氏は「成果報酬型にすることでインフルエンサーのモチベーションも上がり、商品ブランドの本質をしっかりとコントロールできる」という。また、「タイアップ広告は、相性の良いメディアを絞りCPA重視でスポット的に実施。認知広告に関しては、MOFUを中心に試験的な取り組みを行っている」と語り、「課題が多く改善が必要」なSEOやディスプレイ広告以外は、幅広くデジタル広告施策を行っていることを明かした。
デジタル広告に潜むリスク「アドフラウド(広告詐欺)」対策の重要性
さまざまなデジタル広告施策に対して、不正なクリックで広告収入を不正に取得するアドフラウド(広告詐欺や不正広告)が増えている。廣瀬氏は「クリック課金型広告ではBOTなどの不正ユーザーがクリックし、多くの企業が無駄な広告費用を支払うことに。昨今、JAAやJICDAQなどの広告業界団体も、広告主に対して対策を呼びかけている」と、アドフラウド問題の深刻さを説いた。
前職でアドフラウド対策に関わっていた松永氏はこの問題を重要視しており、不正クリックを防止するCHEQ の導入を検討。CHEQにはじかれた不正ユーザーはデータ化され、正常ユーザーにのみ広告配信して収益機会の最適化を行う。松永氏は「先ほどのKPIの話でCVとCPAの重要性を説いたが、不正クリックによる無駄なIMP(Web広告の表示回数)・CLへの出費を減らし、正確にユーザー獲得ができる手法にコストを回すほうが、CPAがより良くなるのではと考えた」と導入への背景を振り返る。実際に広告詐欺にあった場合を想定し、現場の責任者として「大切な広告費を守るため」という保険対策の意味合いもあったという。
CHEQが無料で行っている、「広告がどれくらいの人を装ったプログラム に無駄にクリックされているか」を計測する セキュリティー診断も導入への後押しになった。松永氏は「metaのプロダクトとリスティングの領域には注力しているので、その2つの総ビジット数は多かったが、不正が起こっているレートは、意外にもGoogle Search が7項目中3位。結局被害費としてはGoogle Search が1位、Facebook・Instagram が2位だった」という診断結果を告白。「注力している領域こそ狙われてしまう」ことを痛感したという。
診断から分かった不正クリックの種別について、廣瀬氏は「広告経由で来ているツールが、1位がデータセンター、2位がオートメーションツールだった。データセンターは、ハッカーが使うような海外のもの、2位のオートメーションツールは、完全に機械的ものになるのでもはや人ではない」と解説。流入元の国も調査すると、1位は日本、2位以降がレユニオン、ガーナ共和国、モーリシャス共和国と続き、2位以降はユーザーである可能性は低いことがわかる。
診断の細やかなデータ表示とその結果に合わせて、「検知技術の高さと運用の容易さ」「サポート体制」「さまざまな不正に対する製品としての拡張性」をポイントに、松永氏はCHEQの導入を決めたのだそう。
導入後は不正クリック率が右肩下がりとなり、かなり低いところまで数値が推移。松永氏は「正しいユーザーにしっかりと広告をアプローチできている」と確信できるという。「ただ、いつまで行っても不正クリック率は0にならないない。不正をやる人たちはかなり賢くいたちごっことなるが、対策はやり続けないと被害額が増えていくものだと実感している」と言葉に力を込めた。
最後に松永氏はこれから対策に取り組む担当者に向けて「アドフラウド対策について社内でしっかり説明できる状況をつくっておくことは、現場の責任者としてやるべきこと」「パートナーを選ぶときの基準も重要なので、コストか性能か、何に重きを置くかを判断して対策を取ることが大切」「アドフラウド以外にも不正は存在するので、さまざまなところに目を向けて対策に取り組むことを勧める」と語った。廣瀬氏は「CHEQのセキュリティ 診断では、今どういった不正が起きているか、ダイレクトかオーガニックかを含めて分析させていただく。今後どういう対策を取るかなど、検討材料に生かしてもらえれば」と締めくくった。