顧客をファン化するための施策を模索している広報担当者は多いだろう。しかし、ファンは顧客だけでよいのだろうか。地域の人や自社内の人を巻き込んだファン作りがこれからの企業活動で求められるはずだ。
本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬 in 福岡」から、注目セミナーをレポート。KDDIの西原 由哲氏はチーム、地域と共創する新たなブランディングを、五島列島なかむらただし社の中村 直史氏、Betterの鳥巣 智行氏は自分事化させるブランドづくりについて紹介した。
周囲を巻き込んだファン作りとは
「au」ブランドを中心とした携帯電話事業を手掛けるKDDIは、スポーツや音楽などのスポンサード活動を行っている。スポーツ観戦にはプロフェッショナルの凄さ、ファンの熱量の高さがあり、心が動くことや情緒価値はブランディングのエンジンになると気づいた西原氏は、スポンサード活動を企業のブランディングに生かすことにした。
西原氏はファン作りの取り組みを紹介した。1つが「おもいでケータイ再起動」。電源が入らなくなったガラケーを復活させ、大切な思い出をよみがえらせるという取り組みだ。参加者からの差し入れや、後日手紙を頂いたりすることも多いという。2つ目は「au×TRANSFORMERS PROJECT」でデザインケータイ「INFOBAR」をトランスフォームさせるものだ。コスト面で社内から反対の声を受けたが、ファンの熱量を可視化できるクラウドファンディングを実施し、目標額の32倍が集まり実現した。
スポンサード活動をブランドのエンジンに昇華させるために
続いて、西原氏はスポンサード活動の企画の流れを説明。パートナー、ファンの課題やビジョンを「知り」、企画するための材料を「探す」、共創できるよう「整える」、社会と合意形成を図り「拡げ」、企業の理念を入れて「外堀を埋める」という流れだという。2024年9月に開催された「KDDI スペシャル ロビン・ティチアーティ指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 ピアノ:辻井伸行」の際は、公開リハへ学生500名を招待。楽器体験や辻井氏と双方向で話せる時間もつくり、学生の未来の選択肢を広げる音楽体験の場とした。また、スポンサードとブランディングに地域共創を掛け合わせる事例についても紹介。「KDDIみらい共創プログラム」では、京都府と京都サンガF.C.と協働。京都府は少子化や指導者不足のため、地域によってはチームスポーツが楽しみにくいという課題を抱えていた。加えて、選手の移動時間という課題も。そこで、4K映像や衛星通信による遠隔サッカーコーチングを導入し、どんな環境でもプロのコーチングが受けられるようにした。子どもたちの環境や選手の移動時間の課題を知り、選手が稼働できる練習場、4K映像配信の方法を探し、点を線に整え、官民連携や地域共創、未来人財の考えに拡げ、経営方針と照し合わせて企画にしたという。
西原氏は「どんな環境でも等しく未来の選択肢を広げられる機会を作りたい」と述べ、「今は社会価値や環境価値の創出ができつつあるが、これからは経済価値も創りたい。取り組みへの対価もいただけるようになれば、価値の掛け算によって、よりサステナブルな活動になると思います」とまとめた。
内部への浸透が、外部へのブランド向上につながる
コピーライターの中村氏、Betterの鳥巣氏は「その広告・メッセージは誰のもの?」をテーマに講演した。
始めに中村氏が、会社のスローガンというものが「コピーライターがつくったもの」でよいのかと問題提起。中村氏が過去に手掛けた「ライザップ」などを取り上げて説明した。スローガン制作の際、目指したいのは「これはみんなでつくった、みんなの言葉だ」と本心から言えること。だから、関係する人たちの声を聞き続け、意志を鍛えながら、言葉にしていく。中村氏は「重要なのはブランディングがどうやって企業の言動一致を果たせるかだ」と話す。「OCEAN NETWORK EXPRESS」のスローガン制作の際は、経営陣と各国の社員にインタビューを重ね「どんな会社でありたいか」「どんな未来へ進みたいか」聞きつづけ、言葉をつくったという。
また、中村氏は請求書を作成する際、項目を「コピーの言語化プロセス費」としているそう。皆でさんざん話を重ねていく対話のプロセスが会社の意志を磨き、そのプロセスによって、企業の言葉が自分の言葉になるという。長崎の観光PRムービーを制作した際には、「バズを狙わず、未来をどうしたいかという対話のプロセス自体を映像化したことに意義があった」と振り返る。
オリジナルが、その地域の魅力になる
鳥巣氏が長崎市の広報戦略アドバイザーとして携わった際、街の変化があるにも関わらず、市民に伝わっていないという課題を抱えていた。そこで、街の変化を長崎の未来への期待感に変え、「長崎市広報戦略Book」を作り、「全員広報」「100年に1度の長崎」という言葉で戦略的に活動するように。メディアでも取り上げられ、長崎市民も口にするきっかけとなったという。
また、「出島組織サミット」というイベントを2021年から開催。本体組織から外に出て、新しい価値を生む「出島組織」が集まり、交流を深めるものだ。鳥巣氏は、うまくいく出島組織について「切実さと前向きさを持った人たちがいる組織」と説明した。
また、鳥巣氏は2020年から8月9日(長崎原爆忌)に長崎新聞に掲出される「平和企画」の新聞広告を制作している。2020年はコロナ禍で祈念式典の規模が縮小されるなかで式典会場の石畳を印刷し、家で祈りをささげることができるように。翌年は、世界に存在する核兵器の数をドットで表現した新聞広告を制作。その後も世界の情勢に目を向ける広告を制作した。毎年8月9日に発信し続け、長崎だけのニュースにしないことを意識して制作しているという。鳥巣氏は「新しさを目指すより、オリジナルなものを目指す。対話をしながら、その地域のオリジンの魅力や価値を探すことが大事だ」と話した。
最後に、ふたりが最近足を運んでいる、長崎市の小浜地区について紹介。もともとそこにあるオリジナルのよさを、クリエイティビティある人が活かし、食や農やデザインなど様々な領域で新しい文化が生まれつつあるのだという。人口規模一万人ほどの小浜で起きているその現象のポイントとして、「控えめな創造力」というキーワードが紹介された。自己主張するのではなく、その場にすでにあるものをうまく活かすそのやり方は、地域での共創においてもヒントになるだろう。
中村氏は「会社にせよ自治体にせよ違う人の集まり。だから『目的』は何かを共有しつづけること、何とかしなければならない『切実』さを込めること、いつかわかりあえると『粘る』ことで、みんなとしての意志が育ち、それが強いブランドに育つのでは」と締めくくった。
4月辺りから、毎月無料体験クラスを実施予定ですので、随時下記のwebサイトへ更新いたします。
コピーライター養成講座 福岡教室の概要サイトは下記になります。
https://www.sendenkaigi.com/class/detail/copywriter_kiso.php
コミュニケーションのアイデア発想やスキルアップを目指す方はぜひご検討ください。