児島令子さんに聞くコピーの裏側 第1回:earth music&ecology「あした、なに着て生きていく?」他が生まれた背景

服を着ることの一番の上位概念を取る

あした、
なに着て
生きていく?
 
同じ笑うのなら、
好きな服着て笑いたいから。
同じ泣くのなら、
好きな服着て泣きたいから。

(ストライプインターナショナル/earth music&ecology/2010年)

児島:earth music&ecology(以下、earth)の広告シリーズは2010年に始まって、15年目まで続きました。2024年の夏のコピーまで、私が書いています。とても有意義な仕事でした。

最初に書いたブランドスローガン「あした、なに着て生きていく?」は、服を着ることの一番の上位概念を取ろうと思って考えたコピーです。

三島:なるほど。意欲的な挑戦ですね。

児島:普通ブランドのコピーは、そのブランドの特性やテイストをキャッチコピーにするのが正攻法ですよね。他ブランドとそこまで差別化できないにしても、ターゲットの感覚に寄り添うようなコピーにすることが多い。でも、私はその服のテイストもターゲットも取り払って、服を着ることの一番の上位概念をブランドコピーにしたいと思ったんです。

三島:人間が人間として生きるということですね。

児島:みんなが普段よく言っている「あした、何着る?」。その「服を着る」という行為の中には、「生きる」ということが含まれていると思ったんです。そこに「生きていく」という言葉をつけました。

たとえば、「明日は好きな彼と会うからこの服を着ていこう」「明日は面接だからこのスーツを着ていこう」「明日はたくさん歩いて汗もかくだろうから、これ着ていこう」と、明日起こるであろう人生を考えて。明日の服をどうするか、みんな考えますよね。つまり、それは生きるっていうことだから。

三島:なるほど。

児島:コピーとしては「生きていく?」と付けるだけのひと手間ですが、「生きる」という“気づき”を付けるという、一番大きなフレームを取りました。

そして、このコピーでよく言われることが、他のブランドでも言えるコピーですよね、ということ。

三島:確かにそうですね。

児島:でも、他のブランドはどこもそんなことは言っていない。だから、一番先にこのコピーを取ってしまったブランドは強くなると思ったんです。実際に15年間ずっと言い続けたから、もう他のブランドは言えなくなっています。

コピーを書くときに細かく差別化をしていくことが正解な場合もあるけれど、そうじゃない場合もあるんです。細かい差別化を苦労して見つけ出すよりも、上位概念を取って、ブランドのメジャー感や骨太感、本質感を出していくほうがいいこともある。

三島:まさに、このコピーによってこのブランドは一気に知られるようになり、メジャーなブランドとしてのたたずまいが生まれました。この15年間、ものすごく働いた言葉だと思います。「あした、なに着る?」だけだと15年は持ちこたえられないけれど、「生きていく?」があることによって時代を超える力を獲得し、 さまざまな語り口のシリーズを支えることができたのだなとあらためて思いました。大きなフレームにするというのは、最初から狙っていたんですか。

写真 人物 個人 児島令子

児島:そうなんです。大きなフレームにしておくと何でも入れ込めますから。「生きていく?」と最後に書くことで、逆に制約がなくなるんです。「生きていく」ことに関してだったら、何を言ってもいいわけですから。

earthでは、1年に4回シーズンコピーを書いていますが、「あした、なに着て生きていく?」という着地点があるから、全てが許されて、なおかつブランドのコピーとして機能し、ボディコピーでは自由演技ができる。こんなに楽しい仕事ないですよね。

ちなみにこの15年間、1シーズンに10本以上書いています。だから、1年で約40本、これまでにトータルで600本くらい書いているのですが、没になったものもあるので実際はもっとですね。だから、自分にとってはすごい財産になっていて、他の仕事が来たときもこの鉱脈から考えることもありますね。

これまで書いたコピーの中には一見わかりにくいものもあるのですが、わからないコピーというのも大事だと私は思っています。わかりすぎるのはよくない。アパレルの場合は、万人がわかるコピーでなくてもいい。まったくわらかないのはだめだけど。

三島:earthの場合は見た人にわかりたいという気持ちにさせてくれるという力があるように思います。

児島:キャッチコピーを見て、ボディまで読んでみたい。そこに魅力の気配を感じる。一瞬わからなくても、入ってみたいと思わせる、そういうことが大事かなと思っています。

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