そこで本企画では、過去から現在にいたるまで、時代と共にあり、これからも「未来につないでいきたいコピー」について、制作者であるコピーライターの皆さんにお話を聞いていきます。
児島令子さんへのインタビュー第3回目、今回のテーマは、キャンペーンやシリーズ広告をまとめるフレームワードを中心に、コピーライター三島邦彦さんが聞きました(第1回、第2回はこちら)。
その領域で、誰もいないところにまず立ってみる
愛と革新。
LINE MOBILE
(LINEモバイル/2017年)
児島:これは山崎隆明さんとの仕事です。大手キャリアから格安スマホまで、各社大々的にキャンペーンをやっていた時期。すでにあるような表現は一切やめましょう、一線を画した違うものにしようというコンセンサスを、山崎さんとまず取りました。そして、誰もいないところにまず立ってみようという話をして、企画とコピーを考えることになったんです。予算は潤沢ではなかったのですが、CMが中心になるだろうと思い、コピーはシンプルに「愛と革新。」に。
私が企画書に書いたのは、LINEモバイルって今っぽいけど、「その新しさ、革新に、ユーザーに対する愛はあるのか?」ということでした。当時の企画書を読み上げると、「手の中の物体に、誰か問いかける。僕らまだ、何かをじゅうぶん期待してる。期待は未来。未来はすでに現在。手の中の冷たく温かな物体は、自分に近すぎて、嬉しくて寂しくて安らぐ。」。こんなことを書きました。
手の中のスマホって冷たいじゃないですか。でも、そこには友だちとのつながりや温もりもある。でも、時に意地悪もされるし、誹謗中傷されたりもする。つまりスマホは冷たくてあたたかな物体である。そういう若い世代のリアルみたいなものを描きたいと思いました。
実際にみんなスマホがないと生きていけないし、LINEがあるから「好きだ」と告白できたし……という現実がありますよね。「僕らを強く新しくしてゆく、その新しい愛」がスマホ。LINEモバイルは「愛に根ざした革新」であるべきと考えたんです。
三島:このCMでLINEモバイルが強烈に印象づけられました。わかる・わからないという常識を超えたパワーがあって、無視できない言葉をつくる、その強度を感じました。
児島:映像にはのんさんがいるだけで、BGMとしてキリンジの「エイリアンズ」が流れる。新しいブランドの、新しい気配みたいなものをパンと伝えるCMでした。うまく言えているコピーだよねと言われるようなことも書けるけれど、何よりも立たせたいのはLINEモバイルでしたから。このCMを見たとき、何を言っているのかわからなくてもいいけれど、でも見過ごせない何か感じるものがあったら、それで正解ではないかと思いました。
三島:言葉のたたずまい自体がメッセージであると。そこにある意志が強烈だから、このコピーには感じるものがあったんですね。
児島:そうそう。後発ブランドだし、少ない予算でいかに強く残せるかを考えてつくりました。後発だからこそ、誰もいないところに立とうという勇気を出したことに尽きますね。