児島令子さんに聞くコピーの裏側 第4回:「ココロはコロコロ変わらない」他、コピーにおけるオリジナル性とは何か?

近年、AIの登場により、広告コピーが新たな局面を迎えようとしています。広告会社では「コピーライター」という名刺を持つ人が減った、という声も聞きます。しかし、どんなに時代が変わろうと、コミュニケーションや表現の手法が変わろうと、広告コピーの基本は変わりません。だからこそ若い世代の皆さんに知っておいてほしいコピーがたくさんあります。
 
そこで本企画では、過去から現在にいたるまで、時代と共にあり、これからも「未来につないでいきたいコピー」について、制作者であるコピーライターの皆さんにお話を聞いていきます。
 
児島令子さんへのインタビュー第4回目、最終回となる今回はサントリー角瓶「ココロはコロコロ変わらない」他の事例と児島さんのコピーにおけるオリジナル性をひもときながら、インタビュアーである三島邦彦さんとコピーの書き方や考え方について語り合います。(第3回から続く

写真 人物 児島令子さん、三島邦彦さん

世界観を保ちながら、自分らしさを出せた角瓶のコピー


ココロは
コロコロ
変わらない

(サントリー/角瓶/2000年)

児島:角瓶の仕事が来た瞬間に、仲畑貴志さんがかつて角瓶を担当していたことを思い出していました。仲畑さんは「僕は角瓶に育てられた。これは僕のミルクだ」とおっしゃっているし、しかも名作コピーがすでにたくさんある。私が角瓶を担当するのであれば、自分らしいコピーを書かなくてはと思ったし、私に依頼してくれたということは、そこにクライアントの期待があるのかなと思いました。

角瓶を私流に書いたらこうなりますよ、ということで書いたコピーが、「ココロはコロコロ変わらない」です。「ココロは」「コロコロ」「変わらない」と自分で3行にして組んで書いてみたら、視覚的にもいいし、音も面白くできたかなと思いました。アートディレクターの小塚重信さんに見せたら、「コロコロコミックみたいで面白い」と、すぐにデザインしてくれました。これまで男っぽい方向に行きがちだった角瓶ですが、商品の世界観を変えずに、言葉だけ少しマイルドになりました。ただメッセージの核は変わっていないから、いかに言うかの部分だけを変えたということです。矢沢永吉さんでこのコピーでした。これは2000年代の角瓶のコピーとして、新しい風を吹かせることができたかなと思います。

三島:「コロコロ」という言葉は音も形も新しいのに、角瓶のボトルのイメージにもしっかり合っていますよね。それだけでなく、「ココロは変わらない」という、コピーが言っていることをコピーそのものが体現していると思いました。「ココロ」と「コロコロ」の発見は本当にすごいです。

児島:安藤隆さんのサントリー・レゼルブで「タノシイ マイニチ、ニコニコ
ワイン。」という4行コピーがあったでしょう?そういうコピーにもインスパイアされたかもしれないですね。あのコピーは、自分が新人の頃に見ていたので。

大人は、とっても長いから。

(東日本旅客鉄道/2005年)

児島:これはJR東日本の「大人の休日倶楽部」というシニア向け会員サービスのコピーで、実はCMの企画はすでにできあがっており、吉永小百合さんの出演も決まっていました。

これはTUGBOATとの仕事なのですが、当初コピーはいらないと思っていたけれど、やはり必要になり、私のところに依頼がきました。TUGBOATは仲がよかったし、ある意味身内なので、通常は自分で選んだ1〜2本しか見せないのですが、このときはコピーをたくさん見せました。

岡康道さんと川口清勝さんにホテルのロビーに呼び出されて、カフェに入るのかと思ったら、そこにあるソファの上にコピーを並べ始めて……。これとこれはあるよね、と岡さんと川口さんがコピーを見ながら話し始めました。「こう言われたらうれしいよね」とピックアップしたのが、「大人は、とっても長いから。」でした。その時間、わずか5分。そのあとホテルで美味しい中華を時間をかけてご馳走になりました(笑)。

すでに人生80年時代と言われて久しい頃。子ども時代を20歳までと考えるなら、大人の人生はその3倍はある。この先の60年ってやっぱり長いよねと思って、このコピーに至ったわけです。

その後、広告が世に出て、シニアに刺さるのかなと思っていたら、意外と若い子に受けていて、それはちょっとうれしい驚きでしたね。TCCの授賞式で柴田常文さんは、「『とっても』なんて普通は書かないよ」といい意味で好意的に言ってくださって。この「とっても」という言葉を入れたことで、コピー全体がイキイキしたのかなと思っています。

三島:「とっても」という言葉が持つ若さには、大人と呼ばれるあらゆる世代にとってうれしい響きがありますね。このコピーではこの言葉が本当に大事だと思います。

児島:そう、確かにポジティブな感じがありますね。人生80年と数字で出すコンサル的な言葉じゃなくて、生身の私から出る「とっても長いから」ですね。


あなたのヌードは、
ちゃんとエッチですか。

 

パリの秘蔵っ子。
(マチス化粧品/1992年)

児島:これは個人的にすごく好きなコピーで、女子のファンがいまだに多い。つくったのは、1992年。パリ発の化粧品ブランド「マチス」のボディケアの広告です。高価格のブランドなので、通常であればきれいな、いかにもありがちなものになってしまう。そして化粧品のコピーはおとなしく収まってしまうものが多いのですが、これは普段コスメのコピーを書くときに絶対に使わない言葉を使いました。ブランドとしてのきちんとした見え方を担保した上で、コピーはちょっと切れば血が出る感じにしています。

三島:ありがちなコスメ広告にあらがう覚悟がはっきり感じられます。その鋭さがかっこいいです。

児島:そうですね。話法を変えました。「もっとセクシーなボディになりましょう」と言ったら嫌な感じがするじゃないですか。それは誰のためなの?と。そこを感じさせず、「エッチ」という言葉が可愛く聞こえて、見た人にはその意味を自由にとってもらいたかったんです。

このコピーを書く以前に見たテレビ番組で、40代くらいの女性が、「緊張感のないボディだから、人前で脱ぐのはもう無理。だから不倫なんてできない」みたいな話を笑って言ってるのを聞いて、面白いなと思っていたこともヒントになったと思います。

マチスでは他に、「いつまでも若いなんて、オバケです。」というコピーも書きました。これもあらがってますね。

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