大量の情報やコンテンツがあふれる現代において、生活者とのエンゲージメントを高めることは難しく、企業は自社ブランドを身近に感じてもらえるようなオウンドメディアやマーケティングツールへの取り組みを強化している。本記事は2024年12月に開催された「宣伝会議リージョナルサミット2024冬」から、注目セミナーをレポート。クボタの廣瀬 文栄氏は「らしさ」を表現し、共感してもらうブランド戦略について、アマナの渡邊 隆尚氏・谷野 弘知 氏は顧客接点創出のためのBtoBオウンドメディア戦略について講演した。
企業価値を世の中目線で伝えファンを獲得
農業機械や建設機械といった機械事業と水環境事業の2本柱で、グローバルに事業を展開してきたクボタ。創業100周年を迎えた1990年には社名を久保田鉄工からクボタに変更。農業機械・産業機械・水環境インフラのリーディングブランドとして、国内はもちろん、世界各国からも高い認知を得ていた。しかしそこから20年の時が経ち、首都圏在住のビジネスパーソンにクボタの認知度を調査したところ、「全く知らない」と答えた人が20%という結果に(日本企業イメージ調査1995~2015参照)。20年前は5%ほどだった「全く知らない」の回答率の増加に、事業実態と社会からの認知・理解に経営陣は大きなギャップが生じていた。廣瀬氏は「国内でこれだけ知られていないのは経営上の大きな課題と捉え、認知度をあげるためブランドコミュニケーション戦略に取り組んだ」と振り返る。
そこで2017年にクボタは国内ブランド強化プロジェクトを開始。ブランドコミュニケーション戦略の軸を「知らないを知ってもらうに変える」「世の中目線で情報を伝えていく」とし、「認知向上期」、「ファン獲得期」、「さらなる関係性の深化・期待感を獲得」と2年毎にKPIを設定。廣瀬氏は「クボタが何の価値を提供しているかを伝え、自分たちと関係のある会社だと思ってもらうような関係を構築し、未来へのポジティブスパイラルへ繋げるという計画を立てた」と戦略の内容を語った。
クボタブランドを貫く重要な概念であるブランドアイデンティティは、中核にGenuine(本質的)、その周りをBold(大胆)、Forward-looking(知的で革新的)、Attractive(魅力的)と設定し社員に共有。廣瀬氏は「生活者の方々は日々さまざまな情報を観覧しており、クボタの情報にふれることは一瞬。あらゆるタッチポイントにおいて、アイデンティティはぶれずに一貫性をもって伝えていくことが大切」と力を込めた。
オウンドメディア戦略においては、コンテンツを群でとらえ、伝えたい価値に応じたポジショニングを管理していくことがカギとなる。廣瀬氏は「例えばグラフの横軸を商品市場・市場の課題・社会課題とし、縦軸を製品技術・付加価値・ソリューション・企業活動した場合、コンテンツがどの位置にいるかを明確にし、整備をしていくことが必要である」と語る。また、デジタルはターゲティングや時間軸に制限がないところが特徴であるため、廣瀬氏は「企業目線と世の中目線、恒常性のあるコンテンツか、即時性のあるコンテンツかもポジショニングしていくことが大切」と説いた。
クボタのWEBサイトには「Kubota Smart Village」というロングタームコンテンツがある。企業理念やソリューション、環境ビジョンなど一見難しそうな内容がベースとなっているが、「ソリューションが集まるとどんな未来が待っている?」というストーリー仕立ての展開となっており、ワクワクしながら企業情報を知ることができる。また、クボタの未来の姿が描かれている「KUBOTA FUTURE CUBE」というコンテンツは、フルCG映像と2.5Dイラストキューブで全体が構成されており、クリックすると一瞬で次の展開へと飛ぶインタラクションを実現。未来へとバーチャルトリップしているような感覚を味わうことができる。KUBOTA FUTURE CUBEは、世界3大WEBデザインアワードのひとつ「CSS Design Awards」にて、日本企業では初となるBest Innovation賞を受賞した。
WEBサイトのコンテンツには、子どもに農業を教える「アグリキッズwithクボタ」や、田んぼ情報を紹介する「クボタのたんぼ」など、生活者目線のコンテンツが充実している。廣瀬氏は「デジタルコミュニケーションは、コンテンツにはじまり、コンテンツに終わるという考え方を大切にしている。これからもチャレンジをして、顧客目線で企業の『らしさ』を伝えていければと思っている」と語った。
顧客と継続的良好関係気づくマーケティング戦略
続いてアマナの渡邊氏が登壇。広告ビジュアル制作業界最大手アマナは、顧客からの受注に応じて広告写真などビジュアルコンテンツの企画制作を主な事業としている。BtoBマーケティングにおけるカギとなる、継続的に顧客と良好な関係を築く施策、デジタルマーケティングにおける中長期的に顧客との接点を持ち続ける施策を講演にて解説した。
BtoBバイヤーの特性について、渡邊氏は「意思決定の前に平均して13のコンテンツを消費すると言われている」と明かす。その内訳は自社発信のコンテンツ8つ、外部の比較サイトなどの情報発信コンテンツ5つ。さらに踏み込んでいくと、コンテンツを消費する期間は平均2〜6週間ほど、3〜4名のチームで実行されているという。コンテンツの摂取方法は、最も多いのが企業のWebサイト、次いでGoogleやYahooなどのインターネット検索エンジン、SNSと続く。
BtoBマーケティング施策でのKPIについて、渡邊氏は「BrandとDemandのバランスが大切だ」と説く。ここでいうBrandは、オーディエンス(まだ顧客になっていない人)の獲得のこと。一方Demandは顧客の獲得を意味する。BrandとDemandをマーケティング活動の両軸ととらえると、Brandレベルが低いとコンバージョンしやすい反面、オーディエンスが少ないため成長が限定される。一方、Demandレベルが低いとそもそも成果が低い状態となり、どちらも最終的な成長は見込めない。BrandとDemandのバランスが取れている状態にすることが、非常に重要なポイントだという。
また、コンテンツマーケティングは最終的にビジネスゴールに紐づいていることが必須だ。ビジネス目標を達成するためのマーケティング目標、マーケティング目標を達成するためのBrand・Demand目標であるため、渡邊氏は「ビジネスゴールやKPIは日々見直しをして、マーケティング活動において適正なものが設定できているかを確認。アップデートしていくことが大切だ」と語る。
次に、マーケティング目標やビジネス全体の目標を推進する上で、Brand、Trust(信頼)、Demandを把握するゴールデンKPI(ビジネスの目標を推進するうえで最も影響のある指標)を設定する。ゴールデンKPIにさらなる評価が必要な場合には、Supporting Metrics(サポート計画指標)を追加するという。ゴールデンKPIを決める際は、マーケティングチームの目標は何か、チームはどのような指標を定常的に確認しているのか、それらの指標の中でチームが気にかけているのはどれかなどの質問を繰り返すことが肝要だ。
続いて渡邊氏は、実際に効果を計測していく工程のフレームワークの作成について解説。「自社の過去のパフォーマンスデータを確認し、指定期間におけるゴールデンKPIとサポート計測指標の平均値を算出して初期のベンチマークを作成」「パフォーマンスデータを確認するために、ゴールデンKPIとサポート計測指標は個々の施策について注視」「計測とレポートのサイクルを決定。計測期間のデータとベンチマークデータの差分を記入し、パフォーマンスの検証と最適化を行う」と順を追って説明をした。
ゴールデンKPIの動きのパターンを見つけたら、増減傾向を長期的視点で見ていくことが重要。渡邊氏は「増加や減少が短期的な事象なのかどうかを適正に判別するためにも、少なくとも四半期ごとにデータを見ていくことが大切。短期のレビューと中長期のレビュー、それぞれにしっかりと目的を設定していく必要がある」と語る。
コンテンツはどのように制作していくのか。渡邊氏は「よくあるピラー(柱)から決めることは企業の考えを受け手に押し付けがちなのでおすすめしない」と語る。コンテンツマーケティングは中長期的な視点で取り組む必要があり、「企業が解決できること」「ユーザーが解決したいこと」「業界動向・トレンド」を軸に、必要なコンテンツは何かというところから考えることが大切だという。渡邊氏は「自分たちが考えていること、ターゲットが知りたいことを把握して、2つの円が重なる部分を知ることがコンテンツづくりに重要になってくる。その上で、どういったことを発信できるかを決めて、コンテンツのミッション・ステートメントを定める」と説いた。
最後に渡邊氏は自社のサイトを公開し、アマナが培ってきたクリエイティブナレッジを生かして、BtoBマーケティングの課題解決事例とノウハウを紹介。オウンドメディアへの配信戦略のフレームワークなども公開し、講演を締めくくった。
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