出張授業を打診する企業探しのヒントに活用
『未来の授業』シリーズは、これまで2回「総合的な学習の時間」で使いました。1回目は千葉市立幕張小学4年生の授業です。SDGsは子どもにも身近になってきましたが、その意味をよくわかっている子どもは実は少ない。その気づきを起点に、興味を広げました。
「総合的な学習の時間」では、必ずプロの人に取材し、生でお話を聞くようにしています。子どもたちもそういうものだと認識しています。
そこでSDGsについても詳しい企業に取材をしよう、と考えるわけですが、SDGsの取り組みを行っている企業はどこか?がなかなかわからない。
そこで、話し合いの時間の何日か前に、教室にこっそり『未来の授業』を並べておいたんです。子どもたちが興味をもって見てくれるように。話し合いのときには、何人かは手に取って見ている子どもがいるので、「そういえば、教室の後ろに置いてある本に書いてあったような…」と気づく子どもが出ます。ちょっとわざとらしいんですが(笑)、このように本を手に取ってもらうようにしました。『未来の授業』には実際の企業の取り組みが多数載っているので、どの企業の人に話を聞きたいか、子どもたちに考えてもらいました。そこから、この年はロッテさんとエーザイさんの授業が実現しました。
——なぜ、この2社だったのでしょう?
やはり、身近な企業ということで興味を持ったようです。ロッテは野球があるのでみんな知っていますし、エーザイも薬という身近な商品で、会社名もCMで知っていたようで。病気で苦しんでいるのを薬で助ける、というストーリーも子どもにはわかりやすかったのだと思います。
——企業の方にアプローチする時は、具体的にどうされているのですか?
インターネットで連絡先を調べ、私が直接メールを送っています。実は、これまでもずっとこのやり方でしてきたのですが、何社も何社も断られてきました。授業に外部の人に来ていただくのは、毎回ものすごく苦労します。
それが、『未来の授業』に載っている企業は、子ども向けの本に載っているだけあって、皆さんすごく気持ちよく受けていただけるんです。これまで学校での授業はやったことはないけれども、やってみましょうと。そういう対応をいただけると、本当に感動します。
実際に取り組んでいる人に会うと、子どもたちの目が輝く
——なぜ、そのように苦労しながらも、外部から人を招くことにこだわってきたのですか?
私(教員)から聞くのと、実際に取り組んでいる本人から聞くのでは、子どもたちの受け入れ方が全然違います。本当にやっている人に会うと、子どもたちもすごく憧れと尊敬の目をしているんですよね。世界にいま何が必要で、それをこの人がやっているのか、とわかることが子どもたちの大きな刺激になります。授業では「世界のためにみんなにもできることがあるよ」というメッセージを送ってもらうので、自分たちもやらないと!とモチベーションも高まります。実際、その後すごく頑張れるんですよ。
——そのあとは、どんな流れで授業が進んでいったのですか?
総合の時間では、私は流れを前もって決めないんです。話を聞いた後に、「次は何をしたい?」と子どもたちに聞きます。教員がSDGsのために活動をしなさいと言うのではなく、子どもたちが本当に主体的に何かやりたいと思う状態にすることを大事にしています。実際、この時は話し合いにもすごく熱がこもって、激しい議論になるくらい。やりたいことのアイデアも多数上がって来ました。その中から何をするかも自分たちで話し合って決めていきました。
結局、この時は指導案上に書いている予定から変わって、古本を子どもたちが集めて古本募金をすることになりました。小学校で古本を集めて送ると、お金に変えて貧困の状況にある子どもたちへの支援活動に寄付してくれる取り組みがあって。もう一つはユニセフ募金で、こちらも「これを寄付したいから、そのためにいくらを目標に集めよう、頑張ろう」と一生懸命やっていました。SDGsについて知らせる校内の掲示物を作って貼り出す活動もしていました。
活躍する大人の話は、キャリアを考える入り口にもなる
今回は授業全体のテーマを「Happy World SDGsを解決しよう!」、つまり世界の問題を知って考えることに設定していたので、様々な国の人と交流したり、JICAやユニセフの方から話を聞いたりする機会も設けました。すると、そこから自分もこういう仕事に就きたいという子も出てきます。普段身近に接する機会のある職業以外は、子どもたちはほとんど知りませんから、社会で活躍する大人の話を聞くことは、キャリア教育という側面も持っています。
——SDGsを入り口に、将来のキャリアを考えることにもつながるのですね。シリーズ最新の「ライフキャリア探究BOOK」も、まさにそこに狙いをもっています。
「Happy World SDGsを解決しよう!」学習指導案
2回目の授業のテーマは「ダイバーシティ」
2回目の授業は、千葉大学教育学部附属小学校の3年生で、「世界の果てまで知って救(キュー)」という名前でしました。テーマはダイバーシティです。最初は世界の文化の紹介から入って、だんだん困っていることがどこの国にもあるよね…という流れの中で、ではダイバーシティに取り組んでいる会社ってどこだろう?と。あれ、教室の後ろに置いてある本に書いてあったような…と。ここは同じ流れで(笑)。
この時は『未来の授業 ダイバーシティBOOK』を使いました。インディードさんが多様性に熱心に取り組んでいるという話が載っていて、ぜひお願いしてみようと。「すべての人が自分らしく働ける仕事に就ける社会」を目指しているという取り組みの目的も誌面で確認できていたので、依頼もしやすかったです。
『未来の授業 SDGsダイバーシティBOOK』。25社の取り組みを紹介。
インディードさんに来ていただいた授業では、「アンコンシャスバイアス(無意識の性や人種に対する偏見)」などの話をしてもらいました。
インディードによる、アンコンシャス・バイアスをテーマにした小学3年生への授業。
また、『ダイバーシティBOOK』にはロッテさんが「フェアカカオプロジェクト」を行っていることも書いてありました。「大変な仕事をしている子どもたちがいる」ということに驚き、「そのような子どもを減らす取り組みをしているロッテさんに話を聞いてみたい!」ということになりました。
ロッテさんの授業では、フェアカカオプロジェクトについての話だけでなく、その他にもラベルレスや配達における工夫など様々なSDGsの取り組みについて教えてもらいました。
ロッテによる、小学3年性への授業の様子。同社の「フェアカカオプロジェクト」などSDGsの取り組みを紹介。
——お話を伺っていると、主に企業取材のページを活用されているのですね。
企業のページだけでなく、SDGsに興味を持ってもらうための“種まき”として、最初の漫画の読み聞かせもしています。ざっくりと、SDGsってこういうことなんだよ、と子どもたちに紹介する時にも使いました。漫画のページは読みやすくてとても人気です。
『未来の授業』シリーズでは、登場人物がSDGsについて学習・体験・成長していく物語をマンガとストーリーで描く(『未来の授業 SDGsダイバーシティBOOK』より)。
——作り手としては、読者を小学校の高学年から読めるようにと考えて作っていますが、小学3年生の授業でも使っていただけたと知ってありがたいです。
小学5年生、6年生なら、すらすら一人で読めると思います。3、4年生でも、大人が一緒に読み聞かせするスタイルなら全然大丈夫だと思います。企業の取り組みのページはイラストもたくさん入っていて、子どももとっつきやすいですよね。漢字にふりがながあるだけでも、とても助かるんです。
——ありがとうございます。この本は小学校はもちろん、中学校や高校からも毎年教材の注文をいただき、幅広く受け入れていただいています。今後、もっとこんな内容をというリクエストはありますか?
SDGsという言葉自体は、すでにかなり広まっていると思います。今後は、もう少し深い話を授業で扱えるように、分野がもう少し絞られたものが出るとありがたいです。
——リクエストありがとうございます。2024年12月に発売した最新刊の『未来の授業 ライフキャリア探究BOOK』は、循環型社会の実現に向けた取り組みをテーマにした内容となっていますので、ぜひご覧ください。今日はありがとうございました。
シリーズ最新刊『未来の授業 ライフキャリア探究BOOK ゆみ、サステナブルファッションに出会う!?編』
監修:佐藤真久 編集協力:NPO法人ETIC.
定価1980円(本体1800円+税)
最新シリーズのテーマは「持続可能なライフスタイルの共創」。おしゃれが好きで、アイデアを生み出すのが得意なキャラクター(ゆみ)が、ファッションをめぐる様々な社会問題に触れ、なぜサステナブルなものづくりや循環型社会の実現が必要とされているのか理解していく。これからもファッションを楽しめる世界であるために、どんな実践が必要なのか?この問いから、自分自身の将来像のヒントも見つけだす。巻末に「教材としての本書の活用方法」の解説つき。「キャリア学習」の授業や「総合的な探究の時間」の教材に最適。
「未来の授業」書籍シリーズバックナンバー紹介
『未来の授業』シリーズは2019 年に第1弾となる『未来の授業 私たちのSDGs 探究BOOK』を発行し、以来テーマを変えながら毎年発刊を重ねてきました。現在のシリーズ累計発行部数は24万部を超え、教材や研修でも多数採用される人気シリーズとなっています。全国の書店やネット書店でお買い求めいただけます。
詳しくはこちら
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