「自分が努力すれば必ず伝わる」 自治体広報に必要なのは強い信念(福島県・佐藤耀さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、自身の考えをお話いただきます。熊本県菊池市の三代烈也さんからの紹介で今回、登場するのは福島県川俣町の佐藤耀さんです。
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福島県川俣町
総務課文書広報係 副主査
佐藤耀氏

2017年入庁、2019年から広報担当。全国広報コンクールでは、広報紙(町村の部)で特選、入選。

Q1.現在の仕事内容について教えてください。

みなさんこんにちは。福島県川俣町総務課文書広報係の佐藤耀と申します。まず初めに川俣町のことを少しだけ紹介させてください。

川俣町は、福島県の北部に位置する阿武隈山系の丘陵地帯にあり、里山と清流に囲まれ、絹織物で栄えた町です。また、近年では、地理的表示(GI)やJGAPを取得した地鶏「川俣シャモ」の産地でもあります。そのほかにも近畿大学と協力して生産に取り組んでいる「アンスリウム」や朝の連続テレビ小説のモデルとなった古関裕而氏ゆかりの地としても有名です。さらに町の東側にそびえ立つ花塚山は「富士山の見える北限の山」として年間多くの登山客が訪れており、麓にある「峠の森自然公園」のキャンプ場も密かな人気スポットとして利用者が急増しています。

写真 商品・製品 「川俣シャモ」の親子丼

「川俣シャモ」の親子丼。

私はそのような魅力溢れる川俣町で広報業務全般を担当して6年目になります。広報紙に関しては担当が1人のため、取材や撮影、広報紙作成を全て1人で行っています。また、町で発行する年間カレンダーの作成や他部署から依頼があったパンフレットやポスター、PR動画の作成など幅広い分野で業務を行っています。

Q2.貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

私が所属する文書広報課係では広報紙の作成のほか、町政懇談会の運営などの広聴業務なども行っています。私自身も広報広聴業務を担う係の一員として、一方的に行政情報を広報紙にただ掲載するだけではなく、取材先で、住民のみなさんが気になっていることや知りたいことを会話の中で見つけ、広報紙に掲載するように心掛けています。

Q3.ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

私が考える「自治体広報における実践の哲学」は「誰のための広報であるのか」「誰のために広報するのか」を常に考えることだと思います。そう考え始めたのは6年前、広報担当になった年の12月でした。実は、私が広報担当になる年まで川俣町は全国広報コンクールで4年連続入選しており、着任当時はとてつもないプレッシャーを感じていました。また、前任者が退職し、ほぼ引継ぎのない状態で広報担当になったため、配属当初は毎日、日が変わる頃までPCと向き合い、作っては削除しての繰り返しで、頭も紙面も真っ白な日々が続いた記憶があります。その年は、前々任者に相談しながらなんとか広報紙を作り上げたものの、県の広報コンクールは落選。全国の舞台に立つこともできず当時はとても落ち込みました。しかし、プレッシャーからは解放され「これからは住民のみなさんのために広報紙をつくろう」そう思うようになりました。

もちろん、それまでも「この企画は楽しく読んでもらえそうかな」「この情報はもっと必要だよな」などと自分なりに重要性や時事性を考え、広報紙作成に取り組んでいたものの、2年目からは「どうしたらもっと広報紙を読んでもらえるか」に重点を置いて広報紙を作成するようになったと思います。

なにより、この考えを強くしたのは同町内に住む両親です。広報紙が届くと真っ先に開くのは「お知らせ欄」。もちろん「お知らせ欄」も大切な情報ページですが、自分がどれだけ時間をかけてこだわって作った特集も「読んでもらわないことには伝わらない」そう思い知らされました。そこで「全ページ読みたいと思う広報紙」を目標にリニューアルを行いました。

思い浮かべたのは書店に並ぶ雑誌です。私自身、書店やコンビニにいくと必ずといっていいほど目を惹かれ、無意識のうちに手に取り、いつの間にか没頭してしまう雑誌。あの感覚で広報紙を読んでもらえないか、そう考え、いくつかのリニューアルを行いました。表紙に関しては約30年ぶりにリニューアル。手に取りたくなる、近くに置いておきたくなるように写真を選定しています。

また、幅広いターゲットに届くようにいくつかの新コーナーを設立しました。そのうちのひとつ「かわまた美より」はノーテーマで住民の人に川俣町での暮らしを聞くコーナーです。このコーナーは、取材先でみなさんもよく聞くであろう「どこどこの誰々さん載っていたよね~」という会話から着想を得ました。それまで子どもたちが多く掲載されていた広報紙でしたが、読者層は圧倒的に高齢者のみなさんです。広報紙は皆さんの共通の話題として地域に存在しているんだなと感じ、このコーナーの設立を決めました。

最近では「この人を取材してほしい」「私もこのコーナーに載りたい」というような依頼もあり、多くの人に読んでもらっているのだなと実感しています。

また、広報紙を読むのは職員ではなく住民の皆さんであるということを考え、担当課が異なるという理由から別ページに掲載されていた子育て情報を一つのページにまとめたり、毎月掲載する人口や休日当番医、納税の情報を表紙裏に掲載するなどのリニューアルも行いました。

リニューアルしたその年の広報が全国広報コンクールで特選に選んでいただいた際には、表紙裏の情報について「手元に置いておきたくなる工夫」と講評もいただき住民のみなさんからも「まとめて取ってあるよ」といった声もあり、自分の考えが結果に結びつきとても嬉しかったです。

写真 表紙 広報かわまた

写真 表紙 広報かわまた

写真 誌面 広報かわまた

川俣町の広報紙。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

自治体広報の仕事は多くの人に自治体のことを伝えなければならないという点でとても大変だと思います。必要としている人に必要としている情報を届けることがこれほど難しいとは広報担当になるまで気が付きませんでした。「広報紙に掲載すれば」「ホームページに掲載すれば」「SNSに投稿すれば」伝わると考えていましたが、実際は「伝える」努力をしなければ伝わることは少ないと思います。そのためには広報紙だけではなく、職員全体の広報力を上げていくことが重要になってくると思っています。

やりがいと可能性に関しては「自分が努力すれば必ず伝わる」ということです。以前、取材先で「最近、写真も文章もすごくこだわっているのが分かって広報紙を読むのがとても楽しみになった」と言われたことがあります。

もちろん私たちの努力は全員が気付くことでもないですし、気付かなくてもいいと思っています。しかし、そうやって広報を読んでくれる人がいることはとても嬉しく、また頑張る理由になっています。広報を読んでくれる、好きでいてくれるファンを増やすことで自治体の中でも「広報」の重要性はさらに大きくなっていくと思いますし、広報担当だけではなく他部署の事業などでも伝わる情報が増えていくのではないかと思います。

【次回コラムの担当は?】
次回は兵庫県佐用町情報政策課広報室の国広大樹さんです。

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