アーティスト・藤嶋咲子が考える「ゲーム」と広告の可能性―「私の広告観」出張所

絵画からキャリアを始め、3DCGや現代アートで社会課題に挑むアーティスト、藤嶋咲子さん。「バーチャルデモ」ではSNSの力を可視化し、「WRONG HERO」ではジェンダーバイアスへの問いをゲーム形式で表現するなど、新しいアートの形で人々の抑圧された声を浮かび上がらせました。広告やメディアが抱える課題に対しても、独自の視点を投げかけます。
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藤嶋咲子さん

画家・現代アーティストとして、アート×ゲーム×社会問題をテーマに活動。二次元と三次元、フィジカルとデジタルが混じり合う領域で作品を展開。AIを活用した《デジタル・ペルソナ-二つの声》では、異なる思想を持つAIキャラクターを通じて、観客との対話から思想や感情の揺らぎを引き出す実験を行う。インターネットを活用して多様な声を可視化する「バーチャルデモ」や、ジェンダーや社会構造を問い直すRPG「WRONG HERO」など、多彩なプロジェクトを手掛けている。

Q.藤嶋さんが2024年に発表した、ゲーム作品「WRONG HERO」について教えてください。

「WRONG HERO」は、1980年代に流行したレトロゲームの形式を取り入れた作品です。物語は、主人公の女性がモンスターの存在に悩む村を訪れ、討伐に向かうというRPGの形をとっていて、コントローラーを使ってゲームを進めます。

この作品の主人公は、「姫になることを捨て、勇者になる」ことを選択した女性で、村人からは「女の子なのにプリンセスになりたくないの?」と驚かれたりします。また、モンスターがいるという洞窟の入り口に立つ衛兵は恐怖に苛まれていますが、男だからという理由で、やりたくもない仕事をしているんです。

村人たちのセリフには、SNSで寄せられた言葉や体験が反映し、プレイヤーがその言葉に向き合うと、架空の村の物語が現代の私たちの現実と重なり合う瞬間が訪れるようにしています。

社会にはジェンダーに基づく役割や期待が根強く存在し、それが個人の選択肢を狭めることがあります。SNSで多様な声に触れる中で、こうした固定観念がいかに深く根付いているかを痛感しました。

そして、ふと「この世はまさにジェンダーロールプレイングゲームそのものかもしれない」と思ったことが、「WRONG HERO」の着想につながっています。この作品では、固定された役割が生む葛藤や抑圧を、ゲームという形式を通じて問い直しました。

写真 人物 個人 藤嶋咲子さん

実データ グラフィック 「WRONG HERO」

「WRONG HERO」について説明する藤嶋さん。

Q.昨今の広告やメディアについて、どのように感じていますか。

常に、何が「バズるか」や、いかに「ハックするか」ばかりに注力され、注目されがちだと感じます。新しい方法論を探る過程はまるでゲームのようで、確かに面白い部分もありますが、単に数を追い求めるだけではなく、その背後にあるモチベーションや意義こそが本当に知りたいことであり、重要だと思います。

また、SNSやメディアが情報の中心となっている今、声をあげたくてもあげられない、いわゆるサイレントマジョリティの存在を強く意識しています。これらの声をゲームやアートの中で予期せぬ形で結び付け、日常の文脈では見過ごされがちな問いや感覚を引き出す表現を探求していきたいです。

 

…藤嶋さんのインタビュー記事全文は、月刊『宣伝会議』2025年3月号 に掲載。

月刊『宣伝会議』デジタルマガジンでは、過去12年分のバックナンバー記事を閲覧可能です。

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