人々の生活がますますデジタルシフトしていく中、企業はこれまで以上にマーケティング、デジタルに関する知識を深め、顧客へより深い提供価値を届けていく必要がある。
リクルートのマリッジ&ファミリー・自動車領域とまなび領域のマーケティングバイスプレジデントを務める石井智之氏が、2024年11月28日、29日に開かれた「宣伝会議サミット2024」に登壇し、同社のマーケティングを進化させる取り組みとその考え方について紹介した。
マーケティングの要素と必要なスキルの拡張
石井氏ははじめに、マーケティング進化とは「ストラテジーとソリューションの両レイヤーをスコープに、マーケティング組織の一人一人のアウトプットが、市場対比で価値が高い状態であり続けること 」と定義した上で、マーケティング進化の実現のためにどのように組織を動かすか、その考え方を示した「型」を解説した。
マーケティング組織を動かすプロセスの型
組織を動かすプロセスの計画段階でまず行うのは「目指す姿の設定」。次にマーケティングの「環境分析・予測」に着手する。そしてそれらをもとに、組織戦略の立案を行う。
マーケティングをめぐる環境としては、「マーケティング業務の拡大」「技術進化による業務価値の変化」「人口減少による生産性の向上の必要性」「プライバシーを始めとした法的/論理的観点」の4つを挙げ、これらへの対応が求められると指摘した。
約10年前の当時に整理した図を投影しながら、「 マーケティングとしてできることの広がりを感じている」と語る石井氏。「『データが不可欠』になるなど、マーケティングが関わる要素は今後もさらに拡大し、必要スキルも拡張していく」と予想している。
一方で「技術進化による業務価値の変化」では、以下のように指摘する。「オペレーション性の強い、あるいはロジック制御が可能な業務」は、技術による代替によりその価値が低下する。そのような予想のもと、「人の介在による付加価値の高い業務への力点シフトの準備が必要」だという。
これらの分析から、「技術進化によりマーケティングとしてできることは拡張される。一方で機械化する業務プロセスが生まれていく。これをベースに組織戦略を考えていく」と述べた。
リクルートプロダクト統括本部 プロダクトデザイン・マーケティング統括室 マーケティング室 販促領域マーケティング2ユニット(マリッジ&ファミリー・自動車) Vice Presidentの石井智之氏
個人の人材価値をないがしろにしない組織戦略
組織戦略の立案プロセスは下記の図のようになる。最上位に位置する「思想」とは譲れない理念で、「思想」と「環境分析・予測」はある種の定数と捉える。動かせる変数は「目指す姿」と「戦略立案」だ。
組織戦略立案の思考プロセス
石井氏の「思想」は「個人の人材価値向上が組織や事業の成長をつくる=個人の人材価値をないがしろにしない」だ。また「目指す組織の姿」は、「ストラテジー、ソリューションの両レイヤーをスコープに、一人一人のアウトプットが市場対比で価値が高い状態であり続けること」だという。
「環境分析・予測」は、「技術進化によりマーケティングとしてできることは拡張する。一方で機械化する業務プロセスが生まれていく」というプロセスを経て、「成長の指針を掲げ、成長環境を提供する組織戦略立案を立てていく」と解説する。
起きることの兆しを掴み、大事なことを伝え続ける
「目指す姿の設定」「環境分析・予測」「組織戦略の立案」というプロセスで計画した戦略を実行に移すには、その計画を方針・評価・体制・育成支援の4要素に分解して具体化していく。
まず「方針」は、「打ち出すことが大事」であること、「言いにくいことを言わないと事態は悪化する」ことを肝に銘じることが大事だと指摘する。「方針を打ち出し、その説明がなければ、組織の人たちは動機付けされない」という。
事態の悪化を防ぐために、マネージャーは「言いにくいことも言う」覚悟が必要だ。「今言うか、後で言うか、時間が経てば経つほど不幸になるのは自分の組織の人たちであるという認識が大切」だと述べる。
次に「評価」は競争力に直接作用する。人材評価をする上で大事なポイントは「評価基準の明確化」と「評価という運用の徹底 」だ。反発や離反が不安であるからといって、評価を歪ませたり、評価者の感覚によって評価基準がブレたりしてしまうと、人材の流出や、職場の異動でスキルが通用しないといった結果につながる。
「体制」は「戦略実行」のhowである一方、「組織戦略」を色濃く反映するものだ。そして体制もまた、競争力に直接作用する。ただのhowではない理由は組織戦略の上流にある「思想」によって、何を是とするか非とするかが変わってくるためだという。「例えば『個人の人材価値』に重きを置いているならば、たとえ業務の細分化/分業化によって事業目線での生産性向上 が期待できる場合でも、個人の人材価値が下がるような体制は棄却する」という具合だ。
「育成、支援」は人を育てるための実行プロセスだ。ポイントはできるかもしれないことにチャレンジさせること。その際マネージャーがやるべきことは、「チャレンジする機会を用意して、伴走の準備をし、責任を取る準備をする。さらに、関係者との連携の準備をすること」だという。
最後に石井氏は「組織を動かさないとマーケティングの進化は実現できない。組織を動かすマネージャーは、これから起きることの兆しを掴み、大事なことを伝え続ける必要がある」と結んだ。
