広告を停止してどんな影響があったのか
一連のフジテレビへの広告差し止めを見て思うのは、フジテレビによる早期の事実解明や再発防止や企業ガバナンスではなく、「そもそも広告媒体としてのテレビの位置づけ」についてです。
これが90年代であれば、まったく違ったものになったはずです。広告媒体としての「4マス」というポジション、中でもターゲットへのリーチやフリークエンシーの高いテレビメディア。しかも全国ネットで4局しかない限られたメディアの一角。しかも視聴率の高い全盛期のフジテレビへの広告出稿ができないことは、宣伝部にとって大きな痛手を感じたかもしれません。
あのクローズな会見以降、一斉に宣伝部が出稿から手を引いた要因として「継続することをSNSで批判されること」や、広告主の人権問題などの姿勢を世の中や株主などのステークホルダーから問われることなどが挙げられていますが、実際のところは「別にフジテレビの広告を停止してもたいして影響はない」というのが宣伝部の本音ではないでしょうか。
ネット広告市場は今やテレビの倍の規模
もちろん、今でもテレビ広告出稿時の自社サイトへの流入量などでその効果が測定され、効果があると判断している企業も多いことでしょう。とくに食品や消費財などの会社や無形の商品である保険や金融などは、接触機会を得る手段としてのテレビ広告に頼る部分も多いと思います。
しかし、宣伝部がこの10年くらい沸々と思っていた「テレビやめても良くない?」という気持ちがこの期に及んで再燃している気もするのです。広報部が社会性やコンプライアンスを理由に出稿を停止させる判断をすること以上に、宣伝部のそういった空気感があるような気もするのです。AdverTimes.で「テレビ広告なんてやめちゃえ」という論調はいかがなものかとも思われるかもしれませんが、実はそんな気がしています。
いまや日本の広告市場に占める地上波テレビの広告媒体費の割合は22%です。それに対して、インターネット広告費が45%を占める今(電通「2023年日本の広告費」)。そんな気分を一気に加勢してしまっている気もします。
もちろんWeb広告が万能なわけでもありません。広告枠が限られていてプレミア感のある過去の4マスとは違い、スペースの制約のないWebでは効率的な運用が求められるなど課題はありますが、少なくとも電化製品や自動車などの高価格なモノを買うときはWebでいろいろ調べたりするのが今どきです。「そのために認知やブランドイメージを上げる目的でテレビ広告は大事だ」という意見もあると思います。電化製品や自動車などは情緒的なイメージも大事ですが、WebサイトやYouTubeなどで実際に購入した方の評価を見るほうが確実であったりします。
何よりも広報(PR)と宣伝の境界線がなくなり、宣伝行為ではなく、パーパスを理解してもらうための自社PRの重要性やユーザーとの双方向性が必要な今、改めてテレビ広告の意義が問われています。