コピー年鑑と嘘と私(文・古川雅之)

東京コピーライターズクラブ(TCC)が主催する、コピーの最高峰を選ぶ広告賞「TCC賞」。その入賞作品と優秀作品を収録したのが『コピー年鑑』です。1963年に創刊され、すでに60冊以上刊行されています。
広告クリエイターを目指す人や駆け出しのコピーライターにとっては、コピー年鑑は憧れの存在であり、教材であり、自らを奮い立たせてくれる存在でもあります。TCC会員の皆さんは、コピー年鑑とどう向き合ってきたのか。今回は、2009年にTCCに入会した古川雅之さんです。

「コピー年鑑と私」というテーマで、テキトーな嘘を2、3個でっちあげて作文してほしいという依頼が来た。困った。僕は、冗談は言うが嘘はつかないという点においては、西日本で3本の指が鼻の穴に入るナイスガイである。しかも、書く前に過去の「コピー年鑑と私」を20数回分読んでみたのだが、もはや書くべきことなど残されてないじゃないか。若かりし頃、コピー年鑑を読み漁った時の絶望と同じくらい「もう言われてるやん!(既出!)」だ。しかし、(中略)嘘を急ごう。

 さて。コピーライターの名刺を持って随分になるが、僕はコピー年鑑を自腹で買わずに活躍した人を見たことがない。もしそういう人がいたら名乗り出てほしい。「僕は/私は、コピー年鑑なんか買わずともこうやって大活躍していますよ」と大きな声をあげてほしい。すごいですね!何よりも自分で自分は大活躍していますよと言えるメンタルがすごい。恥ずかしくないのか。

 さて。自宅の本棚にぎっしりと並ぶコピー年鑑はひと財産という感じではあるが、売っても二束三文なのは知っている。自分でお金を出して初めて買った年鑑が1991年。もう34年も前なのか。本の価格は16,000円(税480円)消費税が3%の時代である。久しぶりにページをめくると、やさしかった母(まだ生きている)や、昨日の晩飯のことなどいろいろなことが思い出される。なぜか残された文字数が少なくなってきた。どうしようか。こうしよう。

♪〜(いきなりですが「プ◯ジェクト×」風のナレーションでお送りします)

古川は いわゆる写経は しなかった
S/ TCC年鑑 1991
自分で初めて買ったコピーの年鑑 
高価で 分厚く重かった
元を取ろうと 毎日ひたすらページをめくる
「これらが いいとされている コピーたちか」

 名作 花嫁の父(ライオン)
 NTTデータ通信のホーキンス教授
 (2作目のダイソン教授のコピー、いま読むと震えます) 
 新聞をうけうりする間寛平(朝日新聞)
 では、どこで選ぶか?(目のつけどころが、シャープでしょ)

手の届かない人が 手の届かない仕事で 手の届かないコピーを書いている
まだ 自分ごと感はなかった
くやしさを覚えるのは まだ先のこと
「すごいなぁ すごいなぁ」
目を輝かせて ひたすらページをめくった
どうやったらこんなコピーが書けるのか
中にはどこが良いのか さっぱり分からない広告・コピーもたくさんあった
まだ少しは自分に近いかもと開いた新人賞のページには

 最高新人賞 佐藤雅彦さん
 ジャンジャカジャーン(JR東日本) 
 ポリンキーの秘密(湖池屋)

手の届かない人が 手の届かない仕事で 手の届かないコピーを書いていた
また 今では考えられないことだが
なぜか受賞者の自宅の住所が 
マンションの部屋番号まで記載されている
びっくりやで年賀状出せるで
出さなかった
これらのことから何を学んだのか
古川は多くを語らない

 さて。こんな駄文をここまで読んでくれているのだからあなた暇だけはあるのでしょう(コピー年鑑はそういう時間にぴったりです)。さあ最後は他人の褌で相撲もとらんと締めるで。コピー年鑑1991の冒頭ページに、一倉宏さんの素晴らしいコピーが掲載されている。いま僕が言いたいことにそっくりだ。

 『大変だけど、幸福な職業。』

 そう。コピー年鑑には、毎年の「誰かの、大変だったけど、幸福な仕事」が載っている。いわば誰かの幸せがぎっしり詰まっているのだ。そりゃ激しく嫉妬もするわけだ。他人の幸せは自慢げに輝いていて、目標となり敵となり立ちはだかる。それでも分厚く重たい本のページをめくり、うなったり首をかしげたり腹を立てたり妄想したり悩み考え続けた日々が、今日の幸せな仕事に繋がっているのだと思う。いますぐコピー年鑑を買いましょう。あと年賀状はやめました。

P.S.
なんとなくタイトルにつられて思いがけず長い文章読んでしまって最後に
「結局何がいいたいねん!薄っ!なんやねんこれ?」ってなること、
よくありますよね? 僕はしょっちゅうあります。
インターネットって時間泥棒。こわいね。

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古川雅之(ふるかわ・まさゆき)

電通(Creative KANSAI)

グループ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー/コピーライター
「無視されない広告を」「できればユーモアで解決したい」をモットーに。
主なお仕事:キンチョウ(大日本除虫菊)・赤城乳業・日清紡など。
主な賞歴:ACCフィルム/グランプリ(2010)・TCCグランプリ(2017/2020)
ACCラジオ/グランプリ(2019/2021/2023) クリエーター・オブ・ザ・イヤー
特別賞(2017)などに当選。2009年TCC入会。

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東京コピーライターズクラブ(TCC)
東京コピーライターズクラブ(TCC)

東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの団体。毎年、前年度に実際に使用された広告の中から、優秀作品を選出。その制作者を「TCC賞」受賞者として発表し、受賞作品のほか優秀作品を掲載した『コピー年鑑』を発行している。TCC新人賞審査に応募し、新人賞を受賞することで入会資格が得られる。2024年度の編集委員長は、尾形真理子氏。『コピー年鑑2024』の詳細はこちら

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東京を中心に日本全国で活躍するコピーライターやCMプランナーの団体。毎年、前年度に実際に使用された広告の中から、優秀作品を選出。その制作者を「TCC賞」受賞者として発表し、受賞作品のほか優秀作品を掲載した『コピー年鑑』を発行している。TCC新人賞審査に応募し、新人賞を受賞することで入会資格が得られる。2024年度の編集委員長は、尾形真理子氏。『コピー年鑑2024』の詳細はこちら

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