嶋浩一郎さんが考える、いまPRパーソンが鍛えたいレシーバー機能

PRパーソンには多くのステークホルダーとのコミュニケーションを通して共感を集め、周囲を巻き込んで社会に新たな文化や概念をもたらすことが期待される。社会に応援されるPR企画を生み出すための視点を、嶋浩一郎氏に聞いた。

 

※本記事は『広報会議』2025年3月号特集「広報の企画・発想」に掲載している内容をお届けします。

avatar

嶋 浩一郎氏

博報堂
執行役員/エグゼクティブ
クリエイティブディレクター

(しま・こういちろう)1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局配属。2004年本屋大賞の立ち上げに参画。2006年博報堂ケトル設立。多数の統合キャンペーンを実施。本屋B&B運営。著作に『「あたりまえ」のつくり方』等。

イメージ 図

誰かと共に物語を紡ぐPR

─PRにおけるアイデアの発想法、考え方のポイントだと思うことを教えてください。

PRパーソンが生み出すストーリーは、自社だけのストーリーではなく、社会の中で起こっているストーリーと自社のストーリーをいかにコンテクストにしていくかという点が重要だと考えています。これは「コンテクスト」の語源が「con-(共に)」と「texere(編む、織る)」であることにも表れており、自分たちのストーリーだけを話すのではなく、誰かと共に物語を紡いでいくことが必要になるのです。

PRとは「世の中の出来事と自社のブランドは、この部分が手を握れますよね」という合意形成をして物語をつくっていく仕事です。そのため、自分の言いたいことだけ、自社の発信したいことだけを発信していては、炎上のようなことが起こるリスクもあります。

変化していく世の中の価値観に対して、会社の持つリソースやアセットはどのように手を握ることができるのか。社会課題や皆が抱えている不便さなどにブランドがどのように貢献できるのかといったストーリーをいかに探し出すか。これこそPRパーソンの腕の見せ所だと思います。

このような話をすると「うちの会社の事業は社会課題と結びつけにくいので難しい」という人もいます。しかし世の中で起きている様々なことと、自社が提供したい価値のつながりは何かしらあるはずです。

最近だと、オーバーツーリズムで「京都がすごく混んでいてバスに乗れない」などのニュースをよく見るかと思います。これに対して、例えば自治体のブランディングの担当者だとしたら「学生の修学旅行の行先は京都でなくてもいいのではないか」といった視点も出てきます。

電気自動車の例では、以前はセールスにおいて「キャンプ場で映画が見れます」「この電気調理器が使えます」などをアピールしていましたが、東日本大震災で「電気自動車があったおかげで72時間電気が使えた」などのストーリーが出てきた際に、防災時に社会に貢献できる電気自動車の役割が認識されるようになりました。

まずは「受信」する力を鍛える

─現在のPRにおいて課題だと思うことはありますか。

世の中で起こっていることを受信するレシーバー機能が弱まっているように感じます。

発信することも大切ではあるのですが、PRに必要なのは「発信の技術」よりも「対話の技術」であり、対話をするためには「自分がどう伝えるか」よりも「人々や社会がどう思っているのかを受信する」能力、広報・広聴的なスキルが必要ですし、そこが本来のPRの強みだと思います。
例えば「2024 64th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」のPR部門で「総務大臣賞/ACCグランプリ」を受賞したマイナビの「座ってイイッスPROJECT」。働き方改革が進んでいく中で、働く人がより快適に働ける環境をつくっていくべきだという動きや、カスタマーハラスメントが問題となるニュースが多く見られたり、少子高齢化で労働力がどんどん減っていく中で高齢者も働く必要が出てきたり。こうした様々な社会課題が混ざり合っている中で「これからは座ってレジ打ちしてもいいのではないか」といった物語が生まれています。

これは突然思いついたアイデアではなく、社会で起こっていることを受け取って、世の中起点の物語の中で「うちの会社であればこれができそう」というポイントを上手く結びつけたプロジェクトだと思います。

マーケティングPRが世の中で評価されていく中で、次第に一方的な情報発信が重視されるようになり、発信に偏った施策が生まれるようになったのはPR業界の反省点でもあると思っています。優れたPRパーソンとは発信だけの技術に長けた人ではなく、世の中で生まれている新しい“こうなったらいいな”に耳を傾けられる人なのではないでしょうか。

PRの評価軸とは?

─メディア露出数やリーチ数、SNSの「いいね」の数などが評価軸にされがちなことも、発信に重きを置いてしまう理由な気がします。

PRの仕事は、みんなが乗れる船をつくり、反対者も含めてどれだけ多くの人を巻き込めるかです。第三者との対話を通じアイデアをよりよいものにしていくことがPRの強みだと思っていて、新しいアイデアがあった際に、広告とは異なり、自分ではなく第三者に発信してもらい、動いてもらうことが大切になるのです。

そのため、PRの評価はどれだけ多くの人にパーセプションチェンジ(認識の変化)とビヘイビアチェンジ(行動の変化)を起こすことができたか、施策実施前と実施後の変化を起こせた人の数などが指標になってくるかと思います。

2024年9月に『「あたりまえ」のつくり方』(ニューズピックス)という書籍を上梓しました。この本を書くにあたり、様々なPRの定義を調べたのですが、加固三郎さんが著書である『PR戦略入門』(ダイヤモンド社)の中で以下のように定義しています。

「PRとは、公衆の理解と支持を得るために、企業または組織体が、自己の目指す方向と誠意を、あらゆる表現手段を通じて伝え、説得し、また、同時に自己匡正(きょうせい)をはかる、継続的な対話関係である。自己の目指す方向は、公衆の利益に奉仕する精神の上に立っていなければならず、また、現実にそれを実行する活動を伴わなければならない」

この「自己匡正」というのはその通りだと思っていて、PRの仕事を的確にとらえていると思います。自分と異なる意見があった時にも、素直に反対意見を聞きながら自身を匡正していける。この姿勢があることで多くの人が納得して船に乗ることができ、一方通行の情報発信よりも効果を発揮するのだと思います。

─「レシーバー機能」を鍛えるためには何ができるのでしょうか。

まずは、すべてのニュースは自分と関係があると思いながら見ることが第一歩だと思います。ニュースとは社会で起こっている物語なので、ニュースと自社の取り組みに補助線を上手く引くことができれば、社会が応援してくれる活動になります。

2020年の味の素冷凍食品の事例も、自社の強みを既存の枠にはめることなく世の中のニュースとの間に上手く補助線を引いた例だと考えています。

ある女性の「疲れて帰宅して夕食に冷凍餃子を解凍して出したところ、子どもは喜んだが、夫に『手抜きだ』と言われてしまった」というSNSの投稿に対し、味の素冷凍食品は「冷凍餃子を使うことは、手抜きではなく、手“間”抜きです」「冷凍食品を使うことで生まれた時間を、より有意義なことに使ってほしい」という旨の投稿をしました。

「冷凍餃子」と「働き方」は一見すると結びつかないテーマのようにも思いますが、補助線を引いたことで社会から広く応援される事例になりました。補助線を引くためのコツとしては、自社の強みを活かせる先が既存ターゲットだけだと思い込まず、一度リミッターを外して自社を見つめ直すことです。なぜなら、自社の商品やサービスは、自分たちが予想をしていなかったような価値を提供していることも往々にしてあるからです。

時間制のコインパーキングは、一般的には駐車をするために使用しますが、実は「車の中でひとりの時間を過ごす」ために使用している人も多いなどの例があります。最初に提供側が考えたインサイトがすべてではないのです。この思い込みを撤廃することが、社会のニュースと自社に補助線を引く近道となります。一見関係なさそうなニュースの方が、実は補助線を引きやすい、といったこともあると思います。

イメージ 図 社会のニュースと自社商品/サービスを結びつける補助線を引く

図 社会のニュースと自社商品/サービスを結びつける補助線を引く

PRに必要なクリエイティビティ

─広報担当者の中には、自分のクリエイティビティに自信が持てないという人もいそうです。広報パーソンにとってのクリエイティビティとはどのようなものなのでしょうか。

まず、映像や画像のビジュアルをつくるなど、アウトプットを出すことだけがクリエイティビティではないということをお伝えしたいです。

もちろんビジュアルの持つ力は有効であり、合意形成を円滑に進めるための手法として広報パーソンにも逃げずに向き合ってほしいとは思います。

しかし、クリエイティビティとはこれらのアウトプットのことだけを指すものではありません。世の中のニュースと自社に補助線を引けること自体がひとつのクリエイティビティです。

また、クリエイティブであるためには、ある種の“勇気”も必要だと思います。補助線を引くにしても、これまで世の中にない新しいことを発案する際は、最初は周囲の人に理解してもらいにくいかもしれません。また、従来の方法との間に齟齬が生まれ、忖度をしてしまいたくなることもあるでしょう。このような場合に、重要となるのが“ファクト”ベースで考えることです。

最近、博報堂DYホールディングスのChief AI Officerである森正弥とAIについて話す機会があったのですが、「AIは恥ずかしがらないし、人からどう思われるかなども関係ないので空気を読まない点がいい」と言っていました。

インサイトを探す際、人は意識的でも無意識的にでも「こうあってほしい」「こうはならないでほしい」というバイアスがかかってしまいます。しかし、AIはこのようなバイアスなどまったくなく、ファクトだけをベースに考えて回答を出します。つまり、クリエイティブであるためには、空気を読まない勇気も大切なのです。数年前からカンヌの審査においても「“Brave”であることが大切」と各カテゴリーで審査委員長が言っているのですが、その通りだと思います。

多様なステークホルダーとの合意形成の技術を持っているPRパーソンが、発見したことを勇気を持って発言すれば、世の中に新しい概念をもたらすことができ、多くの人を巻き込んだ活動につなげることができる可能性が大いにあるのです。

そのためにも、ファクトベースでの発想や判断ができるよう、PRパーソンにはぜひレシーバー(受信)機能のセンサーを鍛えていってほしいです。

advertimes_endmark

『広報会議』2025年3月号


【特集】
広報の企画・発想
ニュースになる!ファンが増える!

●話題を生んだ広報活動の裏側
キリンビール「晴れ風ACTION」
タイガー魔法瓶「魔法のかまどごはん」
ヤマハ「だれでも第九」
協和「未来へつなぐタイムレター」
原田商店「サイレントキャンディ」
 
●クリエイター視点から考えるPRの価値
嶋 浩一郎、細川美和子
 
●COLUMN
発見のあるファクトをもとにストーリーを語る
ヘラルボニーは社会に意識変容をどう起こしたか
 
●あの企画の仕掛人・担い手に聞く
サントリー「社長のおごり自販機」
KDDI「おもいでケータイ再起動」
 
●社会の関心や生活者の意識の変化を掘り下げる
仕事と介護の両立/万博/カスハラ対応/生成AI
 
●2025年にメディアが追う42の注目キーワード

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ