「行動」「広聴」「対話」「模倣」-自治体広報業務に必要な4つの力とは?(佐用町・国広大樹さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、自身の考えをお話いただきます。熊本県菊池市の三代烈也さんからの紹介で今回、登場するのは、兵庫県佐用町の国広大樹さんです。

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国広大樹氏

兵庫県佐用町 情報政策課 
広報室 係長

平成24年に入庁。上下水道課、生涯学習課(スポーツ担当)、建設課などを経て、令和4年か
ら広報担当。カメラ経験の乏しさがかえって功を奏し、スマートフォンで撮影した写真が令和5
年全国広報コンクールで入選。広報紙部門では、令和5年に入選2席、令和6年に入選1席
と合わせて、2年連続で読売新聞社賞を受賞。

Q1:現在の仕事内容について教えてください。

私が働いている佐用町は、兵庫県と岡山県の県境に位置し、豊かな自然に囲まれた人口1万5千人弱の小さな町です。平成21年には、町を流れる佐用川と千種川の氾濫による災害が発生し、大きな被害を受けましたが、全国各地からの支援や町民の助け合いにより復興しました。現在も地域の絆を大切にし、安全安心なまちづくりを目指しています。

まずは、わが町が特に自慢できるスポットやグルメを紹介させてください。
1.南光ひまわり祭り
毎年7月末に行われる「南光ひまわり祭り」では、約66万本のひまわりが咲き誇り、関西圏から多くの方が訪れます。

2.西はりま天文台
世界最大級の公開望遠鏡「なゆた」を有する西はりま天文台は、宿泊施設も備えており、天体ショーの際には全国から天文ファンが訪れます。

3.利神城跡
平成29年に国の指定史跡に選ばれた「利神城」では、今も石垣が残っており、歴史を物語る遺構は山城ファンに人気です。

4.ホルモン焼きうどん
焼きうどんを特製のつけだれで食べる「ホルモン焼きうどん」は、B級グルメとして町民のソウルフードとなっています。ぜひ一度ご賞味ください。

私はこの佐用町で情報政策課広報室に所属しており、月1回発行の広報紙の作成(取材から編集まで)を中心に、SNS(LINE、Instagram、Facebook)での発信、ホームページ管理、報道機関へ向けたプレスリリースの作成などを行っています。

Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

私が所属する広報室では、課員が4人いますが、私が担当する広報業務のほかに、町の所有する光ケーブルの管理、統計調査、防災行政無線、ケーブルテレビの映像制作・運営など多岐に渡ります。チームワークが良く、お互いが協力をしながら業務を進めていますが、基本的には一人一担当となっています。

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

自治体広報の職員が研修でまず教わる「広報=パブリックリレーションズ(公共の関係)」という言葉。この言葉を原点として、とても大切にしており、常に意識しています。

自治体広報は住民と行政が対等で信頼に基づいた関係を築くためのツールであり、住民目線に立ったコミュニケーションが最も重要だと考えています。どんなに優れた写真や企画があっても、住民の暮らしや意見に寄り添わなければ、その魅力は伝わりません。行政職員は、市民生活をより良くするためのプロフェッショナルであるという自覚を持ち、広報活動に取り組むべきだと思っています。

また、日々の業務において特に心がけているのは、次の4つの「力」です。

1.行動力
住民からの情報は宝物です。情報が入れば、躊躇せずに迅速に行動に移すことで、住民の声に応える姿勢を大切にしています。

2.広聴力
多くの方々と接する中で、身近な声をしっかりと拾い上げ、その意見や要望を広報活動に反映させることが、地域全体の信頼感を高めると考えています。

3.対話力
行政内部の担当課と密に連携し、担当者の思いを住民にわかりやすく伝えるための対話を大切にしています。これにより、広報内容の一貫性と説得力が生まれます。

4.模倣力
全国には素晴らしい広報紙を作る自治体や担当者がたくさんいます。全国のみなさんから届く広報紙を楽しみにしており、全て目を通しています。どんな研修を聞いたり、本を読んだりするよりも参考になる「生きた教科書」だと思っています。

このように、住民との対話を基盤としたコミュニケーション、そして常に学び続ける姿勢をもって、私自身は自分よがりにならない、住民に寄り添った広報活動を心がけています。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

まず苦労した点は、佐用町がこれまで全国広報コンクールで特選を受賞するなど、常に優秀な成績を収めていたことです。その実績がプレッシャーとなりました。もちろん、賞を取るために広報紙を作っているわけではありませんが、職場内だけでなく、町民の方々からの期待も感じていました。もしかすると、勝手にそう思い込んでいただけかもしれませんが……。

そんな中、初めて取り組んだのが、町を走る鉄道「姫新線」が赤字路線のひとつとして公表され、廃線の危機に直面しているという特集でした。特集記事を作った経験のない私は、構成やレイアウトも考えないまま、とりあえず姫新線に関わる人を探すことからスタートしました。何人かのキーマンとなる方々に話を聞くと、皆さん口を揃えて「なくなったら困る」とおっしゃっていました。その言葉に触れ、「なんとかしなければ」と強く思い、自治体広報だからこそできる、幅広い世代への問題提起をしようと決意しました。

自分としては、特に工夫を凝らしたレイアウトでもなく、ただ町民の皆さんの声を綴っただけの内容でした。まだまだ学ぶべきことが多いと感じていた矢先、まさかの県広報コンクールでの特選受賞、さらに全国でも上位入賞を果たしました。担当1年目でこのような結果を出せたことに、正直ほっとしました。

何より嬉しかったのは、受賞をきっかけに地元の地方紙に掲載されたことです。これにより、発行当時はあまり読んでいなかった方々にも届き、近隣の市町の方々にも読んでもらうことができました。廃線の危機を回避するためには、地域住民が鉄道に愛着を持ち、実際に乗車することが最も重要です。広報紙を通じて、一人でも多くの人に問題提起ができたのではないかと思っています。

これからも、住民と行政をつなぐ架け橋となり、一人でも多くの人の心を動かせる広報を目指して励んでいきたいと思います。

【次回のコラムの担当は?】
兵庫県小野市 総務部 市民サービス課の常深千子さんです。

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