職員全員が広報担当であるべき―研修を通じて全職員が伝わる広報の実現目指す(小野市・常深千子さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、自身の考えをお話いただきます。佐用町・国広大樹さんからの紹介で今回、登場するのは兵庫県小野市の常深千子さんです。

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常深 千子氏

兵庫県小野市 総務部市民サービス課
広報・SNS発信係 係長

平成17年に入庁。教育委員会、社会福祉課、市民課、税務課を経て、平成29年10月から広報担当に。平成30年~令和3年 県広報コンクール広報紙部門で4年連続特選。うち令和2年全国広報コンクールで入選3席を受賞。また、県広報コンクールの映像部門で令和4・5年特選、1枚写真部門で令和6年特選を受賞。

Q1:現在の仕事内容について教えてください。

小野市で広報・SNS発信係に在籍して8年目になります。主な仕事は広報誌の作成とSNSの発信です。今年度は加えて、小野市が市制70周年を迎えたことを機に「ショート動画による情報発信プロジェクト」を立ち上げ運営をしました。このプロジェクトは、広報担当課の枠を外し、役職・年齢問わず全職員からメンバーを公募。すると、20代から60代、新人職員や再任用職員、管理職の方など48人がメンバーに入ってくれました。

動画の撮影や編集はメンバーが試行錯誤しながら自主的に行い、1年間で約150本、実に2~3日に1回の頻度でショート動画を発信するという、従来の広報担当者3人だけでは到底できない多種多様な情報発信をすることができました。

この活動を通じて、情報発信面の強化だけでなく、全職員の情報発信への理解・関心を高めることができ、また私自身も含めて多くの職員のスキルアップにもつながったと感じています。

  • 当プロジェクトは6つのチームに分かれて活動。3カ月に1回、全員が集まる場を設け、意見交換や学びの時間に。

  • 第1回プロジェクト会議では、1つの素材を個々に撮影・編集。人の数だけ表現や感性の違いがあることを改めて知るきっかけに。

半年間の活動を全職員に向け報告。
活動内容や効果、課題を提唱し、全職員に理解を求めました。

Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

広報・SNS発信係には3人が配属されています。月1回発行している広報誌は、毎号の特集を3人で順に担当。配属1年目の職員も8年目の私も、年4回特集を担当することになります。「編集会議」というものは設けていません。

作りながら随時3人で情報共有や意見交換を行い、作り上げていくので、主担当者の色を出しながらも、「ONO Press」らしさというのは毎号維持し続けられていると思っています。

他には、SNS(Instagram、TikTok、YouTube、LINE)の運営、ニュースリリースの発信や定例記者懇談会の開催などを管轄しています。また、市で空撮用のドローンも所有しており、ドローンの撮影や操縦者のとりまとめも当係が行っています。

広報・SNS発信係は3人体制。チームワークで日々の業務に取り組んでいます!

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

「広報」というと「広報課やシティプロモーション課、観光課の仕事」と認識をされがちですが、「職員全員が広報担当」であるべきと考えています。各担当課から日々市民の方に発送される通知文。いくら良い事業でも「伝わる」通知文でなければ、存在しないのと同じです。市への来訪者に「小野市って何が有名?」と聞かれたとき、相手のニーズに合わせた魅力的な情報を伝えられなければ、その相手はもう小野市に来てくれることはないでしょう。

全ての職員に自分も広報担当であるという意識を持ってもらうために、3年前から外部講師を招くなどして、全職員を対象にした広報研修に力を入れてきました。

チラシや施設だよりの実務担当者研修、管理職研修、一般職研修を開催し、研修参加者は年々増加。来年は新入職員対象にも研修をする予定です(広報係の後輩が企画し、人事係が快諾してくれました)。また、いつでもチラシや通知文などの作成相談を受け付ける体制にすると、年間で40件近い相談が来るようになりました。

私が広報担当者として大事にしているのは「いつでも広報について一緒に考える存在」であること。「何年も引き継がれている通知文の年月日を変えるだけ」が横行していたのが、今の通知文を見直しレイアウトから考える経験を多くの職員がすることで、広報に関心を持ってもらえるようになりましたし、人事の配属希望調査でもここ数年で「広報をやりたい」と思ってくれる職員が増えたそうです。

私が広報に配属される前は、広報は専門性が高く、特別な人じゃないとできない仕事だと思い込んでいました。しかし、「一人のスペシャリスト」になるよりも、職員全員が同じ広報意識を持ち取り組む「風土づくり」をすることが、広報担当者の役割だと思っています。

全職員が「伝わる」広報ができれば、広報担当者だけでは伝えきれない、よりきめ細かくて質の高い情報を市民に届けることができ、結果、市民に愛されるまちづくりにつながると信じています。

外部講師を招いた全職員向けの広報研修。自由参加だが、年々参加者が増加。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

苦労する点は、世の中の変化と同じスピードで広報の体制を変えるのが難しいことです。自治会経由で広報誌を配布していますが、自治会未加入の世帯が増えていること。広報誌を紙で読まれる方とデジタルで読まれる方の両方がいること。SNSのトレンドの変化が目まぐるしく、そこから情報を入手している人が増えていること。限られた予算の中で、「自治体」という信頼感を維持しながら世の中のニーズに合わせて変えていく難しさを感じています。

しかし常に私たち自治体職員が考えるべきことは「市民のため」。今までのものを変えていく過程こそ、やりがいや可能性を感じます。

【次回のコラムの担当は?】
生駒市広報広聴課 主幹 兼 プロモーション係長の村田充弘さんです。

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