市民PRチームとともに、生駒の未来にじわじわと効いてくるシティプロモーションを実現したい(生駒市・村田充弘さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、自身の考えをお話いただきます。小野市・常深千子さんからの紹介で今回、登場するのは、奈良県生駒市 広報広聴課の村田 充弘さんです。

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村田 充弘氏

奈良県生駒市 広報広聴課
主幹 兼 プロモーション係長

平成19年度に奈良県生駒市に新卒入庁。学校教育や幼稚園に関する業務を6年担当。平成25年度から広報やシティプロモーションに従事。担当する市民PRチーム「いこまち宣伝部」がグッドデザイン賞2022を、プロモーションサイトが自治体広報DXアワード優秀賞を受賞する。一般社団法人の代表理事を務め、地域活動にも精力的。

Q1:現在の仕事内容について教えてください。

はじめまして、奈良県生駒市の村田と申します。

生駒市の広報担当になって12年目です。広報紙の制作といった広報広聴業務を7年経験し、現在はシティプロモーションを担当しています。

市民PRチーム「いこまち宣伝部」と協働したSNS運営、プロモーションサイト「good cycle ikoma」、いこまちマーケット部、動画作成、広告運用などが主な業務です。

いこまち宣伝部と運営するSNS「グッドサイクルいこま」。

Q2:貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

シティプロモーション以外に、広報紙や市ホームページ、メディア対応、危機管理、広聴など広報広聴に関わる全般です。

課のVMVに掲げているのが「多様なコミュニケーションのきっかけをつくり、より良い暮らしを叶えるサポートをする」。生駒市の魅力を広く届けるだけでなく、生駒の多様なヒト・モノ・コトがつながるような発信やコミュニケーションを目指しています。

奈良県生駒市の街並み。

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

「一人でがんばりすぎない」ということです。

私には広報のセンスがあまりないと思っています。

斬新なアイデアを出したり、きれいな写真を撮ったりすることは得意ではありません。センスを後天的に磨くことは怠らないようにしていますが、全国の自治体や同じ職場には尊敬できる広報担当者がたくさんいて、自分の不甲斐なさにくじけそうになったことは幾度とあります。

それでも、12年間、前向きに広報を取り組んでこられたのは、市民の皆さんや職場のメンバー、全国の広報担当者など、たくさんの人に助けてもらえたからです。

立ち上げから関わる市民PRチーム「いこまち宣伝部」は、10年で150人が参加しています。行政と市民で3,000件以上のまちの魅力を発信してきました。これは行政だけでは絶対に達成できなかった結果です。また、いこまち宣伝部やいこまちマーケット部といった市民と協働した活動から「まちの友人」が増え、私自身が困ったときや力を借りたいときに頼れる関係が地域にたくさんできました。

いこまち宣伝部10期生(現役生)。

庁内の仕事においては、私一人や広報広聴課だけで進めすぎないように心がけています。同じ課のメンバーや事業担当部署との対話をできるだけ増やし良好な関係性を築くことで、多様なプロモーションの企画やアイデアが生まれ、まちの魅力の創出や情報発信の量や質の向上につながると信じているからです。

シティプロモーションを担当するメンバー。

これまで広報やデザインに関する相談会を実施したり、複数部署にまたがって情報発信をする機会を作ったり、ステークホルダーを増やしてきました。その結果、庁内で広報に協力してくれる仲間がだんだんと増えてきたと実感しています。

10所属と連携したプロモーションイベント「いこまちテレビ」

全国広報広聴研究大会をはじめとした全国規模の催しや研修、オフサイトミーティングなど、自治体の広報担当者とつながれる機会もあります。働く市町村は違いますが、同じ志を持つ者同士で話していると、自然と仕事のモチベーションがあがるものです。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

自治体の広報は、「まちの未来」を創れる仕事と感じています。

プロモーションサイト「good cycle ikoma」では、「2,3歩先の未来の生駒」を表現することを意識しています。このサイトでは、行政施策だけを発信するのではなく、まちづくりのビジョンを、市民のライフスタイルを通じて伝えています。

プロモーションサイト「good cycle ikoma」。

これから生駒市が目指すまちづくりの姿をできるだけ分かりやすく表現して、共感形成やまちのファンの獲得、域内での社会関係資本の促進など、生駒の未来にじわじわと効いてくるようなメディアを目指しています。

もちろん、行政の全ての部署がまちの未来に向けた施策を実施しています。広報担当部署は、それぞれの部署を広報の面でサポートしながら、デザインやメディア運営といったプロモーションの観点からできるアプローチもあります。

私自身、シティプロモーションを担当するまでは、まちの未来をあまり意識できていませんでした。生駒の今やこれまでを発信・編集することに注力するばかりで、まちのこれからにどう効いてくるかまでは考えが至っていませんでした。

転機は、いこまち宣伝部の皆さんと出会ったことでした。一年の任期終了後、「このまちで暮らしていてよかった」「地域でこれからも楽しいことをしていきたい」と、意識も行動も変容していく部員にたくさん出会いました。

10年前に初めて担当した「いこまち宣伝部1期生」。

いこまち宣伝部の皆さんは、月1回、自分が思うまちの魅力を取材して記事にします。取材を通じて、地域の魅力的なヒト・モノ・コトに継続的に出会うことで、友人やコミュニティが広がり、自分が暮らすまちへの意識や行動が変わっていくんです。少しずつまちを好きになって、地域でやりたいことをやってみようと考える人も増えてきています。宣伝部卒業生の中には、市民活動を立ち上げや起業をした人、自治会・PTAといった地域活動への参加など、自らまちで活動や仕事をする人がたくさんいてます。

取材も地域活動も楽しむ、いこまち宣伝部の皆さん。

行政は単年度予算主義のため、成果指標はどうしても短期的な評価や直接的な成果に目が行きます。仕方ないことですが、気持ちや行動の変化は1年間だけで分からないこともあると思うんです。

シティプロモーション施策に参加した100名以上に、地域で起きたポジティブな変化を聞いたことがありました。施策を通じて生駒への関心が高まり、年齢や所属を超えた関係性が広がって、数年かけてまちを推奨する気持ちや主体的にまちづくりに参画する意欲が高まっていったそうです。こうした変化は短期間で計測できない側面もあるのではないでしょうか。行政としては難しい点もありますが、数年単位での事業評価・分析の必要性を感じています。

シティプロモーション施策参加者の声から作った価値創造モデル。

広報は経営機能を有しているといわれています。単なる情報発信だけでなく、多様なステークホルダーと良好な関係を築き、まちを持続的に発展させることができる自治体広報を担っていけるように、たくさんの人が力を貸してくれるような広報担当者を目指していきます。

【次回のコラムの担当は?】
北海道北斗市役所 総務課広報広聴係の佐藤 亜矢子さんです。

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