鍵山優真のジャンプを支える研磨職人の情熱

「当日何時入り?なんかあったら呼んでな、かけつけるから」

全日本選手権当日は、大阪の会場に観客として参加しスタンバイしておくという。研磨が終わると、毎回恒例のツーショットを撮影し、鍵山選手の背中を見送った。

「今日もいつも通りの優真で安心しました。ハードスケジュールだと思うので、体調と怪我にだけ気をつけて頑張ってほしいといつも願っています。僕にできるのはそれだけ。たくさんの言葉をかけなくても、伝わっていると思うんで」

写真 小杉スケート横浜店と梅田本店にしかない特注の研磨機

全日本選手権前の調整で鍵山選手の靴を研磨する。小杉スケート横浜店と梅田本店にしかない特注の研磨機

フィギュアスケートのブレードの幅は、わずか約4ミリ。ブレードにはよく見るとU字の溝が入っており、氷の上に当たるのは左右の「エッジ」と呼ばれる部分だ。U字になっている溝を削り、その深さで「エッジ」の鋭さを調整する。溝を深くすると氷に引っかかりやすくなり、ごいちさんはこれを「氷への食いつきがよくなる」と表現する。ブレードを使い込んでいくとエッジの鋭利な部分が摩耗して、鋭さがなくなってくるため、定期的に研磨を行うことでエッジの鋭さを保つのだ。

しかし、ただエッジを際立たせればいいという単純なものではない。

「鋭ければ鋭いほどいいというわけじゃないんですよね。個人の好みにあわせて、削り具合を一人ひとり調整して研磨しています。なかには、ずっと研磨せずにそのままの状態のほうが滑りやすいという人もいる。本当に人それぞれなんです。

優真の場合は、以前は月1回のペースで研磨していましたが、2023年シーズンにブレードを変えてから、機械で研磨するのは年に1〜2回になりました。YSブレードは研磨してから同じポテンシャルの期間が長く続くという特性があるからです。それに加えて、大きな試合前は1週間から10日前くらいに来てくれるので、試合の日に最高の状態になるようにあわせて手仕上げのみで研磨します」

スライド ブレードの拡大図

ブレードの拡大図。エッジの部分が氷と設置する

 

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