少子高齢化やライフスタイルの変化により、企業やブランドが価値提供や顧客との関係づくりに難航する昨今。Z世代に対する有効な価値提供とは何か。
2025年2月に開催された「宣伝会議アドタイデイズリージョナル2025春」から、注目セミナーをレポート。カリモク家具の山田郁二氏は顧客とのリレーションシップについて、イロップの高橋洋介氏は顧客体験価値を作り出す取り組みについて、具体事例を交えて紹介した。
木製家具を国内製造・販売するカリモク家具
カリモク家具は、愛知・岐阜県に工場を持つ家具メーカー。グループ理念に「品質至上」、グループミッションに「木とつくる幸せな暮らし」を掲げ、資材工場を国内外に4拠点持ち、材料づくりから手がけている。ソファやテーブルなどの家具を専用工場で製造し、全国26カ所の営業所と、23カ所のショールームが顧客とのタッチポイントだ。
1947年の設立当時は紡織機の木部品製造などを手掛けていたものの、経営の安定化を目指して自社ブランドを立ち上げた。1962年に自社製品としての家具・第1号を製造し、1964年には販売会社を設立。家具は耐久消費財であることから、販売後も修理などのアフターサービスが必要になる。ユーザーとのリレーションシップは当時から紡がれており、現在もアフターサポートを重視している。
家具業界を取り巻く市場環境は、厳しい状況が続いている。
1987年に173万戸だった新築着工棟数は、2023年になると80万戸と約半減。婚姻件数の減少とともに、女性の社会進出、晩婚化、デフレの進行、住宅のビルトイン化により、婚礼家具需要が消滅し、家具小売店自体も減少の一途をたどっている。一方で安価な輸入家具やPB(プライベートブランド)商品が台頭し、「家具メーカーとして新たな顧客接点が必要だった」と山田氏は振り返る。
そこで、従来の得意先であった百貨店や家具小売店のみならず、住宅メーカーや工務店など、ユーザーに近い立場の企業に、ショールームを施主への接客に役立ててもらうことで、カリモク家具ユーザーを増やすことにも取り組んだ。
ターゲットを20~30代に再設定した「カリモク60」
そんな中で立ち上がった新ブランドが、「カリモク60」だ。「よいデザインとは何か」という問いかけを原点とするカリモク60は、「ロングライフデザイン」というコンセプトを元に価値観を再編集し、商品提案している。家具づくりを始めた1960年代から作り続けている商品に加え、一部の商品を復刻。ターゲットを20~30代のデザイン感度が高い層に設定。デザインを変えるのではなく伝え方を変える、いわば「ものづくりをしないものづくり」だ。販路も一から開拓した。ロングライフというコンセプトに従い、長く取扱いができ、且つターゲット層がみえる小売店をゼロから探したという。
カリモク60の立ち上げから10年間は右肩上がりで成長したものの、2014年をピークに下降。そんな時、メインターゲットとしていた若者とコミュニケーションをとる機会があり、「カリモク60を知っているか」と尋ねたところ、ほとんど知られていなかったことに愕然としたという。
改めてターゲット層の行動を確認したところ、雑誌やテレビではなくスマートフォンでの情報収集が圧倒的に多いことがわかった。その対策として、まずは顕在層に向けAmazonとの取引を2018年から開始した。当時は社内外での抵抗感が大きく、商品を限定してスタートした。また、2018年に発売されたカプセルトイは、シリーズ100万個を超える出荷となり、InstagramやXなどでユーザーによって拡散。これらの認知策もあってか2019年から回復傾向となった。
購買までの行動を再確認し、デジタルでの接点を創出
だが、2020年から始まったコロナ禍により、リアル店舗での顧客接点に制限が生まれた。そんな中でAmazonでの売り上げが増加していたため、自社ECを立ち上げることに。カリモク家具にとって、BtoBtoCがメインだった販売形態から、BtoCへの挑戦となり、まずカスタマージャーニーを作る所からのスタートだったという。
カスタマージャーニーでは、認知から興味関心、検討といったプロセス間において離脱が多く、ユーザーの買い方に合わせていく必要があることに着目。そこで、家具に関する情報をどこから得ているか、カリモクを知ったきっかけを尋ねるアンケート調査をショールームで実施した。情報収集手段はネット検索が1位であるにも関わらず、カリモクを知ったきっかけは「親や知り合い、友人」がトップという結果だったため、「ユーザー同士で情報交換するということの重要性に改めて気づき、SNSの必要性を実感した」と山田氏は語る。
2020年にはカリモク60のInstagramアカウントを取得し、デジタル上で顧客接点を生み出したほか、YouTubeでは初期疑問を解決することで、慎重購買になりやすい家具の購入意欲を高めることに専念。Google検索にも関連動画として表示されるため、ショート動画で認知を得て、長尺動画で興味関心を高め、ECやHP、得意先店頭やショールームで購買行動に移るという顧客動線が誕生した。
Amazonはレビューや納期を重視するユーザーが、自社ECは個別相談をしながら購入するユーザーが多く、ショールームは商品体験、接客サービスが求められているため、結果として全体的に離脱を防ぐことに成功した。最後に山田氏は、「生涯にわたって、ブランドに関与してもらえるかという視点を大切にしたい」と締めくくった。
オンラインでの顧客体験を提供する「髪色ケア診断」
ヘアカラーメーカー「ホーユー」の子会社であり、創業2年目を迎えるイロップは、オリジナル診断ツール「髪色ケア診断」や、髪色を長持ちさせたい人のためのヘアカラーケアブランド「irop(イロップ)」といったD2Cサービスを提供している。
同社の高橋洋介氏は、サービスの3つの特徴を説明。1つはホーユーのヘアカラー研究開発から生まれた確かな品質のカラーケア商品であること、一人ひとりの髪に合わせたパーソナル診断をサービスの軸としていること、髪を補修しながら髪色をキープするカラーケア商品「タス」と「マモル」を展開していることだ。オンライン人気1位のピンク、ハイトーンの黄ばみを抑えるラベンダー、暗めのトーンを維持するブラウン、店頭人気1位のアッシュ、黄ばみやくすみを抑えるパープルの、5色で展開している。
髪色ケア診断は、髪色やなりたい髪質に関する12の設問に回答するもの。診断ロジックは、色相、明度、彩度による髪色別のグループ分けをする「髪色の特定」、どうなりたいかを確認して、最適な商品や頻度を提案する「使用目的の確認」の2段階を経て、70タイプ以上の推奨色と推奨使用頻度を提案する。商品を使ってもらう前に顧客満足を高め、カラーシャンプーに対するネガティブマインドを払拭させることを狙いとしている。
購入の前段階で継続的なコミュニケーションを創出
体験価値を創るために、まずファネル設計を見直したという高橋氏。通常であれば、認知、興味関心、比較検討、購入、継続、紹介といったフェーズだが、購入の前に登録フェーズを設定。髪色ケア診断をオファーとして、公式LINE登録を導線上に組み入れた。これにより、商品購入に至らずとも、継続的なコミュニケーションが可能となる。広告においてもLINE登録をKPIとして、獲得数の効率化を飛躍させた。
また、UGCを活用し、ターゲットに則したクリエイティブ制作や広告展開に努めた。PRやギフティングにより共通のハッシュタグを設定し、自動収集ツールやインフルエンサープラットフォーム、ノーコードでの動画埋め込みツールを利用。WebサイトではBefore/After、使用動画、公式インスタグラムではリール動画、広告クリエイティブにはバナーやLP、公式LINEにはステップメールと、UGCを二次加工し、さまざまに活用した。また、インフルエンサーに企画から制作を含むすべての運用を委託したり、LINE運用はライティングや画像制作をインターン生に委託したりと、Z世代に寄り添ったクリエイティブを具現化させた。
既存ターゲット以外でのインサイトの創出
カラーシャンプー・トリートメント(以下、カラシャン)市場では、ブリーチカラーを施したユーザーがメインターゲットだった。だが、カラシャンユーザーはオンラインではなく量販店やヘアサロンで購入しており、カラシャン使用を止めた元ユーザーは、何かしらの失敗経験を持っていることが明らかとなっており、マーケットは狭いとされてきた。
そこでまず、マーケットを拡大させるためにポップアップを実施。髪色ケア診断を行った結果、CVRがオンラインの12倍となり、売上の3割はアッシュ(中明度)ユーザーが占めることが判明した。「カウンセリングを通じて、ニュアンスカラー志向層に、長年諦めていた悩みをカラシャンで解決できるという気付きを与えることができた」と高橋氏は振り返る。
さらにライブコマースでは、子育てママインフルエンサーを起用。美容室にいく時間がない「子育てママ層」に向けて、ブリーチしなくても使えることを訴求し、先入観を取り払ったことでターゲットが拡大。また部分白髪をほんのり目立たなくすることについても言及し、本格的な白髪染めにはまだ早い「アーリー白髪層」にもリーチした。高橋氏は「どちらもこれまでのターゲットではなく、中明度カラシャン市場への挑戦だった」と強調する。
サロンと協業し、win-winの関係に
これらのターゲットに体験価値を届けるには、「自分自身がターゲットである認識がないこと」が大きな壁となる。そこで、彼女らが絶対的な信頼を寄せるヘアサロンとの協業を試みた。ヘアサロンでの髪色ケア診断をきっかけに、顧客をオンラインへ集約し、カラシャンへの期待と信用を獲得。サロンへは30%のキャッシュバックを行っている。サロンとの協業は、オンラインマーケティング特有の先行投資リスクがなく、キャッシュフローは後で発生する。さらに投資額が上代を超えることがないこともメリットだ。「サロンできれいに染めた髪色を次に染めるタイミングまで保ち、キレイを継続させる」という体験価値を、イロップとサロンが一体となり提供することで、顧客満足を高めていく。
最後に高橋氏は「D2Cとはオンライン集約型ビジネス。オンライン完結型の単品リピートと異なり、顧客のインサイトに基づき、さまざまな体験を通じてオンラインに集客し、継続購入を促す必要がある」と締めくくった。
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