「炎上とコンプラへの恐怖」を捨て、広告で希望を放て〜『クリエイティブ・エシックスの時代』によせて(駒崎弘樹)

『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、認定NPO法人フローレンス創業者でつながりAI CEOの駒崎弘樹さんが『クリエイティブ・エシックスの時代』を紹介します。

多くの企業が「炎上」を恐れる時代。表現のレッドラインに怯え、無難な選択をする。そんな現状に真っ向から挑むのが橋口幸生氏の『クリエイティブ・エシックスの時代』だ。

この本の最大の価値は「現役の広告クリエイター」による表現との格闘の最前線からのメッセージであること。外野からの批評や分析ではなく、作り手自身が、新しい時代の表現倫理をどう捉えるべきかを説く。そこには、単なる「炎上回避マニュアル」を超えた、創造的な可能性が広がっている。

橋口氏は、コンプライアンスという名の「恐怖による自主規制」から脱却し、「ブランドをより魅力的に成長させるための倫理」へと視点を転換せよと説く。人権、ジェンダー、多様性、気候変動——これらの社会課題は、クリエイターにとっての「制約」ではなく「創造の源泉」になりうるのだ。

思い出すのは2019年、私たちNPO法人フローレンスとパンテーンが協働した「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンだ。高校等で、地毛が茶色くても黒く染めさせられる「黒染め指導」に疑問を投げかける広告をパンテーンが大展開し世論を盛り上げ、フローレンスはネット署名活動を広げた。そして最終的に東京都が黒染め指導の中止を表明するという具体的変化を生み出した。橋口氏が提唱する「クリエイティブ・エシックス」を手前味噌ながら我々NPOも実践していたと言える。広告表現が社会課題の解決に直結した瞬間であった。

本書を読めば明らかになるのは、エシックスへの取り組みが単なる「やらなければならない義務」ではなく、クリエイティブの新たな地平を切り拓く可能性を秘めているという事実だ。社会的責任と創造性は対立するものではなく、むしろ相乗効果を生み出す。

特に印象的なのは、具体例の豊富さだ。成功事例だけでなく失敗例も包み隠さず紹介し、その背景にある構造的問題にまで踏み込む誠実さには感服する。

「もう守りの姿勢はやめよう」—— 本書のメッセージはシンプルだ。時代の変化を恐れるのではなく、むしろその先頭に立ち、表現によって社会をより良い方向へ導くという攻めの姿勢への転換を促している。

クリエイターたちよ、恐れるな。コンプライアンスに縛られた消極的な表現より、社会課題と真摯に向き合い、それを解決に導く表現の方がよっぽど刺激的で面白い。炎上を恐れるのではなく、建設的な議論の火種となれ。表現で世界を変えられるなんて、ワクワクしないはずがない。

これからの時代、「エシカルであること」と「クリエイティブであること」は矛盾しない。むしろ、その両立こそが最も挑戦的で創造的な営みとなるだろう。『クリエイティブ・エシックスの時代』は、その道筋を示す貴重な一冊である。

さあ、読んで、あなたもあなたの表現によって、希望を放て。

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駒崎弘樹(こまざき・ひろき)

つながりAI株式会社CEO。認定NPO法人フローレンス創業者。2004年にフローレンスを創業後、病児保育、こども宅食、赤ちゃん縁組など数々の福祉事業で社会課題を解決。厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、こども家庭庁「子ども・子育て支援等分科会」委員等の公職を歴任。2025年2月「相談AI」で困った人々を助けるスタートアップ「つながりAI株式会社」を起業。2児の父。

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