継続できる企業は何が違う? BtoBオウンドメディアにおける成功の“勘所”

営業サイドと連携した「流通」から「リード・ナーチャリング」にフォーカス

BtoB企業におけるオウンドメディアの活用をテーマに全5回で解説してきた本連載も、今回で最終回です。
今回は「BtoBオウンドメディアにおける成功の勘所」と題して解説していきます。今回で最終回となるため、ツール、テクニックといった細かいところは極力省き、経験上お伝えすべき重要事項に絞ってお話したいと思います。

下図は第3回の連載記事「BtoBオウンドメディアの企画/構築フェーズ1 コンテンツ企画と目標設計」で紹介した図の再掲です。

運用フェーズにおいては「制作」→「流通」→「リード創出・育成」→「分析」が基本サイクルとなりますが、今回は図の右下にある営業サイドと連携した「流通」からコンバージョンとなる「リード・ナーチャリング」にフォーカスし、最後に運用全体についてお話しします。


グラフ その他

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オウンドメディアの「運用」がうまくいっているとは、どのような状態?

詳細について説明をする前に、皆さんに質問です。そもそもオウンドメディアの「運用」がうまくいっている」とはどのような状態だと考えますか? 私は一般的に以下の環境が作られている状態だと考えます。

  1. コンテンツが計画通り制作され公開されている
  2. 営業サイドとの連携が密に行われている
  3. 必要な経費確保が継続されている

それでは、上にあげた3つのポイントについてそれぞれ解説していきたいと思います。

1. コンテンツが計画通り制作され公開されている

私は、オウンドメディア管理者の8割以上が課題としているのがコンテンツの質量確保だと考えています。そして、多くの場合、コンテンツ制作が滞る要因は人に関連する課題です。

一番に上げられる課題は優秀な編集者やライターの継続確保が難しい事(優秀な人は高額引き抜きが多い)です。このような状況が続くとサイト閉鎖に至こともあり、実際新規オウンドメディの半数近くは一年以内にこのような状況になっているといわれています。

コンテンツや運用を外部に委託している場合を除き、内部対策として属人スキルを排除したうえで、制作陣との密接なコラボレーションが有効です。その実践のための具体策が以下となります。

① マニュアルやガイドの作成と周知(コンセプト、ペルソナ、戦略、プロセス、品質、評価、)
② 関連組織やチームのスケジュールおよびその進捗の全体共有
③ コラボレーションプラットフォームの導入(遅延作業への支援、アイデア出し、相互指摘)
④ コンテンツのアセット化と再利用(アセット管理方法を確立し、簡単で早いコンテンツを開発)

2.営業サイドとの連携が密に行われている

一般的にオウンドメディア側と営業側の連携はスムーズにいかないケースが多くあります。

理由としては、オウンドメディアの成果(リード獲得、ナーチャリング)と営業成果(成約)のつながりが見えにくいことやオウンドメディア側における営業マインド不足、さらにオウンドメディアが新設組織で社内影響力が不足していることなどが上げられます。連携を密に行うための具体策としては以下が有効です。

① 営業成果をオウンド側評価指標に一部組み込む
② ユーザー事例関連コンテンツ作成を営業ミッションとする
③ コンテンツ運営と営業の体制(マネジメント)一体化(動的な変更:プロジェクト化⇔組織)

3.必要な経費が継続確保されている

これまでに閉鎖されたオウンドメディアを見ていくと、その理由は複合的な要因であるものの、経費削減がその理由の筆頭になっていると思います。逆に継続的に経費予算が計画され執行されている場合、次のような社内光景が見られます。

  • 経営陣が定期的に報告を求めてくる
  • 年度計画で満額経費計上がされ、経理からの予算縮減要求もない
  • 従来の広告費をオウンドメディア関連経費に充当する流れができている
  • 経営からの外部発信が既存メディアではなく自社オウンドメディアを通して行われている。
    ※トヨタ自動車は自社オウンドメディア「トヨタイムズ」での発信を基本としており、従来のオールドメディアへの発信に先んじて行っている。また「トヨタイムズ」は一般オーディエンスを想定している自社公式HPよりファンに向けたタイムリーかつユーザーフレンドリー仕立てで発信している。

もちろん、上記のような状態は自然にできるわけではなく、オウンドメディアから経営陣への成果共有と共感を促す以下のような取り組みが必要でしょう。

  • 狙いのペルソナにリーチでき、ファン化することに成功している(ブランドが広がっている)
  • ファンの意識、嗜好が見えている(今、何が起きているのか)
  • 施策や事業に影響を与えるようなファンとの有益な双方向コミュニケーションができている(期待されているものは何か)

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「運用」フェーズにおける、コンテンツ「流通」の留意点とは?

次に運用フェーズのプロセスで「コンテンツの流通」について触れていきます。流通手法には以下があります。

グラフ その他

上に記した手法はオウンドメディアにおいては、オーソドックスな流通拡散方法ですがBtoBの場合は特に、オーガニック流入を狙ったSEOとナーチャリングを行うメルマガの2つが特に重要です。

【SEO】 Google検索上位に来る工夫はもちろんですが、コンバージョン率を高めるための専門的な用語や複数用語を組み合わせたロングテールキーワードなどを恒常的に更新する事が求められます。
【メルマガ】 メルマガはリードから商談、成約後までの長い複数プロセスで有効です。ですが昨今の開封率の低下は顕著でそれを抑制する意味でパーソナライズが重要です。とは言え厳密なパーソナライズは非常にハードルが高く、高度なIT基盤整備と顧客情報一元化などが前提となり非常に時間がかかります。

実はデジタルマーケティングを推進する大手企業でもパーソナライズまで到達できているところは少数派です。せいぜい業種や分野でセグメントしてメール内容を仕分け発信している程度です。

BtoBのオウンドメディアの営業連携型(「動的」オウンドメディア)であれば、パーソナライズをITで完璧にするよりインサイドSAや営業からの断片的な顧客情報を組み合わせたハイブリッドなパーソナライズが現実的です。当然パーソナライズできる顧客は限定的となりますが、もともとBtoBですのでよりエンゲージの高い顧客に絞ることで成約率を高めることはできます。

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営業につながる「リード・ナーチャリング」の極意

次に運用フェーズの中のプロセスである「リード・ナーチャリング」について触れていきます。コンバージョンにつながるこのプロセスでの主なポイントは以下となります。

① MA(マーケティングオートメーション)におけるタイムリーなステップメール配信
② 入手し難い高い専門性のWP(ホワイトペーパー)
③ Webや電話問い合わせ(初回接触)からのコールバックレスポンススピード
④ 顧客属性及びトレンド情報の事前収集(企業情報の有料購入)
⑤ BtoB特性を意識した手書きDM、インサイドSAの肉声での様子伺い課電等アナログコミュニケーション

上記で掲げたポイントについて、メインとなる手法を抜き出して解説していきます。

【ステップメール】 MAのステップメールはリード量確保に貢献し、通常メールに比較し数十倍の開封率と倍近いクリック率を記録します。ちなみに差し込み機能(馴染みのSA指名を入れる)を使った場合更に高い開封率となります。

【WP(ホワイトペーパー)】 WPはブランド価値を上げるため、必須となります。社内専門家による十分な質量のWPストックを準備してください。

【問い合わせコールバック】 レスポンス速度は重要で概ね5分以内の回答を目安に情報と体制を構築する必要があります。10分以上だと問合せマインドが薄れたり(興味の消失)、競合他社へのシフトが生じます。当然インサイドSAや情報の質量が前提となるのでパーソナライズと同様ハードルが高いです。がFAQや有人チャット/AIチャットボット等で工夫しながら同時並行で体制と情報整備を着実に進めてください。

【情報収集】 社内で蓄積した情報は網羅性に限界があります。有料サービスを外部から購入することを検討ください。企業属性情報だけでなく、信用、コンプライアンス、安全保障等もサービス提供されており、初動対応や商談方針の決定を素早く適切に行うことができます。

【アナログコミュニケーション】 手書きのDMの開封率は100%です。またインサイドSAを指名した個別問合せ対応も好感度が高いです。このようなアナログ原点回帰もエンゲージを高めてくれます。

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改善×セキュリティ対策×メンタルケアが運用の要

最後に運用フェーズ全体のプロセスで最重要な取り組みを3つお伝えします。

① SEOによるオーガニック検索強化
② バックアップリカバリー
③ 周辺従事者のメンタルケア

【SEOオーガニック検索強化】 常に工夫し改善し続けなければならないこととしてSEO対策があります。そのSEO対策もBtoBオウンドメディアならではの社内専門家と意識高いオウンドメディア運用区の担当者の日々研鑽が必須です。ですが、良くある話として社内専門家が在籍するような社内関連組織から離れ、オウンドメディア組織が孤立することです。納期通りコンテンツを作成・公開してそれで仕事が完了したような錯覚が蔓延する運用です。これは自発的もしくは受動的にそのような状況を作っている可能性があります。これを改善する有効策として積極的に分析業務を習慣化するということです。マネージャーから担当者まで日々分析を行い、コンテンツや広告、SEO等の改善を繰り返すことです。

このようにすることにより本来の目的を見失わず自立的に健全化し、必然的に関係区との関係も良好になります。分析作業は主にWebとSNSが対象で以下のようなものがあります。

以下は主な分析すべき内容です。

グラフ その他

また、分析業務と同時に行ってほしいのは、分析結果を基にした次のアクションです。そのアクションの中でも特に日常業務で行ってほしいことにTAG管理とキーワードチューニングの2つがあります。それぞれ目立たぬ地味な作業でとかく優先順位が下がりますが、これらがタイムリーに適切に行われていれば最高のパフォーマンスを発揮でき、成果を得られます。

【バックアップリカバリー】 運用中には、様々なことが起こります。これらに冷静に素早く対応し、安定した運用を実現しなければなりません。以下のリカバリー対策を行ってください。

グラフ その他

実際、サイトにアクセスできなくなったり、問い合わせを留保されたり様々な障害が起こります。その際のファンの方々の失望感や嫌悪感、更には対応が長期化すれば企業信用にもかかわってきます。しっかりしたリカバリーが出来るように準備しましょう。

【メンタルケア】 関係者のメンタルが維持されていれば多くの場合、運用は順調にいきます。メンタルが健康であればオウンドメディアの劣化を防ぎ、離職といった致命的な出来事もなく、運用を継続できます。ですがBtoBオウンドメディアの「動的サイト」は業務上、常に口コミや問い合わせなどカスハラ最前線であることに注意が必要です。そこでカスハラの受け皿となる人や組織、仕組みが必要です。特に口コミ監視対応担当者や問合せに応答するインサイドSAへのメンタルヘルスケアは十分に行うべきです。BroCに比較して極端ではないにしろ、誹謗中傷、クレームがある現場です。しっかりした組織対応が求められます。

以上のようにオウンドメディアは経営、人、資金、仕組み、情報等の多くの要素が上手く連携し、始めて円滑な運営ができれば、成功するといえます。ですが実際は経営陣の無関心、成果の不透明さ、インサイドSAの萎えやすいメンタル、レガシー既存システムの縛り等など様々な課題が存在しています。

昨今のメディアを見てもわかる通り、すでにオールドメディアの威勢はなく、今後はますますユーザーから遠ざけられていき、同時に企業自らが発信することにシフトが始まっています。その流れは今後さらに加速していくと思われます。また発信だけでなく、次の事業展開がユーザーとの双方向コミュニケーションから始まる時代となり、SNSとの相性の良いオウンドメディアの重要性は一層高まっていきます。

いま多くの企業がオウンドメディアに挑戦しています。それらの中には挫折するケースも見られます。ですがその挫折の分だけ成功への勘所が明らかになってきているとも言えます。挑戦する企業へ、それら「成功への勘所」を届けられたと思いコラム執筆を受けました。果たして届けられたか自信がありませんが少しでも挑戦する企業の一助になれば幸いです。

BtoBオウンドメディアの深さはデジタルマーケティングそのものです。それらをコラムでお伝えするのは非常に難しく、常に悩みながら進めてきました。ときとして細部に至る部分もあり、理解しにくい箇所もあったと思います。またオウンドメディアとは関係ないと思われる内容もあったと思います。が、自身の実体験を通じて伝えたほうが良いと思うところをお話ししました。不明や難解部分などあればお気軽にお問い合わせ頂ければ幸いです。
ありがとうございました。

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羽賀芳昭氏

    デジタルLABO代表/フリーランス(マーケティングコンサルタント)

1982年、大学卒業後IBMオフコンのフィールドSEを経験、更に東京中心に中小金融機関(外為円決済システム、全銀協システム)やASCII通販システムなどを外販パッケージ化、商品展開を行う。
1988年、リコーに移籍、テクニカルSEとして企業レベルの重大障害における問題判別を担当、更に経営に近いポジションでの事業戦略や計画、商品企画などを行いリコーソリューション事業拡大に貢献。
その後、改革テーマに従事。IT子会社の黒字化や全社デジタルマーケティング立上、インサイドSA体制構築及び営業部門長担当、更にSFA/CRM導入なども担当。
現在はフリーランスとして企業のデジタル戦略やそれを推進する組織づくりやIT基盤などのコンサルティングを行っている。

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